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帝位継承権争い?興味ねえ!
前世は日本人だったらしい
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「殿下!しっかりしてください、殿下!」
遠くで護衛騎士が私を呼ぶ声が聞こえる。だけど私はそれに答えることが出来ない。何故なら今私の中にはもう一人の人生の記憶が、滝のように流れ込んでいるから。
あれ……?私は一体……?この記憶の主は誰……?
私は熱に呑まれるように意識を失った。
* * *
深い闇の中で俺は前世の記憶を思い出した。
俺は極普通の日本人男性だった。社会人として毎日仕事をこなし、時に友人と飲んで、休日には趣味の歴史書漁りに明け暮れていた。本当は大学で日本史学の勉強がしたかったけど、母親はシングルマザーで下には二人の弟妹がいたため、経済環境に恵まれず断念。高卒で地元の企業で働いていた。
そんな俺の最後は随分呆気ないものだった。残業続きでヘトヘトになっていた会社帰りに、通行人とぶつかりよろめいて、そのまま車道へダイブ。そこに運悪く2トントラックがやって来て……。後はご想像にお任せする。自分の死に様なんて口にしたくないし。
そしてそこで終わるはずだった人生。だが輪廻転生だかなんだかよく分からんが、摩訶不思議な力が働いて、俺は第二の人生を送っていた。
エルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララ。長ったらしいこの名前の持ち主が、今世の俺だ。ハーララ帝国第四皇子で第二皇妃の長男。強面の皇帝父上と悪役ヅラの皇妃母上のどちらに似たのか皆目見当もつかない可愛らしい容姿。現在10歳の天使のような少年だ。だがそんな外見とは裏腹に内面は母親の傀儡で、母親の指示で皇帝の座を虎視眈々と狙う野望者。他の次期皇帝候補を蹴落とすことを苦にしない冷淡な悪魔だ。まだ10歳であるため何か実力行使をした訳ではないが、母親の腹黒さを着実に引き続いできている。いつか異母兄弟を暗殺とかしちゃうんじゃないか?
とまあ外見天使中身悪魔な危険人物予備軍である今世の俺だが、この性格は一重に母親の教育に問題があった。母親は元々この国の男爵令嬢だったが、他の皇妃候補を蹴落として第二皇妃の座を手に入れた野心家だ。母親は正妃……つまり皇后を目指していたらしいが、最後の最後まで男爵令嬢という身分が邪魔して無念にも果たせなかった。それをすごく根に持ってるらしく、息子の俺を皇帝にすることで皇太后になろうと目論んでいる。
そんな母親の期待を背負った俺は、母親に洗脳のような教育を受け、皇帝になることが自分の使命だと思い込まされていた。幼い子供にとって母親の言葉は絶対。そんな母親から呪文のように、次期皇帝になるのよ、その為に邪魔者は排除しなさいと言われてきたら、そりゃ性格歪むよな。仕方ない。エルネスティは被害者だ、うん。
でも今は違う。前世の記憶を思い出し、傀儡だった空っぽの魂から前世の自分で言うのもあれだが図太い魂に入れ替わったんだ。今までのように母親の操り人形のままでいるつもりは全くない。今までは母親が恐怖の対象だったけど、よくよく考えたら顔だけ悪役でそんな怖くない。
突然だがこの世界には魔法が存在する。人間は先天的に魔力を持っており、それぞれに適正属性がある。魔力量や魔力を操る力には個人差があるようで、ほとんど魔法を使うことが出来ない人もいる。俺の護衛騎士もそうだったはず。
そして俺ことエルネスティは全属性が適正であり、魔力量が人間とは思えないほどたくさんあり、しかもそれを操り魔法とする能力も異常に高い。つまり魔法に置ける天才。向かうところ敵無しと言っても過言ではない。魔法は使い方を誤れば人を殺しかねない。俺の今の能力ならこの国を一瞬で滅ぼすことだって、不可能では無い。つまり俺は魔法においては絶対的な恐怖対象なのだ。人並みの魔力しか持たない母親など、恐るるに足りず。
なら何故そんな人間兵器みたいな俺が母親を恐れていたか。それは赤子の頃からの刷り込みである。この国の赤子は皇族であれ平民であれ、生まれてすぐに魔力量検査を行う。そこで俺の異常な魔力量を知った母親は、俺に恐怖しただろう。下手に自我を持たせたら、皇帝になることを強要する自分に反抗して魔法で大変なことを仕出かすかもしれない。だから物心がつく前から母親である自分の存在を絶対とするよう魔法を使いながら刷り込んで、人間兵器をなんとか操り人形にしたのだ。
まあその努力も俺が前世の記憶を取り戻したことによって水の泡なんだけどな。俺は皇帝になるつもりなんてない。ハーララ帝国はこの大陸最大の国。治世が大変ったらありゃしない。多忙で禿げるわ。それに弱肉強食風潮があるから、皇帝の座目当てにいつ殺されてもおかしくない。命大事。
そして何より、跡継ぎをたくさん産む必要があるから、たくさんのお嫁さんを娶らなければならない。一夫一妻が常識だった前世の記憶があるからキツい。全員愛せる自信がない。いやこの国では一夫多妻はもちろん、同性婚も普通にあるけど……そこに愛があれば別に良いと俺は思う。割と前世では童貞の癖に結婚に夢描いてた方だから、美人なお嫁さんに囲まれてハーレムひゃっほいは地雷。逆に同性だろうがお互いを愛し合っている関係にはすごく憧れた。
とまああれこれ考えたんだけど、これからどうしよう。まず母親脅し……ゲフンゲフン、説得して自由を手に入れて、帝位継承権争いには興味ござらんってことアピールしつつ、自分の好きなことをしたい。好きなこと……前世では歴史だったけど、今世では……魔法陣かな。魔法陣学究めることって、歴史学ぶことにも繋がるし。皇帝の座に興味ねえってアピールするのにも丁度良い。
何故丁度良いかって?昔にいたんだよ。皇帝なのに呪術の研究に明け暮れて国を放ったらかしにした暗君が。その時国が乱れに乱れまくったから、何か一つの学問を究めている人だったり、専門的な研究を行っている人は皇帝になれないという暗黙の了解が出来たんだ。俺は母親に皇帝になるよう言われていたから、魔法陣学に興味があったけど学ぶことを許されなかった。自分でも学べないことが当たり前だと思ってた。
でもそれは間違いだ。これでもこの国の皇子だから、普通の人が目にすることの叶わない重要な書物を読むことだってできる。研究に必要な材料を取り寄せることだって出来る。その学問に関心があって、それを究めることが出来る環境が整っているのに諦めてしまうなんて、勿体ない。前世の俺は環境に恵まれなかったから諦めるしかなかったが、今世では違う。環境、身分、能力、意欲。全て整っているのにしないなんて、愚かだ。
よーしそうと決まれば即行動だ!さっさとこの暗闇から出て、母親を脅し……ゲフンゲフン、説得しに行くぞ!
遠くで護衛騎士が私を呼ぶ声が聞こえる。だけど私はそれに答えることが出来ない。何故なら今私の中にはもう一人の人生の記憶が、滝のように流れ込んでいるから。
あれ……?私は一体……?この記憶の主は誰……?
私は熱に呑まれるように意識を失った。
* * *
深い闇の中で俺は前世の記憶を思い出した。
俺は極普通の日本人男性だった。社会人として毎日仕事をこなし、時に友人と飲んで、休日には趣味の歴史書漁りに明け暮れていた。本当は大学で日本史学の勉強がしたかったけど、母親はシングルマザーで下には二人の弟妹がいたため、経済環境に恵まれず断念。高卒で地元の企業で働いていた。
そんな俺の最後は随分呆気ないものだった。残業続きでヘトヘトになっていた会社帰りに、通行人とぶつかりよろめいて、そのまま車道へダイブ。そこに運悪く2トントラックがやって来て……。後はご想像にお任せする。自分の死に様なんて口にしたくないし。
そしてそこで終わるはずだった人生。だが輪廻転生だかなんだかよく分からんが、摩訶不思議な力が働いて、俺は第二の人生を送っていた。
エルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララ。長ったらしいこの名前の持ち主が、今世の俺だ。ハーララ帝国第四皇子で第二皇妃の長男。強面の皇帝父上と悪役ヅラの皇妃母上のどちらに似たのか皆目見当もつかない可愛らしい容姿。現在10歳の天使のような少年だ。だがそんな外見とは裏腹に内面は母親の傀儡で、母親の指示で皇帝の座を虎視眈々と狙う野望者。他の次期皇帝候補を蹴落とすことを苦にしない冷淡な悪魔だ。まだ10歳であるため何か実力行使をした訳ではないが、母親の腹黒さを着実に引き続いできている。いつか異母兄弟を暗殺とかしちゃうんじゃないか?
とまあ外見天使中身悪魔な危険人物予備軍である今世の俺だが、この性格は一重に母親の教育に問題があった。母親は元々この国の男爵令嬢だったが、他の皇妃候補を蹴落として第二皇妃の座を手に入れた野心家だ。母親は正妃……つまり皇后を目指していたらしいが、最後の最後まで男爵令嬢という身分が邪魔して無念にも果たせなかった。それをすごく根に持ってるらしく、息子の俺を皇帝にすることで皇太后になろうと目論んでいる。
そんな母親の期待を背負った俺は、母親に洗脳のような教育を受け、皇帝になることが自分の使命だと思い込まされていた。幼い子供にとって母親の言葉は絶対。そんな母親から呪文のように、次期皇帝になるのよ、その為に邪魔者は排除しなさいと言われてきたら、そりゃ性格歪むよな。仕方ない。エルネスティは被害者だ、うん。
でも今は違う。前世の記憶を思い出し、傀儡だった空っぽの魂から前世の自分で言うのもあれだが図太い魂に入れ替わったんだ。今までのように母親の操り人形のままでいるつもりは全くない。今までは母親が恐怖の対象だったけど、よくよく考えたら顔だけ悪役でそんな怖くない。
突然だがこの世界には魔法が存在する。人間は先天的に魔力を持っており、それぞれに適正属性がある。魔力量や魔力を操る力には個人差があるようで、ほとんど魔法を使うことが出来ない人もいる。俺の護衛騎士もそうだったはず。
そして俺ことエルネスティは全属性が適正であり、魔力量が人間とは思えないほどたくさんあり、しかもそれを操り魔法とする能力も異常に高い。つまり魔法に置ける天才。向かうところ敵無しと言っても過言ではない。魔法は使い方を誤れば人を殺しかねない。俺の今の能力ならこの国を一瞬で滅ぼすことだって、不可能では無い。つまり俺は魔法においては絶対的な恐怖対象なのだ。人並みの魔力しか持たない母親など、恐るるに足りず。
なら何故そんな人間兵器みたいな俺が母親を恐れていたか。それは赤子の頃からの刷り込みである。この国の赤子は皇族であれ平民であれ、生まれてすぐに魔力量検査を行う。そこで俺の異常な魔力量を知った母親は、俺に恐怖しただろう。下手に自我を持たせたら、皇帝になることを強要する自分に反抗して魔法で大変なことを仕出かすかもしれない。だから物心がつく前から母親である自分の存在を絶対とするよう魔法を使いながら刷り込んで、人間兵器をなんとか操り人形にしたのだ。
まあその努力も俺が前世の記憶を取り戻したことによって水の泡なんだけどな。俺は皇帝になるつもりなんてない。ハーララ帝国はこの大陸最大の国。治世が大変ったらありゃしない。多忙で禿げるわ。それに弱肉強食風潮があるから、皇帝の座目当てにいつ殺されてもおかしくない。命大事。
そして何より、跡継ぎをたくさん産む必要があるから、たくさんのお嫁さんを娶らなければならない。一夫一妻が常識だった前世の記憶があるからキツい。全員愛せる自信がない。いやこの国では一夫多妻はもちろん、同性婚も普通にあるけど……そこに愛があれば別に良いと俺は思う。割と前世では童貞の癖に結婚に夢描いてた方だから、美人なお嫁さんに囲まれてハーレムひゃっほいは地雷。逆に同性だろうがお互いを愛し合っている関係にはすごく憧れた。
とまああれこれ考えたんだけど、これからどうしよう。まず母親脅し……ゲフンゲフン、説得して自由を手に入れて、帝位継承権争いには興味ござらんってことアピールしつつ、自分の好きなことをしたい。好きなこと……前世では歴史だったけど、今世では……魔法陣かな。魔法陣学究めることって、歴史学ぶことにも繋がるし。皇帝の座に興味ねえってアピールするのにも丁度良い。
何故丁度良いかって?昔にいたんだよ。皇帝なのに呪術の研究に明け暮れて国を放ったらかしにした暗君が。その時国が乱れに乱れまくったから、何か一つの学問を究めている人だったり、専門的な研究を行っている人は皇帝になれないという暗黙の了解が出来たんだ。俺は母親に皇帝になるよう言われていたから、魔法陣学に興味があったけど学ぶことを許されなかった。自分でも学べないことが当たり前だと思ってた。
でもそれは間違いだ。これでもこの国の皇子だから、普通の人が目にすることの叶わない重要な書物を読むことだってできる。研究に必要な材料を取り寄せることだって出来る。その学問に関心があって、それを究めることが出来る環境が整っているのに諦めてしまうなんて、勿体ない。前世の俺は環境に恵まれなかったから諦めるしかなかったが、今世では違う。環境、身分、能力、意欲。全て整っているのにしないなんて、愚かだ。
よーしそうと決まれば即行動だ!さっさとこの暗闇から出て、母親を脅し……ゲフンゲフン、説得しに行くぞ!
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