狩人達と薔薇の家

紫陽花

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罰2

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絹を裂くような叫び声で、アリエラの意識は完全に現実に戻された。

目を覚ました彼女が見たのは、猿轡ごしでもわかるほどの金切り声で叫び続けているイブリンと、完全に首を切り落とされたベンらしき死体あった。

先ほどの小屋でのみた光景も思い出し、もはや声もでないほどの恐怖が支配する。
今見ているものが現実であることも信じられなかった。

逆さ釣りの男の死体から、服を剥ぎ取り終わると、男たちは女たちの方を振り向く。
どうやら一旦作業を置いておくつもりらしい。

ずりずりと自由の効かない体を動かし、逃げようと試みている二人を、今度は両手首の拘束具にフックを付け釣り上げていく。

絶叫を上げながら体を揺らすイブリン。
あまりの激しさにぶら下げているワイヤーが軋みだし、不快な金属音をたてはじめていた。

「あんまり暴れるな、関節を痛める」

あまりに暴れている彼女を見て、ギルは口だけの心配をする。
彼が近くに引き寄せたワゴンの中身を、女たちは確認したくもなかった。

アリエラもおそらく同じように暴れたかったのだろう、が、暴れようとすると、あの小屋で見た人のような物体を思い出してしまい身がすくむ。

アイラインがにじみ、真っ黒になった涙が胸元に垂れていく。

不意に斜め後方から音がした。
何かを運ぶような音だ。

それと共に、どこかで聞いたことのある男の怒声も聞こえてきた。

「オリバー!!」

不明瞭な発音でアリエラは叫んだ。

二人の前に、ベッドに固定されたままのオリバーが運ばれてきたのだ。
彼は腰元に頼りない大判のタオルをかけられているだけで、他の衣服はすべて剥ぎ取られている。

先程まで悪態をつき続けていたオリバーだったが、どうやら彼も血抜きをされている死体を見つけたのだろう。
息を飲み、言葉を失ったように黙り込んだ。

そんなオリバーのことなど、眼中にないように
目の前のシルバーブロンドの男は話し始めた。

「さて、本当ならここですぐさま三人とも解体するんだが、質問が何点かあるから答えてくれ」

ワゴンから取り出した大振り肉切り包丁を、片手にとると、ぶら下がっている片方の女の太ももに押し当てる。

使い込まれていそうだがしっかりと手入れをされているそれは、実に切れ味が良さそうだ。

「まず一つは、ここに来ることを他の誰かに話しているかどうか」

冷たい刃で怯えているブロンド女の足を撫でつけながら、淡々とした面持ちで語りかけ続ける。

「そして、もう一つは他に薬大好きなの大馬鹿がいないかっていう話だ」

言い終えると、目線を一瞬吊るされている肉に眼をむけた。

どうやらほとんど血が抜けたであろうそれは、作り物のようにも見え、どこか現実味を感じさせない。
だが、バケツの中に乱暴に入れられた見知った頭が時折見え隠れしており、嫌が負うにもこれが現実だと知らされる。

「正直者には俺がご褒美をやろう…お願いがあったら聞いてやるぞ」

耳元で低く、どこか色香を含んだ声で目の前の男は呟いた。
その声を聞いたイブリンは、男の顔を乱れた前髪の隙間から覗き見る。

アメジストのような紫色の瞳が、哀れな女を捉えた。
相も変わらず肉切り包丁を剥き出しの太ももに押し当ていた彼は、イブリンのその様子を見ると猿轡を外した。

イブリンはガチガチと震える歯を必死に落ち着かせながら、

「お、オリバーが吸ってた」

と、喉奥から絞り出すように告げた。

その言葉を聞くな否や、縛り付けられているオリバーはベッドが倒れそうになるほど暴れだし、咆哮に近い大声をあげる。

「ふざけんじゃねええ!お前も薬中じゃねえかクソが!!キメて男とヤるのが趣味の売女がよぉ!!!」

首筋や剃りあげた頭に血管を浮かばせながら、怒声をあげ続けるオリバー。
どうやら、その場には居合わせなかったが、薬物中毒がバレた場合の末路を察したらしい。

しかし、質問主はそんなオリバーを無視しながら再度語りかける。

「良く答えてくれたな。お利口だ。ついでに最初の質問にも答えてくれないか?」

まるで口説くような口ぶりでイブリンに話しかけると、彼女はその様子にどこか安心したように頷き、先ほどよりも落ちついた口調で続けた。

「誰にも言ってない…下手に周りに言って失敗するのもイヤだから、絶対に誰にも話すなって言われて…」

そこまで聞くと満足そうに頷きながら、ギルは他の二人に目配せをする。

どうやら、他に『処分』するべき人物はいないらしい。

仕事が増えなくて良かったと安堵しながら、全て話した女の方に体を向けると、一言

「願い事は?」

「解放して!!誰にも話さないから!町からも出るから!!」

ギルの言葉に、被せるように嘆願するイブリン。

それを聞くなり彼は、近くのスイッチを押しイブリンを床に下ろすと、両手足の拘束を解いた。

どうやら本当に解放するらしい。

「このクソ女が!ぶっ殺してやる!」

しっかりしない足腰で冷たい床に降りた女は、よろけながらも出入り口に向かい走り出そうするのをみて、さらに憤った様子でオリバーはさらに罵声を付け加える。

が、それら全ての言葉を無視し女は駆け出した。

途中で見たくもない死体の横を通ることになるが、そんなのもはや気にしていられない。
いち早くここから出たい。

出たい。帰りたい。

彼女の目には出入り口は輝いて見えただろう。
もはやそれしか見えてなかった。

ベンの死体の近くに、その首を切り落とした男のが立っていることも、そしてその男は鉈を持ったままでいることも見えてなかった。

死体の横に彼女がたどり着くと同時に、片腕が掴まれる。

その勢いに負け、少しよろけた瞬間、自分の首に更なる衝撃がはしり、熱い液体が体を汚していく。

イブリンは信じられないといった顔で目線を動かすと、もう一人の男。
ベンを殺したあの大男。

「俺は願いを叶えると約束したけど」

完全に体の力は抜け、床に倒れると自分を解放した人物の声がどこかで聞こえる。

「他の奴はそんなこと約束してないんだよな」

薄れいく意識のなか、最後に聞いたのはせせら笑うような言葉だった。

    
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