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第六章:恋の自覚と気持ちの変化

第24話 ユニコーンの特性は厄介だ

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 現場は騒然となっていた。ユニコーンは中央街の中心である広場の噴水に飛び込み、周囲を威嚇している。周囲の魔族たちはユニコーンから逃げて広場は誰も入れないようにガルディアの隊員たちが封鎖していた。


「女性の方は離れてください! ユニコーンの視界に入らないでください!」


 竜人のサイファーは周囲に警告する。ユニコーンは処女の女性に目がないが、そうでない女性には攻撃的だ。迂闊に女性がユニコーンの視界に入るのは危険で、暴れる要因にもなる。

 指示に従うように女性たちが逃げていくが、野次馬の中には人混みに隠れるように興味本位で覗いている様子が見えて、サイファーは気になる気持ちは分からなくもないがと溜息をつく。

 暴れるユニコーンを落ち着かせようと試みるが、男性隊員が蹴り飛ばされてしまう。あれは痛いだろうなとサイファーは蹴られて悶えている部下に手を合わせた。


「どうなっている」


 現場に駆けつけたアデルバートら三人がサイファーに状況の説明を求める。彼は簡潔に話すとユニコーンを指差した。すでに周囲を取り囲まれてはいるものの、暴れており複数人の隊員たちが負傷している。ユニコーンは怒りで周りが見えていないようで、それに気づいたアデルバートがどうしてこうなったと質問する。


「どうやら、中央街の女性たちを見て興奮したみたい……」
「あー、既婚者とか恋人持ちとか中にはいるもんな……」


 サイファーの返答にバッカスは言う、そりゃあ興奮も怒りもするわと。処女ではない存在もいるのだから、その特性ゆえに怒り暴れるのは想像ができた。

 とはいえ、落ち着かせるためにはどうにかしなければいけない。女性隊員も中にはいるが、迂闊に近づくことはできなかった。


「グラノラちゃんも危なくない?」
「危ないわよね……でも拘束魔法を使える魔族は少ないし……」
「拘束魔法を使えるグラノラに頼るしかないが……」


 拘束魔法というのは高度な魔術だ。相手の動きを制御し、身動きを取れなくさせるというのは神経を使う。そのため、使える魔族というのは限られているのだが、その中でも優秀だったグラノラに拘束を頼むほうが成功率は高まるとフェルグスも判断した。

 とはいえ、グラノラは女性なのでユニコーンを刺激する。アデルバートは「グラノラを隠すように配置、ユニコーンを刺激するな」とガルディアの隊員に指示を出す。グラノラを隠すように配置につき、じわじわとユニコーンと距離をとっていく。

 ユニコーンは顔を上げると雄たけびを上げた。野次馬の中に女性を見つけたようで、一直線に走っていく。広場の外で野次馬をしていた魔族たちが走って逃げていくのを見て、グラノラは溜息を吐く。広場から出ないように隊員たちが前を塞ぐも、ユニコーンはその脚力で軽々と飛び越えていき、中央街の奥へと駆け抜けて行ってしまった。


「追え!」

 そう指示を出してアデルたちは駆けだした。

   ***

 中央街が騒がしい、ユニコーンが暴れて店の窓ガラスが割られている。人々は逃げて、物陰に隠れて、場は騒然としていた。

 カフェのテーブルの下にシオンとサンゴは隠れていた。その前にガロードとカルビィンが立って二人を隠している。ユニコーンは処女の女性に目がない、そうでない女性には攻撃的になるので狙われないようにガロードとカルビィンは二人を守っていたのだ。


「ユニコーンってあんな狂暴なんだ……」
「既婚者とか恋人がいる女性とかが出入りしてるからね、中央街」


 中には処女の女性もいるだろうけれど、そのほかの要因のせいでユニコーンは怒りに前が見えていないようだ。

 ガルディアの隊員たちが拘束に動いているけれど、ユニコーンの暴れっぷりに手を焼いているように見える。様子を観察していると隊員の中にアデルバートの姿があった。魔物対策課と言っていたので、魔物であるユニコーンの処理を任せたのだろうことは理解できたシオンは大変そうだなと彼を見遣る。


「アデルさんいるわね」
「あれそうだよね。大変そうだな……うん?」


 ぴょこっと白い何かか顔を覗かせていた、それは見覚えのある姿で。


「白雪っ」
「ガウアー」


 シオンの声が聞こえたのかスノー・ホワイトは嬉しそうにぴょこぴょこと走ってきた。スノー・ホワイトを見たサンゴが目を丸くしている。


「どうして此処に? あ、アデルさんが連れてきてたのか」
「え、この子、あのドラゴン?」
「シオンたち顔出したら駄目だよ」


 カルビィンに注意されてシオンは「いや、この子が」と指をさす。スノー・ホワイトに気づいたガロードとカルビィンは「何故?」と言いたげな表情を見せていた。


「多分、アデルさんについてきたんだと思うんだよねぇ」


 三人にスノー・ホワイトがどうしてこの状態なのか訳を話すとシオンは抱きかかえる。スノー・ホワイトは嬉しそうに喉を鳴らしていた。


「この子って女の子?」
「みたいだよ」
「なら、気を付けなきゃ。魔物でもユニコーンは関係ないから」
「そうなのか。大人しくしてなきゃだめだぞ」
「ギャウ」


 シオンの言葉を理解しているのか、スノー・ホワイトは頷くような仕草をした。一応は言うことを聞いてはくれているらしい。

 カルビィンは「それ大丈夫?」とスノー・ホワイトを指さす。


「アデルさんの傍にいなくていいの?」
「あ」
「そうですねぇ。いくら契約しているドラゴンとはいえ、契約者から離れるのは如何なものかと私も思いますが」


 カルビィンとガロードに指摘されて、シオンはそうだよなとスノー・ホワイトを見る。スノー・ホワイトはアデルバートとともに来ているのだから、傍にいなければ心配をかけてしまうのではないか。

 シオンは返さなきゃ駄目だよなとスノー・ホワイトを地面に降ろした。スノー・ホワイトは不思議そうに見上げているそのつぶらな瞳にシオンはうっと声を漏らした。


「シオンちゃん」
「わかってるって!」


 シオンはスノー・ホワイトと目線を合わせるようにしゃがむと優しく頭を撫でた。


「白雪、アデルさんが心配するから戻りな」


 そう言ってアデルバートのいるほうへと身体を向けさせてやれれば、スノー・ホワイトはシオンとアデルバートのほうを何度か見比べてからてとてとと走り出した。どうやら理解はしたらしいのだが、シオンは大丈夫だろうかととスノー・ホワイトの背を見送った。

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