狩人達と薔薇の家

紫陽花

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夜の森3

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男は暗い森を必死に走っていた。
静かな森に自身の荒い息づかいと足音が聞こえる。

バスの事故から何時間立ったかわからない。
気づいたら集団からはぐれてしまい、一人になっていた。
暗くなり心細くなってきた時だった、銃声が聞こえてきたのだ。
近くに猟師でもいるのかと思い、助けを求めようとそちらの方へ声をあげて近寄った。
まさしくその時。
目の前に狼と見間違えるような容貌の犬が飛び出してきた。

人間の腰までの大きさのその犬は、牙を剥き出しにして唸ったかと思うと、そのまま追いかけてきた。
犬ごときで大袈裟なと思うかもしれないが、お世辞にも小さいとは言えない、獰猛な顔をした動物が吠えながら追いかけてくるのだ。
大半の人間が逃げてしまうだろう。

男もそういった理由から、必死に狂暴に追いかけ回してくる狂犬から走り回っていたのだ。
もはや、どこを走っているかもわからない。

息があがる。苦しい。
足が限界でもつれてくる。
誰か助けてほしい。
誰か誰か

そんな彼の切実な思いは一発の銃声に共に解決した。

木々が少なく少しひらけた場所に来た瞬間、眉間に穴が空く。
これでもう、苦しくも怖くもないだろう。

死をもって苦しみから解放させた,,,いや、させられたとの方が正しいだろう。

草むらから、猟銃を持った足のすらりとした長身の男が颯爽と出てくる。
哀れな男の死を確認する。
しばらく痙攣したのち、動かなくなる。
横から甘えたような、鳴き声が聞こえてきた。

そこには今しがた、狂ったように男を追いかけていたとは信じられないほど穏やかになっている犬がおり、行儀良く座って褒美を待っていた。
猟銃を持った男、アルは犬の頭を撫でたあとポーチから小さなクッキーを取り出し、口に放り込んでやる。

獲物を指定した位置まで誘導する。
最近狩りデビューをした犬にしては、かなり上手くいった。
アルは死体を担ぐと近くに置いておいた、荷車に置く。

すでに三人ほど餌食になったらしい。
そこそこ大きい荷車の中は四人分の死体で、底が見えなくなっていた。

もう一人くらい狩れるかと探索に向かおうとしたところ、ふいに無線から声が聞こえてくる。

ギルからの連絡だ。
どうやら運ぶのを手伝ってほしいらしい。
準備不足だとからかおうかと思ったが、後が怖い。
素直にポイントに向かうことにしよう。

「フュンフ!いこう」

ワンっ!と見た目とは裏腹な可愛らしい声をあげて、フュンフは後ろをついていく。
ふと、空を見上げると星空が広がっている。
アルは家で一人待つ薔薇の事を思いながらギルの待つ場所までの移動をはじめた。

場所は変わり、レオから逃げたヘザーとカレンは相変わらず森の中を彷徨っていた。
イカれた男から逃げきったのは良いが、歩いても歩いても抜け出せない森と、一人を見殺しにしてしまった負い目が彼女達の心に影を落としていた。

特にヘザーは時折、「ソフィア...ソフィア...」
とぶつぶつと呟いている。
どうやら、例の怪我をした少女の名前らしい。
目は虚ろで足取りもどこかおぼつかない。
そんなヘザーの様子を見て、ついに先頭を歩いていたカレンはふりむくと、

「いい加減にして!!しょうがなかったでしょ!あそこで逃げなきゃあのイカれ野郎に殺されてたのよ!」

と、目をつり上げて怒鳴りあげた。
自慢だったロングヘアは土で汚れ見る影もない。
ヘザーはカレンの言葉に涙を流し反論する。

「でも!でも見捨てるなんて,,,言うこと聞いてたら生かしといてやるって!」

「信じられるわけないでしょそんな言葉!第一、言うとおりにしたとして顔を見られた相手を生かしておくと思う!?」

カレンの言うことはもっともだ。
あの時あの大男に言われた言葉は、

「言うことを聞けば、『もう少し』生かしといてやる」

ヘザーは玉のような涙を流しながら首を振る。
どっちにしろ最後は殺される運命だったのだ。
ソフィアも自分も。

その様子を見るとカレンは少し、罰を悪そうな顔をしてとぼとぼと歩き出す。
無言の時間が続くことになる...そう思ったときだった、ぼんやりとした明かりが見えた。

二人は息をのみ近くに隠れる。
体が一気に震えてくる。
情報を交換した結果、殺人鬼は一人ではないことを知っている。
二人は息を潜めつつ明かりを凝視する。
どうやら動く気配がない。

顔を見合わせるとカレンは決意したように、じりじりと明かりとの距離を詰める。
ヘザーは神妙な面持ちでそれを見守っている。
どうかどうか。何事もないようにと必死に神に祈りを捧げた。

だいぶ進んだあたり。カレンはいきなり立ち上がると、手招きをする。
カレンの隣まで歩いていくと、カレンの視線の先に目をやった。

小さな光は外灯であった。
自分達の目の前にいきなり広い柵におおわれた一件の家があらわれたのだ。
家の中に光は灯っており、人の気配を感じる。

二人の少女は一斉に走り出すと、柵の門を開け
家の扉の前に行く。
吊るされているインターホン代わりのベルを、必死にならし何度も扉を叩く。

「....はい?どなたかしら?」

扉の向こうから、品の良い話し方の女性の声がした。
警戒しているような雰囲気の相手にカレンは訴えかける。

「お願いです!助けてください!バスの事故で森に迷いこんだら殺人鬼にあって...」

「ここまで逃げてきたんです!お願いです!匿ってください!!」

ヘザーも続けて訴える。
扉の奥の女性は困惑しているようだった。

「助けてあげたいのはやまやまだけど...今は家に私しかいないの。一緒に住んでいる方達から、夜は扉を開けるなとキツく言われてて...」

困ったように話す女性に、尚もカレンが食い下がる。

「友達が殺されているんです...警察も呼んでほしいんです!お願いします!」

お願いします!と二人は声を合わせて何度も懇願する。
しばらく返事がなく、諦めかけたとき鍵の開く音がした。

ゆっくりと扉がひらき、先に現れたのは一匹の逞しい程の体つきをしている黒い犬。
そしてもう一人。

赤い目をした白髪の女性が優しく微笑んでいた。
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