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人間関係が広がるお年頃
舐めた真似しやがってと威嚇する
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昼休憩が終わり、合同訓練が再開された。ユスティーナ義姉上は午後から用事があるらしく、帰ってしまった。ヴァイナモはまだ昼食中で、護衛は引き続きオリヴァがしている。
「……なんか視線が煩わしいですね」
「これでもヴァイナモが睨みつけてくれたお陰で、少なくはなったのですけどね」
「俺が舐められているってことですね……」
オリヴァは眉を顰めた。帝国軍の軍人からの視線はほぼ無くなったが、王国騎士団からの視線はまだ残っている。ヴァイナモがいないからこそ今のうちに恨み妬みを送っておけ、という確固たる意思が感じる。どんだけヴァイナモを侍らせてる俺が憎いんだよ、騎士の面々。
まあ俺は誰にどんな感情を向けられても、どうでもいいんだけどね。
「……どなたに向かってその視線を送っているのか、本当にわかっているのでしょうか」
「まあ皇子と言いましても他国の未成年の少年ですからね。大したことは出来ないと思っているのでしょう」
「……殿下は陛下のお気に入りであるのですよ?」
「父上ならアムレアン王国と敵対するような対応をしないと見込んでいるのでしょう。そして私がこの視線に耐えきれなくなって、ヴァイナモを専属護衛騎士から外すことを狙ってますね」
「当の本人は飄々としてますが」
「私たちの関係で考慮すべきことは、ヴァイナモの意思だけです。他の誰がどう思おうと、関係ない話ですよ」
俺は手をヒラヒラと振った。オリヴァは苦笑いを浮かべて肩を下ろした。
「殿下らしい考えです。まあ確かに王国の騎士がどう思おうとどうでもいいですよね。逆に無関係なお前らが俺たちに口出しして来るなって話です」
「正にそれです」
俺はクスクスと笑った。オリヴァもフッと笑いが零れる。殺伐とした感情を向けられているにしては呑気な考えかもしれないけど、実際に彼らが俺に何か害を成すことは考えられない。帝国と敵対したくないのは、王国も同じである。
そんな話をしていると、急に王国騎士たちが蜘蛛の子を散らすように視線を逸らした。俺が振り返ると、ヴァイナモの姿があった。真顔ではあるが、少し不機嫌そうだ。
「あっ。ヴァイナモ、おかえりなさい」
「……ただ今戻りました」
「どうした?なんか不機嫌だぞ」
オリヴァもヴァイナモが不機嫌なことに気づいたようだ。ヴァイナモは考えるのも不快だと言わんばかりに眉を顰めた。
「……王国の騎士と出会い頭に『子供のお守りなんてさせられて不憫だ』と言われたので。胸倉掴んで殴りたかったですがなんとか我慢してひと睨みだけで済ませました。あれぐらいの威圧で慄くなら、最初から余計なことを言わなければ良いものを」
……はあっ?
ヴァイナモの言葉に俺はカチンときたので、俺は笑顔で王国騎士を俺の魔力で威圧した。帝国軍の面々が巻き込まれないよう、細心の注意を払って。
王国騎士の面々は肩を震わせたり、身体を硬直させたりした。流石に訓練された精鋭たちなので腰を抜かす人はいなかったけど。そして騎士たちは驚愕の表情でこちらを見てくる。
子供のお守りだと思うのは自由だ。見方によればそう捉えられるからね。
だけどそれでヴァイナモの誇りを貶すのは許さない。
ヴァイナモは俺の側で護ることが何よりの誇りだと言ってくれた。俺のためにここまで強くなってくれた。全てはヴァイナモの、騎士としての純粋で真っ直ぐな忠誠の現れだ。
それを侮辱するのなら、俺は誰であろうと許しはしない。
「……殿下、程々に」
ヴァイナモは俺が魔力で威圧しているのに気づき、俺の肩に手を置いて咎めた。俺は不満気にヴァイナモを見るが、ヴァイナモの瞳は真っ直ぐと俺を捉えている。
「……そうですね。訓練の邪魔をしてはいけませんし」
俺は渋々魔力を収めた。騎士たちは肩の力を抜く。被害者であるヴァイナモが望まないことを、俺がすべきじゃないからね。
カレルヴォ兄上は不審な動きをする騎士たちに俺が何をしたのか察したのか、呆れ顔でこちらを見てくる。俺はカレルヴォ兄上ににっこりと笑顔で返した。舐めた真似しやがってタダじゃおかねえぞって威嚇するのは止めないあたり、カレルヴォ兄上も目に余っていたのだろうね。まあことあるごとに弟に不愉快な視線送っていたら、憤ろしいか。
「……凄いですね。さっきまであった不快な視線が一気に払拭されました。最初からそうしておけば良かったのでは?」
「わざわざそうするのも面倒くさいなと思ったので」
「殿下らしいお考えです」
オリヴァは苦笑いしているが、心做しか機嫌が良い。イライラがスカッとしたみたいだ。あれか?これが俗に言う『ざまぁ』ってやつなのか?俺は悪役令嬢だった?(違う)
そしてオリヴァは威儀を正して一礼する。
「それではヴァイナモも戻って来たので、俺はそろそろ失礼します」
「はい。わざわざありがとうございました」
「ありがとうございます、オリヴァ先輩」
「良いって良いって。それが仕事だからな。律儀だな、お前ら。知ってたけど」
オリヴァはカラカラと笑うと、もう一礼して去っていった。俺はそれを見送った後、ヴァイナモに向き直る。
「それで、王国騎士に絡まれたのはその一件だけだったのですか?」
「……正直に申しますと、短い間に何度も似たようなことを言われました。その都度睨み返しているうちに怖気付いたのか、なくなりましたけど」
俺は再び魔力で威圧してやろうかと思ったが、ヴァイナモが首を振るので、なんとか怒りを噛み砕いた。
「……多分彼らは俺が持つものとはまた別の騎士道を持っているのでしょう。彼らは唯一の主に仕えることよりも、大きな功績を残すことを重んじている。俺にとっては彼らは騎士ではなく、軍人のようだと思います」
「……まあ我が国以上の実力主義のお国柄ですし、王国では騎士は軍人も兼ねているので仕方ないのかもしれませんが」
「それを俺にまで押し付けるなって話です」
「全くもってその通りですね」
俺は溜息をついた。国の違いはそのまま文化の違いに繋がる。いくら友好国とは言え、他国の考え方を全て理解するのは難しいようだ。
「……ん?魔法訓練に切り替わったようですね」
ヴァイナモの言葉にふと訓練場へ視線を戻すと、騎士や軍人たちが魔法を使った攻防を繰り広げていた。魔法不得手者は補佐に回っているようだ。まあ普通は魔法を使えない人が魔法を使える人に適う訳ないからね。例外はいるけど。
「そう言えばヴァイナモの魔法耐性の特訓って、どのようなことをするのですか?」
「えっと……。団長の魔法を、ひたすら俺の魔力で相殺します」
「……ヴァイナモって魔法を使えませんよね?」
「適正属性を持たず、魔法操作が下手なだけで、魔力は平均並みに持っていたそうなので」
「ああ、なるほど。それで……」
俺が言葉を続けようとしたその瞬間、ヴァイナモが急に険しい表情を浮かべて、俺の席の前に出た。
ドゴーンッ。
それと同時に激しい衝突がその場を包んだ。俺は思わず身を丸め、目を閉じた。
暫くして衝撃が止み、俺は恐る恐る目を開ける。そこには。
俺を護るように防御魔法陣を展開した、ヴァイナモの背があった。
「……なんか視線が煩わしいですね」
「これでもヴァイナモが睨みつけてくれたお陰で、少なくはなったのですけどね」
「俺が舐められているってことですね……」
オリヴァは眉を顰めた。帝国軍の軍人からの視線はほぼ無くなったが、王国騎士団からの視線はまだ残っている。ヴァイナモがいないからこそ今のうちに恨み妬みを送っておけ、という確固たる意思が感じる。どんだけヴァイナモを侍らせてる俺が憎いんだよ、騎士の面々。
まあ俺は誰にどんな感情を向けられても、どうでもいいんだけどね。
「……どなたに向かってその視線を送っているのか、本当にわかっているのでしょうか」
「まあ皇子と言いましても他国の未成年の少年ですからね。大したことは出来ないと思っているのでしょう」
「……殿下は陛下のお気に入りであるのですよ?」
「父上ならアムレアン王国と敵対するような対応をしないと見込んでいるのでしょう。そして私がこの視線に耐えきれなくなって、ヴァイナモを専属護衛騎士から外すことを狙ってますね」
「当の本人は飄々としてますが」
「私たちの関係で考慮すべきことは、ヴァイナモの意思だけです。他の誰がどう思おうと、関係ない話ですよ」
俺は手をヒラヒラと振った。オリヴァは苦笑いを浮かべて肩を下ろした。
「殿下らしい考えです。まあ確かに王国の騎士がどう思おうとどうでもいいですよね。逆に無関係なお前らが俺たちに口出しして来るなって話です」
「正にそれです」
俺はクスクスと笑った。オリヴァもフッと笑いが零れる。殺伐とした感情を向けられているにしては呑気な考えかもしれないけど、実際に彼らが俺に何か害を成すことは考えられない。帝国と敵対したくないのは、王国も同じである。
そんな話をしていると、急に王国騎士たちが蜘蛛の子を散らすように視線を逸らした。俺が振り返ると、ヴァイナモの姿があった。真顔ではあるが、少し不機嫌そうだ。
「あっ。ヴァイナモ、おかえりなさい」
「……ただ今戻りました」
「どうした?なんか不機嫌だぞ」
オリヴァもヴァイナモが不機嫌なことに気づいたようだ。ヴァイナモは考えるのも不快だと言わんばかりに眉を顰めた。
「……王国の騎士と出会い頭に『子供のお守りなんてさせられて不憫だ』と言われたので。胸倉掴んで殴りたかったですがなんとか我慢してひと睨みだけで済ませました。あれぐらいの威圧で慄くなら、最初から余計なことを言わなければ良いものを」
……はあっ?
ヴァイナモの言葉に俺はカチンときたので、俺は笑顔で王国騎士を俺の魔力で威圧した。帝国軍の面々が巻き込まれないよう、細心の注意を払って。
王国騎士の面々は肩を震わせたり、身体を硬直させたりした。流石に訓練された精鋭たちなので腰を抜かす人はいなかったけど。そして騎士たちは驚愕の表情でこちらを見てくる。
子供のお守りだと思うのは自由だ。見方によればそう捉えられるからね。
だけどそれでヴァイナモの誇りを貶すのは許さない。
ヴァイナモは俺の側で護ることが何よりの誇りだと言ってくれた。俺のためにここまで強くなってくれた。全てはヴァイナモの、騎士としての純粋で真っ直ぐな忠誠の現れだ。
それを侮辱するのなら、俺は誰であろうと許しはしない。
「……殿下、程々に」
ヴァイナモは俺が魔力で威圧しているのに気づき、俺の肩に手を置いて咎めた。俺は不満気にヴァイナモを見るが、ヴァイナモの瞳は真っ直ぐと俺を捉えている。
「……そうですね。訓練の邪魔をしてはいけませんし」
俺は渋々魔力を収めた。騎士たちは肩の力を抜く。被害者であるヴァイナモが望まないことを、俺がすべきじゃないからね。
カレルヴォ兄上は不審な動きをする騎士たちに俺が何をしたのか察したのか、呆れ顔でこちらを見てくる。俺はカレルヴォ兄上ににっこりと笑顔で返した。舐めた真似しやがってタダじゃおかねえぞって威嚇するのは止めないあたり、カレルヴォ兄上も目に余っていたのだろうね。まあことあるごとに弟に不愉快な視線送っていたら、憤ろしいか。
「……凄いですね。さっきまであった不快な視線が一気に払拭されました。最初からそうしておけば良かったのでは?」
「わざわざそうするのも面倒くさいなと思ったので」
「殿下らしいお考えです」
オリヴァは苦笑いしているが、心做しか機嫌が良い。イライラがスカッとしたみたいだ。あれか?これが俗に言う『ざまぁ』ってやつなのか?俺は悪役令嬢だった?(違う)
そしてオリヴァは威儀を正して一礼する。
「それではヴァイナモも戻って来たので、俺はそろそろ失礼します」
「はい。わざわざありがとうございました」
「ありがとうございます、オリヴァ先輩」
「良いって良いって。それが仕事だからな。律儀だな、お前ら。知ってたけど」
オリヴァはカラカラと笑うと、もう一礼して去っていった。俺はそれを見送った後、ヴァイナモに向き直る。
「それで、王国騎士に絡まれたのはその一件だけだったのですか?」
「……正直に申しますと、短い間に何度も似たようなことを言われました。その都度睨み返しているうちに怖気付いたのか、なくなりましたけど」
俺は再び魔力で威圧してやろうかと思ったが、ヴァイナモが首を振るので、なんとか怒りを噛み砕いた。
「……多分彼らは俺が持つものとはまた別の騎士道を持っているのでしょう。彼らは唯一の主に仕えることよりも、大きな功績を残すことを重んじている。俺にとっては彼らは騎士ではなく、軍人のようだと思います」
「……まあ我が国以上の実力主義のお国柄ですし、王国では騎士は軍人も兼ねているので仕方ないのかもしれませんが」
「それを俺にまで押し付けるなって話です」
「全くもってその通りですね」
俺は溜息をついた。国の違いはそのまま文化の違いに繋がる。いくら友好国とは言え、他国の考え方を全て理解するのは難しいようだ。
「……ん?魔法訓練に切り替わったようですね」
ヴァイナモの言葉にふと訓練場へ視線を戻すと、騎士や軍人たちが魔法を使った攻防を繰り広げていた。魔法不得手者は補佐に回っているようだ。まあ普通は魔法を使えない人が魔法を使える人に適う訳ないからね。例外はいるけど。
「そう言えばヴァイナモの魔法耐性の特訓って、どのようなことをするのですか?」
「えっと……。団長の魔法を、ひたすら俺の魔力で相殺します」
「……ヴァイナモって魔法を使えませんよね?」
「適正属性を持たず、魔法操作が下手なだけで、魔力は平均並みに持っていたそうなので」
「ああ、なるほど。それで……」
俺が言葉を続けようとしたその瞬間、ヴァイナモが急に険しい表情を浮かべて、俺の席の前に出た。
ドゴーンッ。
それと同時に激しい衝突がその場を包んだ。俺は思わず身を丸め、目を閉じた。
暫くして衝撃が止み、俺は恐る恐る目を開ける。そこには。
俺を護るように防御魔法陣を展開した、ヴァイナモの背があった。
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