前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

甲冑男と宿の従業員

「……はっ?大天使?」

甲冑男の叫び声の残響が完全に消えた頃、やっと沈黙から解放されたヴァイナモが素っ頓狂な声を出す。その声に俺もハッとなる。甲冑男は興奮冷めやまぬ状態で話を続けた。

「そうだ!てめえらが独占するせいで、俺たちは大天使様に滅多にお会い出来ねえ!俺を含め俺たち全員、大天使様のご尊顔を拝んだこともねえんだよ!てめえらのせいだ!俺たちの信仰を邪魔すんな!」

「……ええと、話が全く見えないのですが……」

「ああん!?惚けても無駄だ!てめえが皇族で、皇族が大天使様を独占してんのはわかってんだぞ!?」

いやだから大天使様ってなんぞや。そんな『誰もが当たり前のように知ってる事実』みたいな顔で言わんでくれ。

俺はどうするべきかわからずヴァイナモに目配せした。だがヴァイナモもお手上げと言った様子で首を横に振る。やっぱりヴァイナモにも何言ってるかわからないか。そうだよね。

すると廊下の方からタッタッタッと駆ける足音がこちらに向かって来るのが聞こえた。ヴァイナモは俺を庇う体勢で腰に帯びている剣に手を添える。

やがて扉から姿を現したのは。

「クスター!何してるの!?」

「ライラ!なんで来たんだ!部屋に閉じこもっていろと言っただろ!」

俺をここまで案内した宿の従業員だった。

ライラと呼ばれた宿の従業員は焦燥の表情でクスターと呼ばれた甲冑男に駆け寄る。ライラ宿の従業員は俺の捕縛魔法に臆せずクスター甲冑男を解放しようとするが、それは叶わない。ライラは俺たちの方を向き、膝を地について懇願した。

「お願いします!クスターを解放してください!彼はちょっと直情的な所がありますが、悪い人じゃないんです!」

「いや、護衛騎士を2人も気絶させて皇族が就寝する部屋の扉をドンドン叩く奴は悪い人だと思うが」

「そんなことしやがったのかこのバカタレがあ!」

涙目になってたライラはヴァイナモの言葉に掌を返してクスターを蹴っ飛ばした。甲冑を来ていても衝撃は伝わったようでクスターは「ぐふっ」と情けない声を出す。おお……勇ましい女性だ……。

「穏便に話をつけるんじゃなかったのか!?このあんぽんたん!相手は皇子殿下様だぞ!?下手したら不敬罪で首チョンパなんだぞわかれや馬鹿野郎!」

「いやだからこの甲冑で身を守ろうと……」

「そんなんで不敬罪を防御出来ると思ってんのかこのドアホ!てか何だよその甲冑!どこで買った!?」

「これは以前建国祭の時に露店で買った!なんでもどんな厄災でも忽ち跳ね返す優れ物なんだぞ!ちょっとお高めで俺の給料1ヶ月分の価値があるけどな!」

「思いっきりぼったくられてんじゃねえかこの頓珍漢!」

ライラはクスターに回し蹴りをした。クスターは「ぐえっ」とカエルのような声を出す。……うん。厄災ライラの蹴りを跳ね除けてないな。ぼったくりのインチキ商品だ。

俺が呆れていると、ヴァイナモがライラとクスターの間に割り込んだ。

「……おい。痴話喧嘩は後にしてくれ」

「あっ。す、すみません!この馬鹿が馬鹿なせいで馬鹿デカい声で馬鹿みたいなことやらかして!」

ライラはハッと青ざめてペコペコと頭を下げた。気が動転しているのか『馬鹿』を連発している。確かにさっきの話を聞いてたら『馬鹿』を連発したくなるけど。

「……まあ貴女方から話を聞くのは後にして、とりあえず気絶している騎士の介抱をしましょうか。ライラさん、でしたっけ?」

「あっ、はい!ライラ・ヴィレンと申します!私は平民なので、ライラとお呼びください!」

「貴女を信頼してその甲冑の……クスターさん、でしたっけ?を解放するので、変なことをやらかさないよう見張っていてください」

「ありがとうございます!あっ、ちなみにこの馬鹿はクスター・ユロネンって名前です!」

ライラは安心しながらもアワアワと名前を教えてくれた。なんか昼間会った時と印象が全然違うな。てか俺、名前聞くまでライラのこと男だと思ってたよ。びっくりした。男だと思ってた人が女性の名前で呼ばれてて。

「さて、ヴァイナモ。騎士のお2人を部屋の中へ」

「了解しました」

ヴァイナモはヒョイっと気絶している騎士2人を両腕で担いで、部屋の中で寝かした。そうしているうちにドタドタと廊下の方からコチラに向かって走る足音が聞こえて来た。

「殿下!ご無事ですか!?」

「オリヴァに皆さん。私は大丈夫ですよ」

俺は持ってた枕を上げてくるりと一回転した。オリヴァはホッと息を吐いた後、ヴァイナモに非難めいた視線を送った。

「おいヴァイナモ。殿下の危険を察知したならせめて俺たちにも一言言ってから行け。何も言わず物音ひとつさせずに部屋を出やがって。俺たちが異変に気づくのが遅れたじゃねえか」

「……すみません。エルネスティ様が危険だと思うと一刻も早くお側に向かいたくて……」

「まあその結果殿下が無事ならそれでいいが。その2人は気絶しているのか?なら俺が見よう。これでもアスモの手伝いで、色々と知識はあるからな」

「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」

オリヴァは気絶している騎士の側にしゃがみ、テキパキと診断を始めた。俺はそれを眺めた後、ライラとクスターに視線を戻す。

「……それで?なんでこのようなことをしたのですか?」

「大天使様を解放させるためには直談判が一番だと思ったんだ!」

「何が直談判だ!恐喝じゃねえかよこのマヌケ!もっと穏便な方法あっただろ!」

「だってそこの騎士は皇子殿下様に話があるって言っても聞いてくれなかった!」

「いきなり図体デカい甲冑男来たら、そりゃ警戒するだろわかれや愚図!」

事情聴取しようとしたらまた口喧嘩が始まってしまった。てかさっきから思ってんだけど、皇子殿下様って敬称二重になってるから、社交界ではタブーだぞ?いや平民の彼らが知らなくてもおかしくないけど。

「……大天使様とはどなたのことですか?」

「我らを救い導いてくれる唯一無二にして最大の存在だ!」

「私たちエンケリ教は大天使様を信仰対象としています」

俺の質問に2人はズレた回答をする。いや具体的に教えてくれないと大天使様を解放することは出来ないんだけど。てかエンケリ教って何?そんな宗教聞いたことないぞ?新興宗教か?ますます怪しいぞ??

「……その大天使様とはどこにおられるのですか?」

「帝都の大教会におられると、教祖様から教わった!」

「教祖様はそれはもう、大天使様の神聖で清廉なる慈愛に満ちたお姿を素晴らしく私たちにお伝えくださいました。私たちは一度もご尊顔を拝見する機会に恵まれておりませんが……」

ライラは煌々とした表情で大天使様を語る。大天使様はつまり、帝都の大教会にある宗教画の天使のことだろう。確かあそこの宗教画は中央に大きな天使がいて、周りの小さな天使を使役しているような構図になっていたはず。その中央の天使が大天使様か。

……なんかこの話聞いたことあるぞ。

「……まるでペッテリみたいなことを言いますね……」

「なっ!?教祖様を……ペッテリ様をご存知なのですか!?」

思ったことがぽろりと口から出すと、2人は驚愕の表情で俺を凝視する。えっ?エンケリ教の教祖って、ペッテリなの?

……何してるのペッテリ??
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