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アルヴィス•トレバー 2
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「アル」ことアルヴィスは町では浮いた存在であった。
それは両親のせいだけではない。
彼は、7つの時に町の同年代の少年少女たちが学ぶスクールに通った際、成績優秀者に選ばれるほどの聡明さを発揮した。
通うスクールでは、成績優秀者は小さなメダルを貰える決まりであり、本来なら彼はそのメダルをいくつも貰うことが出来たであろう。
しかし、彼はそれを受け取れなかった。
そのメダルが渡される前に、アルヴィスはスクールに通うのを辞めたからだ。
彼は人との接触を非常に嫌っていた。
特に同年代の子どもたちや、大人でも愚鈍な人間は見下しているような少年であった。
スクールに通いだしてすぐに、アルヴィスは同級生たちや教職員たちを「取るに足らない」と判断した。まともに相手をしなくなり、そうしているうちに徐々に出席の日数は減っていき、最終的には全く顔を出さなくなってしまった。
町で同級生に会っても目も合わせないアルヴィスは、当然のごとく他の子ども達に反感をかい、絡まれることもめずらしくなかった。
だが、そんな彼にも「親友」がいた。
その「親友」は、彼が命令すれば何でもしてみせた。
例えば、彼に口を利いた子どもの足に、思い切り噛みつき悲鳴をあげさせることなど。
アルヴィスの「親友」であり、「家族」とも言える存在。それは美しい白い毛並みの大型犬であった。
「スピカ」と名付けたその雌犬は、たまたま彼が近所の老婆から譲ってもらったものであり、常に彼の側にいた。
外を歩くときは常にアルヴィスの隣を歩き、彼の命令にとても忠実に従い寄り添い続けた、彼の相棒である。
アルヴィスが13になる頃には、彼はスピカと共に町で恐れられている存在となっていた。
年を取ってきてはいるが、命令次第ではいくらでも暴れる大型犬と、頭が切れ、体格も良くなったアルヴィスは、町の住人達にとっては最悪の組み合わせだった。
そして彼の成長と共に、トレバー家も崩壊してきていた。
父が帰ってこない日が増えてきたのである。
月に一週間は家に来ていた父は、理由をつけては家を留守にするようになり、終いには仕事が忙しいと言い、ほとんど帰ってこなくなった。
それに腹を立てたのか、母は男遊びを隠さなくなっていった。店や町で男をひっかけては、家に連れ込むようになった。
彼が自室に居ても男といちゃつく母の声が聞こえ、彼をうんざりとさせた。
時には、男がアルヴィスが家にいるのを知り、嫌がるような素振りを見せると、母はアルヴィスを怒鳴りつけ家から追い出した。
そのうち、アルヴィス自身もあまり家に寄り付かなくなっていった。夜更けまで海沿いにあったボロ小屋に飼い犬と過ごし、場合によってはそのまま家に帰らない日もあった。
破綻しかけていた彼の生活だったが、決して彼を邪険にする者だけではなかった。
彼の住む港町に唯一あった小さな図書館。そこの館長の老紳士が、彼を気にかけていた。
強く賢い少年だと言い、周りが彼とスピカを避けて歩く中、館長のみが彼らに近づいた。
アルヴィスも老紳士のことは嫌いではなかった。愚かな人間の多いこの町では数少ない、話すに値する人物であった。
その影響か良く彼は図書館へと足を運び、勧められるまま自主学習に励んだ。時には館長自らが教師となり、アルヴィスに勉強を教えた。
まるで乾いたスポンジが水を吸うかのように、彼は知識を蓄えていった。
この時期、館長がアルヴィスに向かって、
「子どもは親を選べない」
「だからこそ、自分で道を選ぶことが大切だ」
と、語ったことがあった。その言葉を、相変わらず家庭を捨てて逃げ続けている父と、男と下品な狂宴を家で続けている母を持った彼は心に留めた。
館長はアルヴィスにもっと理想的な学習環境を作りたがっていた。
町の学習レベルを馬鹿にする理由ではないが、少なくともレベルが高いとは言えない地域だ。
彼の才能を無駄にしてはいけないと思い、各方面に相談をしていたらしい。
そんな館長が彼に提案したのは、奨学金付きでここよりも都会にある全寮制のスクールに入学することであった。
それは、彼の人生をまともにしてやりたいという真剣な思いからの提案であった。
しかし、その提案に悩むアルヴィス。
全寮制の学校に行ったのなら、スピカはどうなる?誰が世話をする?そもそも、自分にとってはスピカしか家族がいないのだ。
渋るアルヴィスを懸命に説得する館長。
図書館の職員で世話をすることと、休みの日には帰ってきてスピカと共に過ごすことを条件に、彼は奨学生になるための試験を受けた。
結果はすぐに届き、来年の春にはアルヴィスは都会の学校で寮生活を謳歌する予定になった。
これは当時13歳の彼にとって、最も輝かしい瞬間でもあった。
もしも、彼がこのまま都会のスクールに行っていたなら人生はまさに変わったであろう。
理知的な同級生たちに囲まれ、定期的にスピカに会いに行き、その後は都会で真っ当な仕事をして恋に落ち、そのうち父になる。自らの両親を反面教師にして、良き父親になれたかもしれない。
だが彼はなれなかった。そう、なれなかったのだ。
それは両親のせいだけではない。
彼は、7つの時に町の同年代の少年少女たちが学ぶスクールに通った際、成績優秀者に選ばれるほどの聡明さを発揮した。
通うスクールでは、成績優秀者は小さなメダルを貰える決まりであり、本来なら彼はそのメダルをいくつも貰うことが出来たであろう。
しかし、彼はそれを受け取れなかった。
そのメダルが渡される前に、アルヴィスはスクールに通うのを辞めたからだ。
彼は人との接触を非常に嫌っていた。
特に同年代の子どもたちや、大人でも愚鈍な人間は見下しているような少年であった。
スクールに通いだしてすぐに、アルヴィスは同級生たちや教職員たちを「取るに足らない」と判断した。まともに相手をしなくなり、そうしているうちに徐々に出席の日数は減っていき、最終的には全く顔を出さなくなってしまった。
町で同級生に会っても目も合わせないアルヴィスは、当然のごとく他の子ども達に反感をかい、絡まれることもめずらしくなかった。
だが、そんな彼にも「親友」がいた。
その「親友」は、彼が命令すれば何でもしてみせた。
例えば、彼に口を利いた子どもの足に、思い切り噛みつき悲鳴をあげさせることなど。
アルヴィスの「親友」であり、「家族」とも言える存在。それは美しい白い毛並みの大型犬であった。
「スピカ」と名付けたその雌犬は、たまたま彼が近所の老婆から譲ってもらったものであり、常に彼の側にいた。
外を歩くときは常にアルヴィスの隣を歩き、彼の命令にとても忠実に従い寄り添い続けた、彼の相棒である。
アルヴィスが13になる頃には、彼はスピカと共に町で恐れられている存在となっていた。
年を取ってきてはいるが、命令次第ではいくらでも暴れる大型犬と、頭が切れ、体格も良くなったアルヴィスは、町の住人達にとっては最悪の組み合わせだった。
そして彼の成長と共に、トレバー家も崩壊してきていた。
父が帰ってこない日が増えてきたのである。
月に一週間は家に来ていた父は、理由をつけては家を留守にするようになり、終いには仕事が忙しいと言い、ほとんど帰ってこなくなった。
それに腹を立てたのか、母は男遊びを隠さなくなっていった。店や町で男をひっかけては、家に連れ込むようになった。
彼が自室に居ても男といちゃつく母の声が聞こえ、彼をうんざりとさせた。
時には、男がアルヴィスが家にいるのを知り、嫌がるような素振りを見せると、母はアルヴィスを怒鳴りつけ家から追い出した。
そのうち、アルヴィス自身もあまり家に寄り付かなくなっていった。夜更けまで海沿いにあったボロ小屋に飼い犬と過ごし、場合によってはそのまま家に帰らない日もあった。
破綻しかけていた彼の生活だったが、決して彼を邪険にする者だけではなかった。
彼の住む港町に唯一あった小さな図書館。そこの館長の老紳士が、彼を気にかけていた。
強く賢い少年だと言い、周りが彼とスピカを避けて歩く中、館長のみが彼らに近づいた。
アルヴィスも老紳士のことは嫌いではなかった。愚かな人間の多いこの町では数少ない、話すに値する人物であった。
その影響か良く彼は図書館へと足を運び、勧められるまま自主学習に励んだ。時には館長自らが教師となり、アルヴィスに勉強を教えた。
まるで乾いたスポンジが水を吸うかのように、彼は知識を蓄えていった。
この時期、館長がアルヴィスに向かって、
「子どもは親を選べない」
「だからこそ、自分で道を選ぶことが大切だ」
と、語ったことがあった。その言葉を、相変わらず家庭を捨てて逃げ続けている父と、男と下品な狂宴を家で続けている母を持った彼は心に留めた。
館長はアルヴィスにもっと理想的な学習環境を作りたがっていた。
町の学習レベルを馬鹿にする理由ではないが、少なくともレベルが高いとは言えない地域だ。
彼の才能を無駄にしてはいけないと思い、各方面に相談をしていたらしい。
そんな館長が彼に提案したのは、奨学金付きでここよりも都会にある全寮制のスクールに入学することであった。
それは、彼の人生をまともにしてやりたいという真剣な思いからの提案であった。
しかし、その提案に悩むアルヴィス。
全寮制の学校に行ったのなら、スピカはどうなる?誰が世話をする?そもそも、自分にとってはスピカしか家族がいないのだ。
渋るアルヴィスを懸命に説得する館長。
図書館の職員で世話をすることと、休みの日には帰ってきてスピカと共に過ごすことを条件に、彼は奨学生になるための試験を受けた。
結果はすぐに届き、来年の春にはアルヴィスは都会の学校で寮生活を謳歌する予定になった。
これは当時13歳の彼にとって、最も輝かしい瞬間でもあった。
もしも、彼がこのまま都会のスクールに行っていたなら人生はまさに変わったであろう。
理知的な同級生たちに囲まれ、定期的にスピカに会いに行き、その後は都会で真っ当な仕事をして恋に落ち、そのうち父になる。自らの両親を反面教師にして、良き父親になれたかもしれない。
だが彼はなれなかった。そう、なれなかったのだ。
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