狩人達と薔薇の家

紫陽花

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買い物

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よくある小さな田舎町の片隅にある、小さな雑貨屋に一人の男が足を踏み入れる。
昼過ぎの眠気を催すような暖かい気候のなか、うとうととしていた店番の老婦人が反応をすると、軽やかな足取りで店の中を歩き、日用品を手に取っているしなやかな体つきの男に静かに話しかけ始めた。

「いらっしゃい。アル」

「こんにちは。またうとうとしてたでしょ」

呼ばれた男、アルは振り替えると老婦人に対し柔らかな口調で挨拶を返す
婦人はその言葉に、うふふと笑いながら「今日は暖かいから」と答えた。
アルはカウンターに商品を置くと肩をすくめながら、

「前もそう言って、悪ガキが万引きしに来てたじゃないか」

と、心配そうに注意をすると婦人は紙袋を用意しながら優しく微笑んだ。

「子供の頃はみんな一度は憧れるのよね、悪いことに」

手慣れた様子で紙袋に品物を詰めていく婦人は、途中で一度その手を止め目の前の男の顔を見つめる。

「それにあの時は、たまたま側にいた大人がしっかり叱りつけてくれたしね...わんちゃん達のエサはいる?」

アルを指差しながら、最後にそう言うと紙袋を差し出した。
彼は苦笑いしながら袋を受け取ると、軽く頷く。

犬たちは『肉』を最近食べすぎている所がある。
そろそろ調整をしなければ。

カウンターの戸棚から小さな鍵を取り出すと、アルに手渡す。
この店は敷地が狭く、店内にあまり多くの商品を置けない為、裏にある小さな倉庫に大型の商品を閉まっているのだ。
客は購入する際、鍵を借りそこから商品を取り出し精算する。

余裕があれば、犯罪防止に店の者が見ている付き添うことがあうが婦人はこの男を信頼していたこともあり、特に見張りをつけるような真似はしなかった。
田舎ゆえの防犯意識の緩さと言うべきか。

アルは一度店を出ると、脇の細い道を通り店の裏手に向かった。
そこそこの大きさの古ぼけけた倉庫のシャッターの鍵をあけると、錆び付いて軋むそれを力を入れて上に持ち上げるように開けた。

少しすえた臭いがする倉庫内には、大きめの段ボールがあちこちに詰まれており、中にはほんのりと埃が被っているものもあった。

アルはその中から自身の膝辺りまでの大きさの、赤いロゴのついた箱を見つけると二箱ほど積み上げて外へと運ぶと、出入り口の近くにそっと置くと再度シャッターを閉めようと手をかけた。

鍵をかけ直し、箱を持ち会計をするため店の前に行くと、何やら話し声が聞こえた。
内容までは聞こえないが、剣呑とした声が聞こえる店内に、気にせずにアルは足を踏みいれる。

そこには婦人の他に一人の女性が店内に居た。
やや茶の混じった赤毛の女性は、軽く巻かれた髪を翻しながら振り向くとアルの姿を見ると、慌てて笑顔を浮かべる。
どうやら、先ほどまで声を荒くしていたのは彼女だったらしい。

「あ...久しぶりね。アル。他の二人は元気?」

無言でカウンターに商品を置くアルの肩に手を置き、媚びるような声を出すその女性に冷たい視線を送りながら一言、

「元気だよ。それより店で騒ぐのはよした方がいいんじゃ?他に客がはいらなくなる」

と、突き放したように話しながら金を取り出す。

「元から客なんかいないわよぉ。ねえ、それよりも今晩どう?酒は飲めるでしょ?」

やや厚みのある黒い財布から、札を数枚取り出す動作をじっと見つめる女に気づいてはいたが、特に気にせずにいると女は再度作ったような甘えた声をだし、しなだれかかってきた。      

アルは反射的に顔をしかめる。
婦人に対して友好的に接していたが、基本的には人嫌いの彼は、特にとある条件を満たす女性を非常に嫌悪していた。

今、彼に色目を使っている女性はまさしく条件を満たしている。

似合わないバタ臭い化粧も、肌を無駄に出している下品な服装も、息が詰まりそうなほど臭い香水も。
すべてが腹ただしく感じていた。
恐らく、ここがいつもの森や自宅だったらすでに殺しているほどに。

「おやめなさいアリエラ。みっともない真似をするんじゃない」

そんなアルの雰囲気を察した婦人がピシャリと注意をする。
その様子先ほどとはうってかわり、小柄で顔に深いシワが刻まれた老女とは思えぬほど凛としており、どこか威厳まで感じさせた。

しかし、アリエラと呼ばれた女性はそんな婦人にも怯むことなく悪態をつきはじめた。

「黙ってなババァ。いいからあんたはさっさとボロい店を畳みな」

そこまで言うと、くるりと再度アルの方に顔を向けると彼の胸元を軽く撫でながら「またあとで」と囁くとヒールを鳴らしながら店を出ていった。

そんな彼女の後ろ姿を見て婦人はため息をつく。

「ごめんなさいね。デキの悪い娘で」

気落ちしたように告げる老女にアルは、答えるように軽く首をふって品を受けとる。

どうやら、老婦人の娘だったらしい。
狭く少し寂れ気味な町には珍しいタイプの人間だ。

買い物を終えた彼は、荷物を抱えて店からそう離れていない位置に停めていたカーキ色の車のトランクに放り込み出した。
運転席の開いた窓からは、鍛えられた腕の人物が煙草を吸っているのが見え、その微かな香りが四輪駆動の周囲に漂っていた。

後部座席には医薬品の入った紙袋と食料品が置かれてある。
どうやら他の買い物は終えたらしい。
すべてしまい終えると、アルは助手席へと乗り込んだ。

運転席にいた精悍な体の男は、助手席の彼を横目でみると煙草をシリンダータイプの携帯灰皿で揉み消した。

「ずいぶん時間がかかっていたな」

「ばあちゃんの店で変なのに絡まれた...レオ、煙草頂戴」

エンジンをかけながら尋ねてきたレオに、煙草をねだると彼は無言でポケットから煙草を取り出し、やや倒した助手席で寛いでいる男に差し出した。

手慣れた仕草で火をつけると、車内に独特の香りの紫煙が充満していく。
車は町を出てもうすぐ山道へと入っていくところだ。

「変なのって何があった?」

イライラと煙を吐き出しているアルの原因を探ろうと、レオは問いただす。
彼はしなやかな形の良い指に煙草を挟みながら、眉間にシワを寄せながら店での出来事を語りだした。

舗装をされていない道を跳ねるように進んでいく。
レオはアルの悲運を聞くと、苦笑いしながら慰めた。

「あそこの娘は典型的な...そう、なんだ、頭がハッピーなタイプだからな。前に俺も誘われた。犬に噛まれたと思え」

「うちの犬に噛まれるんだったらこんな嘆いてないさ」

珍しく言葉を選んでいる運転手に、うんざりしたように言葉を吐き出すアル。
疲れたように唇に煙立つ棒を挟むと、アルは思い出したように話題を変えた。

「なあ、ところであの子今朝早くに連れてかれたんだろう?」

「ソフィアか?ああ、迎えが来たよ」

どうやら、ソフィアは売られていくことを選んだらしい。
今朝早くに相手方が来て、彼女を屋敷へ連れていった。
上手く生き延びられるかは彼女次第だが、もしかしたら良いとこまでいくかもしれない。

「まあ、ここにいると確実に死ぬからな」

「賢い選択だよ...今日お前に絡んできた女もあのくらい賢いといいのにな」

ちょっと忘れかけてたのに...とアルが冗談を言っているレオに抗議をすると、小さな彼らの家が見えてきた。

ひとまずは平穏な日々を送るのだろう。

いや、少なくとも夜までは。
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