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七章……鷲獅子は血肉を喰らう

第42話:人を惹きつける才能がある

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 早朝、支度を整えてクラウスたちは出発した。グリフォンとの戦いで疲れが残ってはいるが森を先に抜けることを優先したようだ。

 その後は何事もなく進み、昼を過ぎる前に森を抜けて、平原へと出たクラウスたちは途中の道でシュンシュとランと別れる。


「助かったよ。村はもうすぐそこだから此処までて大丈夫だ」
「こちらもグリフォンの戦いでは助かった、ありがとう」
「お互いさまってね。ラプスの町でなんかあったら手助けするからいつでも言ってくれ」
「ありがとうございました」


 ランが頭を下げ、シュンシュは手を振る。彼らに別れを告げてクラウスたちはファントルムへと向かった。

 平原を真っ直ぐに進んでいけばファントルムに着く。残すは道一本なので余程のことがなければ夕方前には到着するだろう。

 クラウスは馬車に揺られながらぼんやりと空を見上げた。雲一つない晴天に雨の心配をしなくてすむなと考えながら。


「クラウスさん」
「どうした、ヒルデ」


 ひょこっと馬車から顔を覗かせるブリュンヒルトにクラウスが返せば、「あの、大丈夫ですか?」と問われた。

 なんのことだろうかと考えて、シグルドに言われたことを思い出す。ブリュンヒルトが心配していたということを。


「何も問題はない、大丈夫だ」
「そうですか……その、言いたくないことは言わなくてもいいんですけど、何かあったら言ってくださいね?」


 一人で抱え込むことはないのでとブリュンヒルトに言われて、クラウスは彼女にかなりの心配をかけていたのだなと気づく。遠慮げで、けれど僅かに揺れる瞳を見て。


「何かあればヒルデに話そう」


 その不安を取り除くようにクラウスは笑む。ブリュンヒルトは彼の返事に安心したのか、目元を和らげて「話はちゃんと聞きますからね!」と笑い返した。


「愚痴ぐらいいつでも聞くぜ?」


 話を聞いていたアロイにも言われて、それほど自分は分かりやすいものだったかと少しばかり気恥ずかしく頬を掻いた。そんな彼に「出会った時よりは表情柔らかくなりましたよ」とブリュンヒルトが言った。

 最初は表情少ない印象だったけれど今はだいぶ表に出ていると言われて、そうだとうかとクラウスは自身の変化に驚いた。何を考えているのか分からないから気味が悪いと言われてきたので、そう指摘されても実感というのがあまりない。

 アロイが「オレらと一緒にいるからじゃね?」と指を鳴らす。


「誰かと一緒にいることで変わるっていうしな」
「そうかもしれませんね!」
「なるほど」
「クラウスお兄ちゃんはどんどん笑うといいよ!」


 ぬっとルールエがアロイの隣から顔を出して言う、笑った顔が素敵だよと。笑みを見せるクラウスの表情は綺麗なものだったからルールエは言ったようだ。意識していたわけではないのでそう言われてクラウスは頬を擦る。


「笑顔はどうなんだろうな……」
「まー、意識してできるもんでもないし。今の自然体のクラウスの兄さんでいいとオレは思うぜ」


 無理して笑ってもそれはルールエが言っているものとは違う。だから、今のままでいれば自然と笑えるのではないかとアロイは言いたいようだ。

 そうかとクラウスは納得したように頷いた。自分はちゃんと笑えていたのだなと思いながら。


「溜め込まずに言ってくれよ」
「あぁ……三人は何かあるだろうか?」


 パーティを組んでからまだ日は浅いにしろ何かあるのではないか。シグルドに聴いた時と同じように三人に問う。それにアロイが考えるように腕を組み、ブリュンヒルトはうーんと首を傾げる。


「私は特に……クラウスさんが溜め込んでないか心配なぐらいで」
「あたしはぬいぐるみ用の材料が欲しいかなぁってぐらい」
「心配をかけてすまない、気を付けよう。ルールエ、グリフォンの毛皮を後で分ける」


 心配を少なからずかけてしまったことを詫びながらクラウスは狩ったグリフォンの毛皮を分けることをルールエに伝える。毛皮が貰えることにルールエは嬉しそうに頬を緩ませながら「わーい」と声を上げた。


「オレはあれだね。パーティメンバー増えたから資金増やさねぇとなってことぐらい」
「それはそうだな。パーティ資金とメンバーの取り分は別けてはいるがもう少し余裕はあったほうがいいかもしれない」


 一人二人とメンバーが増えたので資金の減りが少々増えた。依頼をこなしていかねばいけないなとクラウスが呟けば、それなとアロイが同意する。

 休みも必要ではあるが生きていくには金が必要になるので、こつこつと依頼をこなしていかなければならない。けれど、無理はよくないのでそこを調整しながらやっていこうということで話はまとまった。


「フィリベルトにも聞かないとな……」
「おっさんはなんかありそうっちゃありそうだよな」
「戦闘の指揮を頼っりきにしているところが気になる」
「クラウスの兄さんも頑張ってるとオレは思うぜ?」


 基本的にフィリベルトが戦闘では指揮を執っているので、任せっきりになっていないか気になっていると、クラウスに言われてアロイはあんたも頑張ってるだろと返す。

 戦闘では周囲を把握して戦っているつもりだが、それでも不安がないわけではない。とは言うけれどフィリベルト本人にそれは聞いてみるしかなかった。


「ねぇねぇ、町ってもうすぐ着く?」
「そうだな……日もだいぶ落ちてきたからもう少しだろう」


 空を見てクラウスがそう答えると、ルールエは「どんな町なんだろうね!」とワクワクしているようだ。そんな彼女に「町に着いたら何かしたいことありますか?」と問う。


「えっとねー、ぬいぐるみの素材探し!」
「あー、魔物の毛皮とかかー」
「牙とか爪も素材になるからね!」


 もっと頑丈なぬいぐるみを量産するんだとにこにこするルールエにアロイは「クラウスの兄さんに頼めー」と言われる。


「財布握ってるのクラウスの兄さんだぜー」
「クラウスお兄ちゃん!」
「わかったからその瞳を向けないでくれ」


 どうも小動物特有の潤んだ瞳や子犬のような眼差しにクラウスは弱かった。ルールエやブリュンヒルトは無自覚でそれをやるのである意味、質が悪い。アロイはそれを分かっているので、「クラウスの兄さんも大変だねぇ」と肩を叩かれる。


「敵う気がしない……」
「クラウスの兄さん、頑張れ」


 そんなクラウスのことなど知らず、ルールエはわーいと喜んでいる。「クラウスお兄ちゃんありがと!」と声を上げているのを少し離れた後ろでシグルドが聞いていた。楽しげに話している様子にじとっと眼を向けながら。

 そんな様子にフィリベルトが小さく笑って「もう少しで着く、それまでの辛抱だ」と声をかけた。

 馬に乗っている二人は馬車組と会話をするのは難しい。シグルドはフィリベルトに言われて「分かっている」と返す。


「リーダーは慕われているのだな」
「皆まだパーティとしては日が浅いが、クラウスを信頼している」


 クラウスの言動は悪いものではない。面倒見は良く、周囲のことを気にかけて戦闘で無茶をすることもなかった。己自身に嘘をつくことができず、気持ちは素直に言ってくれる。疑ってしまうような行動を彼はしていなかった。

 ルールエはクラウスの優しさに懐き、ブリュンヒルトは救われている。アロイは彼の強さに助けられ、フィリベルトは嘘の付けない想いに惹かれた。


「クラウスは何処か人を惹きつける才能がある」
「……なるほどな。オレのようなものも受け入れるだけの懐の深さもあるのその優しさか」
「そうだろうな。恋愛絡みなど面倒ごとになりかねない相手を受け入れたのだから」
「……迷惑はかけないように努めよう」
「そうしてくれ」


 フィリベルトの言いたいことを理解したのか、シグルドが言えば彼ははっはっはと笑いながら「分かってなら問題はないだろう」と返した。


 日がゆっくりと傾いていく、平原の先にぽつりぽつりと建物の影が見えたきた。ファントルムの町まではもう着くだろう。

 クラウスたちを乗せた馬車は真っ直ぐに走っていく、ファントルムの町まで。

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