狩人達と薔薇の家

紫陽花

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夜のもてなし

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赤い瞳の女性は、丁寧にカレンの足首にガーゼをあてる。

犬に噛みつかれた時の傷は、思っていたよりは深くなく簡単な処置で済みそうだ。
先に治療をすませたへザーは通されたリビングを軽く見渡す。

ワインレッドのカーテンがアクセントになっている、落ち着いた雰囲気の家だ。
だが、その家具の間に小さな動物の剥製などがあり、時折ヘザーはそれと目が合いビクリと肩を震わせる。

「本当は薬とかも必要なんだろうけど、あまり揃ってなくて....ごめんなさいね」

ドアを背にするようにして座っている二人に、女性は救急箱をしまいながら女性は話した。
救急箱はドア横の棚にしまっていた為、二人の背後から声をかける。

最初はその特異な容姿に面を食らったが、すぐにその穏やかで柔らかい物言いに二人は自然と心が落ち着いていた。

「ああ、そうだ。お腹空いていない?軽く何か用意するから待っててね」

彼女は棚に救急箱を戻すと、キッチンの方へ行き何やら用意をはじめた。
その傍らには、黒い大きな犬が常についていた。

最初二人が家に入ったとき、歯を剥き出しにして唸ったが、「ドライ。だめよ」という、女性の一言で落ち着いていた。
良くしつけられているのだろう。

カレンは女性の言葉を聞くといきなり立ち上がったが、傷が痛んだのか足首を抑えてよろける。
隣に座っていたヘザーは、それを見ると慌てて彼女を支えてもう一度座らせる。

「無理しないでカレン。今になって傷が痛んできたんでしょ?」

気を使ってるヘザーの顔を見ると、カレンは痛みに眉間のシワを寄せながらも憤ったように

「連絡しないと....警察に...」

「あら?大丈夫?無理しちゃだめよ?」

トレイにサンドッチとお茶を乗せながら、女性がおっとりと注意する。
二人の前に皿をならべると、カップにお茶を注ぐ。
茶葉の良い香りが鼻をくすぐる。

「連絡だったら、もう二人が来た時にしているわ。だから安心してね」

カップを手渡しながら女性はカレンをなだめる。

いつの間にしていたのだろう。そんなことをしている仕草は見えなかったが...

ヘザーは疑問を口にしようかと思ったが、同じようにカップを手渡してくる女性の薔薇のように赤い瞳で見つめられると、何も言えなくなった。

「さあ、召し上がれ。口に合うと良いんだけど」

促されて皿のなかを見る。

肉とトマトがサンドされており、その間には新鮮そうなレタスも見えている。
先ほどまで無かった食欲がどこからか沸いてくる。

そういえば、事故あってから録に食べ物を口にしていない。
カレンもだろう。突然出された食べ物を前に目が離せなくっている。

恐る恐る、サンドイッチを手に持ち口に運ぶ。
あっさりとレモン風味の肉と濃厚なシーザーソースが絡みあっている。
気づくと二口目を噛っている自分がいる。
なんの肉か良くわからないが、とにかく美味しい。

横にいるカレンをチラリとみると、同じように
夢中になっているようだった。
全てたいらげるにはたいした時間もいらなかった。

女性はそんな様子を見ると、にこにことお茶のおかわりを注いでいく。

「家の人たちの夜食として用意してたのだけど少し作りすぎちゃっていたの。気に入ってくれて嬉しいわ」

食後だからと、紅茶にはちみつを混ぜてくれながら話す彼女に、がっついて食べてしまったからかヘザーとカレンは少し気恥ずかしそうにする。
が、ふいにカレンは女性に

「あの...家の人って、ご結婚されてるんですか?家に入るときに男性物の靴が見えて...」

と聞いた。
それを聞くと女性はキョトンとしたのち、ふふっと笑い

「結婚はしてないわ。でもね、すごく大切な人達と暮らしているの」

と、嬉しそうに話した。
白い頬に少し赤みが差す。
可愛らしい人だとカレンは思った。
同じ女性からみても嫌みの無い、上品で愛らしい女性だった。
ヘザーも甘味の増した紅茶を飲みながら、同様に思ったが、少し気になった点を今度は素直に訪ねた。

「あの、大切な人達って複数人のような言い方されてるのは...自分のご家族?ですか?結婚はしてないって言ってましたし」

「家族...そうね家族みたいかもね」

ヘザーの答えに濁したように答える女性。
空腹が満たされ安心したせいか、なんだかぼんやりとする。

そんな二人の背後で、閉じられたドアがそっと開いていく。
目の前の女性は相も変わらずに笑みを浮かべながら、「二人とも名前はなぁに?」と訪ねてきた。
自己紹介がまだだったと。

「ヘザー...です」

「カ...レ...ン」

力が上手く入らない。頭が働かない。後ろに迫って来ている人間にも気づかないくらいに。

「二人とも素敵な名前ね。ご両親が考えてくれた大切な名前なのねきっと」

と赤薔薇の瞳で二人と、背後の人物を見ている雪のような肌の女性。
同じように白い髪がさらりと動く。

「私の名前もね、大切な人たちが考えてくれた名前なの」

背後から忍び寄ってきた人物は完全に二人の真後ろにたつ。
ダイニングテーブルに映った影に、二人は気づいた頃、二人の肩にぽんっと手が乗る。
大きい男性的な印象のある手だ。
動きづらくなった体を奮い立たし、ゆっくりと後ろを向く。

「私の名前はロザリー」

女性が名乗ると同時に、カレンが悲鳴をあげ逃げようとする。
だが、自由の利かない体では体格の良い男からは逃げられない。
ヘザーは立ち上がろうにも力が入らず、椅子から転げ落ちる。
必死にドアの方へ這いつくばって移動する。
カレンの悲痛な声が聞こえてきた。
また見捨てる?いや、そもそも最初にソフィアを見捨てたのはカレンだ。
これは自業自得なんだ。そうだ。

ヘザーは自分に言い聞かせながら、家の床をナメクジのように動いていく。
あと少し、あと少しでドアに触れると思った瞬間にドアが開き、鉄の入ったブーツが目にはいる。

視線を上にあげると、黒い髪の鋭いヘーゼルアイが自分を冷たく見下ろしていた。
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