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帝位継承権争い?興味ねえ!

魔法陣はロマン

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俺が落ち着いた頃、ヴァイナモを連れて宮殿図書館に向かった。まずは魔法陣学に関する文献を読み漁って、どんな研究を始めるか決めるのだ。

「へえ……つまりお家騒動から逃げるために騎士団に入団したのですね。そこから最年少近衛騎士が誕生するんですから、人生何が起きるかわかりませんね」

「いえいえ、私は運が良かっただけでして。まだまだ未熟ですから。最年少近衛騎士だとか持て囃されるのは苦手でして……」

「ヴァイナモはもっと自分に自信を持って良いと思いますよ。運であれ、すごいことには変わりありませんので」

図書館への道中、俺はヴァイナモの騎士団入団までの経緯を聞いていた。宮殿護衛騎士や宮殿職員などに、すれ違いざまに凝視されたが。まあ無感情・無表情・無関心・無口だった俺がいきなり護衛騎士と親しげに話していたら天変地異かと思うわな。てか俺が倒れてたことも知れ渡ってただろうし。

まっ、他人の目なんて気になんないけどな!メンタル金剛って言われた前世の俺を舐めるなよ!

まあそんなことより、ヴァイナモの話だ。ヴァイナモには当然のことながら、上に二人の兄がいる。普通なら次期伯爵当主は長男が継ぐはずなのだが、当の長男が生まれながらに病弱。多忙な領主の仕事が出来そうにないらしい。普通その時は次男が次期当主になるのだが、面倒なことに次男は庶子でヴァイナモは嫡出子なのだ。うん、泥沼必至。伯爵家内で次男派、三男派、さらに長男派まで派閥が出来てしまい、実家がすったもんだらしい。次男から毒を盛られたり暗殺者を差し向けられたりして、「こんな実家いてられるかっ!」となって帝都に飛び出し、騎士団に入団を希望したそうだ。元々剣術に優れていたヴァイナモは試験に一発合格し、晴れて実家のゴタゴタから解放されたと言う訳だ。

文は政を以て皇帝を支持し
武は剣を以て皇帝に忠誠し
民は税を以て皇帝に感謝す

帝国のあり方を記した『皇帝説』という書物の一文である。文は貴族、武は騎士や軍人、民はその他の国民を意味する。つまり貴族は良い政治や領地運営で、騎士や軍人は武術の腕で、民は租税で皇帝に誠意を見せろという訳だ。これに基づいてかこの国では、騎士団や帝国軍に一度入団した者は領主貴族や法衣貴族などの政治関係の爵位は継げず、武功を上げれば名誉貴族という武人専用の、日本で言う『国民栄誉賞』みたいな爵位を与えられるようになっている。

色々説明したがまあ要するにヴァイナモは「実家の爵位継ぐつもりはないよ!」という意思表示のために騎士団に入ったということだ。しかも当時13歳で。この国の成人は15歳であるため当時未成年だった訳だが、見習い騎士から始めれば未成年でも騎士団に入れるらしい。そこから一年余りで近衛騎士団配属になったのだから、なんかもうすげぇとしか言いようがない。現在16歳とのことだから、俺とは6歳差。

……待って待ってそんなに年齢近いの!?顔つきやら体型やらが大人びてるから、てっきり一回りは上だと思ってた!まだまだ成長期じゃん!今でも背が高いのに、もっと伸びるの!?やめて!俺は小柄で華奢なんだぞ!?ただでさえ見た目だけ・・か弱い美少年自分で言うなしが、もっと目立つじゃん!

俺はこれ以上背が伸びるなとヴァイナモに念を送る。ヴァイナモはいきなり俺に恨みの籠った視線を向けられ当惑する。

「あの、ええっと、その~……図書館行って何をするんです!?」

焦って敬語が崩れたヴァイナモがおかしくて俺はクスリと笑った。ヴァイナモは揶揄われたと思ったのか、ジト目でこちらを見てくる。

「そう言えば言ってなかったですね。魔法陣学の研究のためですよ」

「……えっ?魔法陣学ですか?何故態々殿下が?」

ヴァイナモはぽかんと口を開けた。無理もない。この世界における魔法陣学は、魔法を不得手とする者のための学問とされている。魔法無双な俺TUEEEEのテンプレ街道を爆走する俺には似つかわしくないのだ。

だけど俺はその認識がおかしいと思う。魔法と魔法陣は全く別物だ。静止画と動画ぐらいの差はある。……え?例えがわかりずらい?すまんな俺ボキャブラリー少ないんだ失敬失敬。

「魔法陣には無限の可能性が秘められていると私は思うんですよ。今から研究が楽しみです」

魔法陣への夢が抑えきれず自然と頬が緩んだ。ヴァイナモは首を傾げつつも、楽しそうな俺を見て親が子を見守るような慈愛の笑みを零した。

……くっ。精悍堅物系イケメンがそんな優しい笑みを浮かべるな心臓に悪い。


* * *


さてさてそんなこんなで図書館に着いた訳ですが、司書さんには二度見され、魔法陣学専門書を置いている小部屋へ向かう後ろ姿を凝視され、大変不快な思いをしました俺は部屋一面の本棚に興奮が抑えきれません。

……ん?不機嫌じゃないのって?この素晴らしい本の量を見てどうして落ち着いていられるか!しかも全て魔法陣学関連だぞ?楽園かここはっ!!

魔法陣学は魔法が不得手な人の学問というレッテルが貼られているが故に、その単語を見るのすら嫌うプライドの高い上位階級の方々の要望で、図書館の隅の物置のような小部屋に押し込まれている。不遇で肩身の狭い魔法陣学の書物の面々ではあるが、今の俺にとっては良い環境だ。誰にも邪魔されず、本を探すためにだだっ広い図書館中を見て回る必要もない。物書き用の机と椅子は埃を被っているとはいえちゃんと二人分あるし、研究には申し分なし!

「むっふふ~何から見ましょうかあ~?やはり最初は入門書でしょうかあ~?」

今まで不機嫌だったのが急に上機嫌で鼻歌を歌いだした俺にヴァイナモが若干引いている気がするけど、気にしない!人の目を気にして研究が出来るかっ!?

俺はひょいひょいっと3冊ほど本を取り出した。高い場所の本はもちろん魔法で。俺って平均より身長低いからなあ……成長したい。そうこうしているうちにヴァイナモが椅子と机の埃を落としてくれていた。俺何も言ってないのに……ぐう有能。

俺は早速本を開く。自慢じゃないが、俺は本を読むスピードが速い。斜め読みが得意なのだ。だからサクサクッと取り出した本を読み切って、実践したい。

俺が本を読み終え顔を上げたとき、ヴァイナモがサンドウィッチと紅茶を差し出してくれた。

「研究に夢中なのは良いことですが、休憩しましょう。お昼の時間ですよ」

キュウ~っとお腹がなり、ちょっと恥ずかしがりながら時計を見ると、いつもの昼飯の時間より1時間ほど過ぎていた。……マジ?集中しすぎて腹の減りに気づかなかった。サンドウィッチはヴァイナモが近くの図書館職員に料理人に作るよう指示するよう頼んだらしい。紅茶はヴァイナモが淹れたそうだ。えっなんなの俺の専属護衛騎士がぐう気が利くんですけど。護衛騎士というより執事じゃね?

俺はもしゅもしゅとサンドウィッチを食べ、お茶で一服し、遂に魔法陣の実践にとりかかった。周りの本に被害が及ばないよう結界を貼り、真っ白な紙に自分の魔力を込めたペンで初級魔法陣を描いていく。魔力の操作が下手な人でも出来るよう、魔法陣を描く専用の魔力が篭ったペンも存在するが、俺が持っているはずもない。てゆうか自分の魔力で描けばいいんだから必要ない。

そして出来上がった魔法陣に、俺はドキドキワクワクしながら指の先で触れる。そして魔力を魔法陣へ流し込み……。

ボワッと魔法陣から炎が上がった。




* * * * * * * * *




2020/07/17
○注釈◯
『ぐう』
ネットスラングのひとつであり、『ぐうの音も出ない』の略。本作品では『とても』『凄く』の意で使用しております。

2020/12/29
誤字修正しました。
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