狩人達と薔薇の家

琴葉

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夜の森

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夕飯後、ロザリーは引き続きキッチンへとたち
明日の食事の支度をはじめていた。

レバーは食事の前に下処理を済ませていた。
血合を切り取り、牛乳につけておいたそれを水で軽く洗うと、叩いてミンチにしていく。
小さく角切りに切っておいた肉を混ぜると、手でしっかりとこねる。
スパイスと一緒に、昨年採れたクルミも砕いていれておこう。

ちらりとリビングの方に目をやると、男三人はソファに座りなにやらテレビを見ている。
珍しい光景だと思い、ロザリーも画面を見ると、どうやら臨時ニュースのようだ。

学生たちを乗せたバスが横転したらしく、崖下に転落している映像が流れている。
原因不明。発見も遅れたようだ。
奇跡的にも、死体の数と乗客の数が合っていないことから生存者がいるらしいが、どうやら近くの森に迷いこんだ恐れがあるらしい。
ロザリーはその映像に何か見覚えがあり、思わず声をかける。

「ねえ、その事故。ここの近くじゃない?」

生真面目そうなニュースキャスターが、読み上げている地名は比較的近い場所であった。
少しかかるが、恐らく事故現場へは歩いて行けるだろう。

「夜も遅いから明日の朝に捜索を開始するってさ。この森にも来てるかもな」

ギルが含みをもたせるような話し方をする。
彼女はその意味を、なんとなく察したが特には何も言わずに作業を開始する。

ベーコンを敷き詰めた型に、先ほどのミンチを流し込んだところで、三人はいきなり立ち上がった。
バタバタと準備をはじめた男達を不思議に思い、キッチンから出てきたロザリーにギルは上着を羽織ながら説明をする。

「案の定取引先から指示がはいったよ。狩れるだけ狩ってこいってさ」

「暗い森だ。一人一匹犬を連れて行ったほうがいい。アル、犬達の様子は?」

銃の弾を装填しながら、レオが尋ねるとアルは同じように猟銃を手に取りながら答える。

「フィーア以外は大丈夫だよ。ただ、夜遅い時間にロザリーを一人にはしたくないから...ドライはここで留守番させておく」

そういうとアルは先に部屋を出ていく。
レオは不安そうな表情をしているロザリーの頬を優しく撫でる。

「すぐに戻ってくるから、鍵をかけてドライと一緒にいなさい。先に寝てても構わないから」

「何かあったらすぐに連絡しろよ。駆けつけるから」

レオの後ろから、ギルがつけたすように言うと
犬を連れたアルが戻ってきた。
黒く筋肉質なその犬は、ロザリーの足元にいくと行儀よく座った。
アルはその隣にしゃがみながら、しっかりと言い聞かせるように犬の目を見ながら命令を出す。

「いいかドライ。ロザリーの側を離れるなよ。彼女の指示をしっかりと聞くんだ。いいな?」

男の言葉に、ドライと呼ばれた犬は返事をするように一吠えしてみせた。
その様子に安心をした男達は、各自準備をすませ部屋を出ていこうする。

「みんな、いってらっしゃい。気を付けて」

ロザリーはその後ろ姿を見て、慈悲の笑みを浮かべながら声をかけた。

彼女の見送りを受けた三人は、家を出ると鍵をかけ森の方を見る。
すでにあたりは闇に包まれており、玄関先につけた外灯から離れると、足元も見えないだろう。

彼らは腰につけたライトをつける。
この小さなライトを頼りに歩かなければならないが、この暗い森で光は目立つ。
獲物に気づかれない意味でも、光はごく最小限に止めねばならない。が、そこは長年この森で暮らしている人間だ。
彼らはこの小さな光と、土地勘のみで暗い森を歩いていく。

三十分は歩いただろう。事故現場にたどり着いた彼らは、打ち合わせ通り三ヶ所に別れて狩りをする。
鬱蒼とした森の中は、月の光しか明かりはなく
水のしたたる音も聞こえるほどの静寂に包まれていた。

そんな中、最初に獲物を見つけたのはツヴァイと名付けられた明るい茶色の重たい目をした犬をつれたレオだった。

彼らは別れてすぐに血で濡れた葉を見つけていた。
ツヴァイは飼育している犬の中でも嗅覚に優れている犬種だ。
容易く見つけることができた。

レオは腰のライトを消し草影に隠れる。
大木のすぐ側にいる僅かな人の影の動きと時折聞こえる話し声から、恐らく女ばかりだ。

他の二人からは連絡がないことも考えると、恐らく自分が最初に発見できたのだろうと考えた彼は、銃を使うことを躊躇った。
静かな森で銃声がしたらパニックになるだろう。
まだ狩りをはじめてそこまで時間のたっていない今、獲物を混乱させたくない。

そこで彼は、足元で伏せさせといたツヴァイに指示をだす。
すると、のそりと起き上がりゆっくりとそちらの方へと歩いていった。

ガサリと草の動く音に敏感に反応する獲物達。
しばらくすると、ツヴァイの姿を確認できたのだろう。安堵の声がする。

「い...犬だぁ...よかったぁ」

「...待って!この子首輪ついてる!」

良く手入れされた飼い犬が夜の森に現れた理由に気づいたらしい。
すると

「だれかーー!いませんかー!」

「ここにいます!!わんちゃんもいます!」

キンキンとした声が響く。
近くにいるであろう飼い主に気づいてもらおうとしてるのだろう。

これ以上騒がせると支障がでる。
レオは立ち上がると、腰のライトを大きめにつける。
その光は届いたのだろう。声がさらに大きくなっていくのがわかった。

「そこに誰かいるのか?ツヴァイ?お前もいるのか?」

わざとらしいレオの声に、ツヴァイは低い声で吠えて返事をする。
焦らすようにだが、確実にレオは彼女達の方に近づき、そして

「君たちは...もしかして事故の?」

「そうです!事故に遭ってバスも危険で側にいれなくて...」

「よかったぁ,,,助かったんだ私たち...」

堂々とこの大柄な狩人は、哀れな獲物の前に姿を出した。

予想通り女だった。
まだ少女と呼ぶ方がしっくりくるような年齢の二人。
一人は小柄で二つに髪を結んでおり、もう一人は対称的な背の高いボーイッシュな少女だ。

二人とも保護される思い、涙ぐんで喜んでいる。
レオは表面上優しげに微笑みながら、二人の品定めをしていた。
痩せていて肉は少なめ。ただ内蔵は綺麗そうだ。
肉がほしいならしばらく飼育しておくのもありだ。

そう考えていたところ、ふと思い出したように二人に問う。

「もしかして他に怪我人がいるんじゃないか?ここに来るまでに血のついた葉っぱを見つけたんだけど...」

その言葉に二人はハッとする。

「そうなんです!奥の木のところで休ませています!」

「血がいっぱ出ていて、動けなくて...」

二人はレオを大木の側に誘導する。
木の影に隠すように横たえられた少女は、どうやら足を負傷しているようだ。
足を怪我している少女は、薄目を開けてこちらを見ている。

「だ...だれ?」

「動かないで!大丈夫!助けに来てくれた人だよ!」

半身を起こし、警戒する少女に二つ結びの少女が明るく声をかける。

その様子を見て、レオは少し考える。
三人か,,,

軽そうな少女達だ。二人までなら袋にいれたり担いだりで加工場までつれていけたが、三人となると難しい。
騙して自分達で歩かせ、加工場まで誘導しようにも、一人は怪我人。担ぐ必要がある。
片手が塞がっているときに、何かの弾みで二人に気づかれ逃走されても面倒だ。


「...あ、あの。やっぱり怪我酷そうですか?」

ボーイッシュな少女が恐る恐る聞いてくる。
どうやら悩んでいるレオを見て、怪我をしている少女の容態が酷いのかとを心配したらしい。
不安そうな目で覗き込んでくる。

「もしもの時は、あの、私がおんぶしていきます!大丈夫!ここまでも私がつれてきたので!」

気を使ったのか提案をしてくるボーイッシュな少女。
その言葉にとある考えが思い付く。
なるほど。運ばせれば良いのか。

「なるほど,,,じゃあ、怪我をしている子は君に任せよう」

そういうと、レオはつかつかと怪我をしている少女の横にいる二つ結びの少女に近づく。
なるほど。こうして見るとなかなか小柄で細身だ。

「俺はこの子を連れていく事にしよう」

レオの突然の言葉に、三人とも首をかしげる。

「私、怪我なんて...ちゃんとあるけ」

二つ結びの少女が言いきる前に、レオは両手を首にかけ、思いっきりへし折った。

めしゃり。と嫌な音がする。

何が起きたのかわからない。という表情をしたまま少女だった物は、首を不可思議な方向に曲げながら地面に倒れる。

一瞬の静寂。時がとまったような瞬間のあと、

「いやあああああ!!!!!」

つんざくような悲鳴。
ボーイッシュな少女の声だ。
怪我をしている方は震えて声もでないらしい。
好都合だ。

すばやく怪我している少女の首もつかむ。
軽く締め上げてるだけだが、ひゅーひゅーと苦しそうだ。

そのまま後ろにいるもう一人の少女に

「逃げてもいい。だが、逃げたらこっちは殺す。だが、お前がこの女を俺のいう場所まで運んだら、もう少しだけ生かしといてやる」

と告げる。
ボーイッシュな少女は涙を流しながら、震えて
しまい身動きがとれないようだ。

「どっちだ?今死ぬか?言っておくが、逃げたらすぐにこの女の首を折ったあと、お前の事も殺す。銃で撃つか捕まえて首をおるか、それとも切られるか。どうする?早く選べ」

頭を抱え、項垂れる少女の嗚咽が夜の森に響いた。
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