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第9話 ポストにケチャップ
第9話 ポストにケチャップ
しおりを挟むある昼下がり。
テディは、お昼休みにお店で使う食材の買い出しに出ていました。
「たまごは買ったでしょ。あとミルクとパンも買った。
あっ!いけない。ケチャップを買うのを忘れてた!」
オムライスに使うケチャップを買うのを忘れてしまったのでした。
テディが、ケチャップを買いに戻ろうとふり返ったその時、テディはある1人のおばあさんを見て立ち止まりました。
おばあさんはポストの中を何度も何度も見て、はぁ~っと、ため息をついて、とぼとぼとお家の中へ入って行きました。
「まただ…」テディは呟きました。
この道を通ると、いつも、おばあさんがポストな中を見て、ため息をついているのでした。
“一体、おばあさんは何を見ているのだろう…”
テディは、当りに誰もいないことを確かめると、そぉっとポストの中をのぞいてみました。
“一体、何が入っているんだろう…”
テディは、ドキドキしながらポストの中を見てみると…
なんとポストの中は、すっからかんでした。
“なんだ、何も入っていないじゃないか。
何も入っていないからガッカリしてたのか。
サンタさんからの贈り物でも待っているのかな?”
テディがポストを覗きながら首をかしげていると「おい! 何をやっているんだ!」と、ガラガラの男の人の声がしました。
見るとそこには、太って、お腹の出っぱった、おじいさんが立っていました。
おじいさんの頭のてっぺんはツルツルと光っていて、耳の辺りには白くてチリチリした白髪がはえていました。
鼻は赤くテカっていて口の周りは白いヒゲモジャです。
テディが、おどろいて言葉を失っていると。
「何をやっているんだと聞いているんだ!」と、そのおじいさんが、さっきよりも声を荒げてテディの方へ顔をグッと近づけて来ました。
「い、いえ。別に… その…」
テディが返事に困っていると「そんなに大きな声を出してどうしたの?」
今度は後ろから優しい女の人の声がします。
#見__み_#ると、そこには、さっきのおばあさんが立っていました。
「この猫が、勝手に、あんたのポストをのぞいてやがったんだよ。だから、おいらがとっちめてやろうと思ってたところだ。」
「コホン! ぼくは、猫では、ありません!由緒正しいテディベアです!」
テディは自慢気に小さな胸をはりました。
「クマでもパンダでも、そんなことは、どっちでもい!お前さん! こんなところで一体何をやっているだ!」
「パ パ パ パンダだなんて!」
テディが顔を真っ赤にして怒ると「ぼうや。一体、何をやっていたのかしら?」
おじいさんの後に、続けて、おばあさんがテディに優しく問いかけます。
「あ、あ、あ、あの… 」
2人から目を反らすように、さきほど買ってきた紙袋の中を見ました。
そして「ケチャップ!」と言いました。
「ケチャップ?」「ケチャップ?」
おじいさんとおばあさんは不思議そうにお互いの顔を見合わせました。
「は、はい。あの… ケチャップを買い忘れたので、ポストにケチャップが入ってたらいいなと思ってのぞいていました。」
「ポストにケチャップ!?」「ポストにケチャップ!?」
おじいさんとおばあさんは、また顔を見合わせて今度は大きな声で大笑いをしました。
「そんなもん入っているわけないじゃないか!」
「そんなの入っているわけないじゃないの!」
テディも(ぼくだってポストにケチャップなんて入っているわけないって思うよ…)
テディは、とっさに出た自分のヘタなウソに思わず顔を赤らめてしまいました。
「まぁ、いいわ。うちのケチャップを少し、分けてあげましょう。ちょっと、あがっていきなさい。」
テディが、もじもじしていると
「なに、遠慮することないのよ。私しかいないんだから、この家には。遠慮なくお上がんなさい。」
テディは、思いもよらない展開に、少しドギマギしましたが、おばあさんの優しい声に誘われるがまま、お家の中へと入っていきました。
「じゃあな、ばあさん、何かあったら遠慮なく呼ぶんだぞ。」そう言ってひげモジャのおじいさんは、隣の家へと帰って行きました。
中に入ってみると、4人掛けのテーブルが、静かにテディを出迎えました。
「好きなお席に、おかけなさい。今、ケチャップを瓶に詰めますからね。 1人で住んでいると、ケチャップでも何でも余っちゃってしょうがないのよ。」
そう言いながら、おばあさんは、せっせと瓶にケチャップを詰めました。
グー
ふいにテディのお腹が鳴りました。
「あら? お腹が空いてるの?」
テディは、恥ずかしそうに下を向きました。
「いいわ。うちで、お昼を食べて行きなさい。今、熱い紅茶を煎れますからね。」
テディは、ケチャップまで分けてもらう上に、紅茶までご馳走になって良いものかと、もじもじとしているうちに、おばあさんはテディの目の前で、紅茶を煎れ始めました。
茶色い紅茶の葉の上に、熱いお湯を注ぐとみるみるうちに、湯気が立ち、香ばしい香りがテディを包み込みました。テディは、クンクンと鼻を鳴らしました。
「紅茶には、お砂糖?それともジャムかしら?」
おばあさんが、テディに聞くと、テディは家の中をキョロキョロと見渡しました。
「これかしらね。」
おばあさんは、テディにはちみつの入った、瓶を見せました。テディは、見透かされたようで恥ずかしくなって顔を赤らめました。
「これかしらね。」
テディの目の前で、たっぷりのはちみつが、注がれました。テディは、横からはちみつを舐めたい気持ちを必死で我慢しました。
「はい。召し上がれ。」 テディは、紅茶の入ったティーカップを抱きかかええるようにして、飲みました。
「おいしーい!」
「あら、気に入っていただけたみたいね。」
おばあさんは、嬉しそうに言いました。 続いて、軟かく潰したポテトやひき肉の入った“コテージパイ”とかいう食べ物や“スコッチエッグ”や“スコーン”とかいう食べ物が出てきました。
テディは、はじめて見る食べ物に目をまん丸にし、いただきますを言うのも忘れて食べ始めました。
「おいしーい!」
こんなおいしいお料理を食べるのは、どのくらいぶりでしょう。
きっと、テディのおじいさんが最後にお料理をつくってくれた時以来でしょう。
「まぁ。本当にお腹が空いていたのね。たくさんお食べなさい。」
おばあさんは、テディが食べる姿を嬉しそうに眺めました。
「お腹いーっぱい!」
テディは、満足げにお腹をさすりました。
そして、ふと時計に目をやると「いっけない! お昼休みが終わっちう!」
「あら!お昼休憩中だったのね!早く戻りなさい!」
そう言って、おばあさんはケチャップの入った瓶をテディに持たせてくれました。
テディは、ごちそうさまをすると、急いで喫茶店へと帰って行きました。
その日の夜。
テディは、お昼におばあさんのお家でごちそうになった、紅茶やコテージパイ、スコッチエッグ、スコーンのことを思い浮かべながら、眠りにつきました。
こんなに、ぐっすり眠れたのも、きっと、テディのおじいさんが最後にお料理をつくってくれた時以来のことでしょう。
次の日のお#昼休_ひるやす__#み。
テディの足は自然とおばあさんの家の方へと向かっていました。
おばあさんは、また、ポストの中をのぞいてため息をついています。
テディが、おばあさんに話漢字しかけるかどうか迷漢字っていると、「ばあさん! また、猫漢字が遊漢字びに来漢字てるぞ!」
という声漢字がしました。
声の方を振り返ると、また、おばあさんの隣人の髭もじゃのおじいさんがいました。
「ぼくは、テディベアです! 失礼な!」
テディが、プイっと怒ると
「あら、またポストの中のケチャップを見に来たの?」
と、おばあさんが、テディに歩み寄りながら、テディを茶化すように聞きました。
するとテディのお腹がまた、グーっと鳴りました。
「あら。今日は、コテージパイ?
それともスコーンかしら?
はちみつがたっぷりかかったホットケーキもあるのよ。」
と、おばあさんがテディの顔をのぞきこみました。
テディの代わりに、お腹が“グー”と鳴って返事をしました。
結局テディは、今日もおばあさんのお家にお邪魔して、ホットーケーキとベーコン、それから、はちみつたっぷりの紅茶をいただきました。
テディは、毎日のように、おばあさんのお家に、遊びに行くようになりました。
ミートパイ、マフィンにプディング。
「ぼくの知らない食べ物がいっぱいあるんだなー どれもこれもおいしい!!」
「そう。遠慮なく食べてね。誰かと食べるご飯は、おいしいものねぇ。」
テディは、食べ物以外にも、テディの知らない物語や遊びも、たくさん教えてもらいました。
そんな、ある日、テディがいつもどおり、おばあさんのお家に入ろうとしている時、「また、来てたのか。」と、あの隣人の髭もじゃのおじいさんが話しかけて来ました。
「こんにちは。」
テディは、軽漢字く会釈漢字をしました。
「お前さんが来るようになってから、あのばあさん、最近、元気になってきたんじゃないか。
ばあさんの息子さん死んじまったからなぁ!」と、髭もじゃのおじいさんが言いました。
「死んじゃったの…?」
なんて言えば良いのか分からずに、黙っているテディのことを気にする様子もなく、髭もじゃのおじいさんは続けました。
「なんでも、大昔に、ばあさんの旦那と息子さんが、遠くの国に出稼ぎに行ったんだってさ。
毎日のように旦那と息子さんから手紙が届いてたんだが、ある日を境にパタリと届かなくなったんだって。
噂によると、ちょうど同じ頃、この島に向かう船が沈んだらしく、その船に乗ってたんじゃないかって話だぜ。
まだ生きてると信じて毎日このポストに手紙が届くのを待ってるんだ。
この島で生きてるなんて信じてるのは、ばあさんくらいだよ。
それがきっかけで、残されたたった1人の娘も気に病んで、しばらくしてから亡くなったんだと。可哀想に。」
「そうだったんだ。それで、おばあさんは毎日、ポストの中をのぞいていたのか…」
「お前さんも、ばあさんが、毎日ポストをのぞいてることに気づいていたんだな。
それで、お前さんもポストの中が気になって、のぞこうとしてたのか?」
コクリ テディは、うなづきました。
ふと視線を感じた2人が、視線の方に目をやると、そこには、おばあさんが立っていました。
「まぁまぁまぁ。そんな小さな子に、言わなくて良いことを。ほら、そんなとこに突っ立てないで、中にお入んなさい。」
おばあさんは、いつもより明るい声でテディを迎え入れました。
その日もテディは、いつものように、おばあさんと一緒に食事をしましたが、優しくてお料理が上手だと思っていたおばあさんが、今日は、なんだか急に小さくて寂しいおばあさんに見えてきたのでした。
その日の夜。
「死んじゃったんだ…
ぼくと同じ、おばあさんも1人ぼっちなんだ…」
テディは、船の中で旅人に聞いた物語を思い出しました。 ゆっくり、ゆっくり思__おも__#い出しました。
次の日のお昼休み、テディは、おばあさんのお家に行きませんでした。
次の日も。そのまた次の日も。
テディは、やっぱりおばあさんのお家に行きませんでした。
それから何日もテディは、おばあさんに会いに行きませんでした。
そして、喫茶店がお休みのある日の正午頃、テディのお腹が“グー”と鳴りました。
テディの足は自然と、おばあさんのお家に向かっていました。
おばあさんの家にたどり着いた、テディは、どんな顔をして、おばあさんに会えば良いのか分からず、家の前で、もじもじしていました。
しばらくすると家の中からおばあさんが出てきて、「どうしたの、そんなところに突っ立って。さぁ、中にお入んなさい。」
そう、言ってテディを家の中に招き入れました。
テディは、黙ってうなずくと、おばあさんの家に入りました。
久しぶりに、訪れたおばあさんの家のテーブルには、いつものようにテディの分のお料理が並んでいました。
「ココアも冷えてるのよ。」
そう言うと、おばあさんは、テディにココアを出しました。
冷たく冷えたココア。
その上には、ココアが見えなくなるくらい、たっぷりの生クリーム。
グラスを持つと、氷がカランと鳴りました。
「いただきます。」
テディは、雲のように、ふわふわの生クリームに顔をうずくめるようにして、ココアを飲み始めました。
あっという間に、テディのお顔は生クリームで真っ白に。
「あらあらあら。」
おばあさんは、生クリームだらけのテディの顔を見て笑いました。
けれど、テディは、黙ってコクコクとココアを飲んでいます。
「お味は、どうかしら?」
おばあさんの問いかけに答えることもなく、テディは、黙ってココアを飲み続けました。
「お気に召さなかったかしら?」
ココアを飲み終わったテディは、グラスから顔を離さず、
生クリームに顔をうずくめたままでした。
そして、テディは、そのまま泣きだしてしました。
「どうしたの?」
「…ぼ ぼくの …ぼくのおじいさん、死んじゃったんだ。
…それでぼく、1人でこの島に来たんだ。」
おばあさんは、少し驚いた顔をしましたが、すぐにテディの肩を抱き寄せ「まぁ。悲しいことを思い出させてしまったのね。」と言いました。
「ぼく毎日、寂しいよ。おばあさんは、寂しくないの?」テディは、涙と生クリームでぐちゃぐちゃになった顔を、さらにぐしゃぐしゃにして聞きました。
おばあさんは、少し黙って言葉を選ぶように言いました。
「そうね。今でも毎日毎日、寂しいわよ。
この広い海の果てのどこにいるのかしらって…
こうして毎日毎日、ポストの中をのぞいて、待ち続けるだけの変わらない日々がずっと続くのかって…
もう何十年も、そう思ってきたのよ。 …でもね。そうじゃなかったの。」
おばあさんは、優しくテディを見つめました。
「毎日ポストをのぞいていたお陰で、こうして、こんなに可愛い白くま君が、うちに遊びに来てくれるようになったんだから。」
おばあさんは、ほほ笑みながら、テディの顔じゅうについた涙入りの生クリームを拭いました。
テディもつられて、恥ずかしそうに笑いました。
そして2人で笑いながら、ほほを伝う涙を拭い、また笑いました
窓からそよぐ潮風が、2人のほほをなでゆきました。
おばあさんは潮風を見送るように窓の向こうを眺めました。
「海って広いのねー…」
相変わらず、ポストにケチャップはありませんでしたが、空腹な2人の気持ちも、今日ばかりは、満たされたのでした。
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