狩人達と薔薇の家

紫陽花

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解体

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あいつらが誰なのかもよくわからない。

どうしてか彼らは集められ、ここで生活をさせられていた。彼らの欲望を満たす代わりに、指定された臓物や肉の提供などの条件をつけられて。

あいつらは獲物を調達し、彼らのテリトリーの山に放す。
彼らはそれを追い込み、仕留め、解体し、指定された部位や自分たちで消費できない分を譲り渡す。

自分たちで獲物を調達してくるときもあったが、大半は彼らが『取引先』と呼ぶ連中の連れてきた人間を狩り取っていた。
今回は10人もの人間を連れてきており、鮮度に拘り、基本的に生け捕りをすることの多い彼らはその人数の多さから、その場で仕留めていたのだ。

コンクリートの建物…加工場にいる二人は仕留めた獲物の解体に勤しんでいた。

大柄な男が手際よく内臓を取り出して二つに体を切断し、細身の男が作業台で切り分けられた肉のトリミングをしていく。
その合間に作業台に乱雑におかれた書類を確認し、取り出した内臓からいくつか選び丁寧にパック詰めをするとクーラーボックスにメモを張り付けしまい込んでいった。

細身の男…ギルは書類を汚れた手袋のまま摘まみ上げ、クーラーボックスに入った内臓を数えだす。

「あと一つか」
ポツリと呟くと、血や油で汚れた書類を適当に置く。ボックスの中では、赤黒い物体がまるで加工食品のように並んでいた。
こうしてみると、人間もただの肉だ。腹が減ったとぼんやりと、頭の片隅で考えていた。
振り返ると大幅な解体作業が終わったのか、電動のこぎりを片付けていた男に声をかける。

「なあレオ、今日の夜は何食べる?」

レオと呼ばれた男は、のそりと振り向くと肉の一部を手に取りギルに渡す。両手に乗るほどの塊の肉だ。
腰のあたりの肉だろう。ほどよく脂肪がついていて、弾力も申し分ない。
その肉を指さしながらレオは、

「そのくらいあれば足りるだろう」

と穏やかに伝えながら、のこぎりの汚れを丁寧に拭っていく。おおよその血液を拭うと、壁際に設置している水道のところへ行き、隣の棚に置いてる洗剤を刃の部分に振りかけると水で洗い流す。妙に錆びた赤色の水が排水溝に流れていった。

ギルはそれを横目で見ながら、油紙で肉の塊を包んでいると加工場の扉が軋みながら開いていく。
黒髪の射貫くような眼を持つ男だ。小柄な女を担ぎながら入ってきたその人物は、加工場内を見渡すと後ろ手に扉を閉め、真ん中に置かれた作業台に近づいていく。どうやら女は足を撃たれたのか、ポタリっと冷たい床に血を垂らした。
ギルはそれを見ると、手早く作業台を片付けその場を譲る。

乱暴に作業台に女を横たえる。すると低く呻いた声が女の口から漏れた。
意識を取り戻したらしい、震えながら目を見開くと悲鳴を上げて作業台から飛び降りようと身を乗り出した。

つかさずテーブルのそばにいた男二人で取り押さえると、口に枷を噛ませ、手足を作業台の四方に設置された鎖で拘束すると、大ぶりのハサミで衣服を切り裂き乱暴にはぎとっていく。

着やせするタイプだったのだろう。肉付きの良い白い体が露わになった。
手足には逃げ惑った際についた小さな傷があるが、腹や胸は無傷そのもので生まれつきにあるような痣もない。
指で軽く腹を押すと、跳ね返されるような弾力を感じる。

ふと女の顔を見る。何をされるかわからない恐怖と自分の裸体を晒されている羞恥心からか、涙を流し苦痛の表情をしている。
きっと、そういった趣味の男なら垂涎ものの光景だろう。
だが、自分たちの場合は、

「道具は用意できた。カメラもオッケー」

「今日は別に肉をとっていたが…いい肉じゃないか。少しもらおう」

文字通り、涎が出そうになる。と、いったところか。

ギルは先ほどから使われていたエプロンではなく、黒い作業着を身に着けだす。
同色の頭巾をかぶりマスクをつければ、傍から見れば誰なのかはわからない。
レオが三脚付きのカメラをオンにすると、指で合図を送る。

それを見ると用意されたメスを手に取り、女が横たわっている作業台に近づいていく。
女のくぐもった声が激しくなる。必死に手足をバタつかせ逃れようとしているが、繋がれた鎖が揺れる音が虚しく響く。

汗ばんだ胸元を軽く指でなぞると女の息が荒くなり、胸の上下が激しくなる。
肌が緊張からほんのりと赤みを帯びてきている。

数回なぞった後、ゆっくりとメスを近づけ、両胸の間に差し込んだ。

「―――ッ!ングッ!!!ンッ!あああっっっ!!!!!」

下腹まで一気に切った瞬間、女の口枷が外れたのだろう。耳をつんざくような叫び声があたりに響き渡る。
体を揺らすせいで床に血が飛び散る。
その様子をみた二人は、すばやく近づくと再度拘束をつよめる。
ピンっと体がしなるほど強く繋がれると、息苦しさと痛みからか先ほどのような声を上げられず腹からピンク色の筋肉を見え隠れさせながら、必死に口をパクパクと魚のように動かしている。

女が身動きできなくなったのを確認すると、解体作業は進められる。
丁寧に肉を切り開くと、中から艶やかな色合いの内臓が見えてきた。その中心にある鈍い赤色をしている大きな臓物を、傷つけないように繊細な手つきで切り取る。暖かいぬくもりのあるそれをカメラによく見えるように手のひらに乗せてみせる。

「…な…んで」

飲酒等には無縁だったのだろう、綺麗なそれをトレイに乗せると蚊の鳴くような声が聞こえる。
見ると女が口から血の泡を吹きながらこちらを睨んでいる。
よくぞ生きているものだ。大抵の人間はここまでくるとショック死してしまうことも多いというのに。

「辞世の句でも残したいのか?聞いてやるよ」

ギルはカメラに声が入らないように、女の耳元で不釣り合いなほどの穏やかな声でささやく。
鼻と口から赤黒いものを垂れ流し、充血し今にも零れ落ちそうなほど目を見開きながら女は黒い作業着の男を睨みつける。
ひゅーひゅーと辛うじて呼吸ができているような音が喉から聞こえてくる。

「な…ん…で…?」

絞り出すような声で男に問う。
つい昨日まで日常を過ごしていたのに、それを理不尽に不条理に壊された。
怒りよりも、困惑か恐怖か。否、もはや簡単に言葉にできない感情だろう。
恐らくそれゆえに、素朴な疑問をまずは男に問いかけたのだ。
なぜこんなことを?なぜ自分が?なぜ?
だが、

「なんで?…なんでかぁ」

言葉を繰り返しながら首をかしげて考える男。
思案の後、最後の気力を振り絞りながら答えを待つ女に、まっすぐな瞳を向ける男。

「食べたいからじゃないかな」

哀れな女の質問の結果は、気狂いの男の最悪の答えで終わった。

絶望に染まる女の顔を気にも留めず、男は再度女の腹の中を探り出す。
胃腸のような中の洗浄が必要な部位は、内容物で他を汚さぬように専用の糸で切り口を固めに結び、慎重に深めのトレイに入れる。後で中身を出し水でよく洗うために他とは完全に別にするのだ。
腸は特にサイズが大きいため時間をかけ作業をしていると、先ほどまで弱弱しくも動いていた心臓が止まっている事に気づいた。
どうやら息絶えたのだろう。見かけのわりにはなかなか頑張ったほうだと、感心をする。

あばらを電動ののこぎりで切り落とし、残った内臓をすべて取り出すと手足と首を同じように切り落とす。
台の上に中身のなくなった胴体、両手と両足を綺麗に並べなおすと中心に女の首を置く。
その光景をしばらく写した後、ようやく撮影が終わった。

これも『取引先』からの要望だった。
彼らには理解できないが、こういった映像を好む連中もいるらしい。
定期的にこういったビデオを撮り、一緒に引き渡すのだ。

もっとも、彼らにとっては家畜の解体を見たがっている変わり者程度の扱いだったが。

最後の片づけをしている最中、時間をみるとすでに夕方を過ぎていた。

「ずいぶん時間がかかったな…人数多かったから仕方ないけど」

黒髪の男…彼らからはアルと呼ばれている男がモップを片手に呟く。
先ほど解体された女が暴れたせいで、床がひどく汚れてしまい掃除に時間がかかってしまっていることがどうやら不満らしい。
やや不機嫌気味に作業をしている。

「そこ終わればもういいさ。遅くなったしもう戻らなければ」

残った肉を冷凍室に入れると、三人は出入り口に歩みを進める。

電気を消し、軋むドアを開けると冷たい夜風が頬をなでる。

「帰ろう」

「ロザリーが俺ら待っている」

三人のグールは薔薇の待つ家へと帰りだした。

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