天上院時久の推理~役者は舞台で踊れるか~

巴雪夜

文字の大きさ
20 / 29
三.演劇は終わりを告げる

19.これは素人が作り出したシナリオだ

しおりを挟む
 ゆっくりと落ち着きを取り戻した前島は椅子に座り、時久たちに謝罪した。迷惑をかけてしまったと頭を掻きながら。

 死を思いとどまってくれたのならばそれでいいと時久は「落ち着きましたか?」と返すと、「だいぶ落ち着いたよ」と前島は頷いた。彼の様子を見るに話ができそうだったので、時久は自分たちが訪ねた理由を話す。

「確かに白鳥とは二人で話すことはあったが、特に変わったことはなかったな……」

 死ぬ前日も普通通りで何かあった素振りもなく、事件当日もいつもの調子で朝練をしていた。鍵を借りに来た時もはりきっていたようで、悩みなど何か嫌がらせを受けていた様子は感じられなかったと前島は答える。 話を聞いてふむと考えから時久は「部員たちの役割を教えていただけませんか?」と質問する。

「部員たちの役割というと、役者とかだろうか?」
「えぇ、そんな感じです。できれば細かいことも教えていただけると助かります」

 時久にそう言われて前島は細かいことかと腕を組んだ。

 衣装担当・舞台装置担当・役者・小道具担当・雑務と演劇部では役割が別れていた。舞台装置を率先して担当していたのは沢渡斗真で、たとえ先輩であっても容赦なく言っていたようだ。

 半沢美波・平原裕二・白鳥葵・皇由香奈と一年生が一人、他に三年生一人がメインの役者をやっていて、人数が足りない場合は裏方を担当している生徒がキャストに入るようになっていた。

 脚本は皇由香奈がメインで執筆していたが仕切っていたは白鳥葵で、中部陽菜乃は衣装と小道具を兼任していてるのだと教えてくれた。葵から雑用を任されることが多かったせいか、「兼任ぐらいできるわよね?」と言われてしまい断れなかったらしい。

「演劇部の部員なら小道具置き場や小ホールは簡単に行き来できますよね?」
「鍵さえ開いていれば特に怪しまれずに行き来できるはずだ」

 部員なら小道具置き場に居ようと小ホールに出入りしようと怪しいとは思わないのだと前島は答える。

「次の演劇の準備とかもあって小道具置き場とか人が出入りしてたから物の移動は多かった記憶があるね」
「次の演劇ってミステリーもののやつだよね?」

 飛鷹の問いに前島がそうだと頷く。小物を多く使うのでその調達などで出入りが多かったようで、何がいつどこで移動されたかなどの把握は難しいと証言した。

「やっぱり小道具って集めるの大変なんですかね?」
「そうだね。高校の演劇部は大きくはないから小道具を集めるというのは大変なことだ。でも、沢渡のお父さんが舞台演劇に携わっている人だから、使わなくなった小道具とか寄付してくれたんだ」

 斗真が演劇部の新入部員として入った時に春休み前から考えていたミステリーものが正式に決まったのだか、その時に小物の調達の話になって父親に聞いてくれたのだという。

 処分に困っていた小道具を寄付という形でくれたのでみんな喜んでいた。かなりの数だったので整理がまだできていないと前島は思い出したように話す。

「事件があってから小道具置き場に行けてないのでそのままになってるはずだ。片付けることを考えると……」
「それは大変そうだぁ……」

 もう暫くは講堂への立ち入りは制限されているようなのでまだ部活動はできないだろう。ただ、廃部の話も出ているので部活動自体がどうなるかは分からないと前島は小さく溜息を零す。

「変な噂も立ってしまっているからもしかしたらもう……」
「もうなんか噂してる生徒は確かにいたよね……」

 裕二が連行されたことはすでに広まってしまっている。さらにあることないこと言って広めているので質が悪い。とはいえ、人の噂というのは自然と消えていくものだ。変に蒸し返すことさえしなければ大丈夫だろうと時久は思ったので、そのまま伝えた。

「それもそうかもしれないね、しかし、わたしにはもうこれぐらいしか話せることはないかもしれない」

 申し訳ないと頭を下げる前島に時久はふむと考える。話を聞くに部員ならば小道具置き場の倉庫には自由に出入りしても疑う人はいないという。雑多に散らかっているので、備品を持ち出したとしてもすぐには気づかないだろう。

 凶器のビニール紐も、石の置物も演劇部の備品だ。犯人はそれを分かった上で利用しているのは間違いない。

「小ホールは密室だったよね?」
「えぇ」
「そういえば、次やる演劇も密室じゃなかったっけ?」

 確か鍵を巡るミステリーもので、屋敷で密室殺人事件が起きるとかと飛鷹が思い出したように呟く。物語自体は今回の事件とは全くにても似つかないものではあるが、密室が関わってくるのは同じだった。

「そうだ。沢山の鍵を巡って真実にたどり着くっていうストーリーだったはずだ。トリックとかは皇と白鳥で考えて、アイデアはほかの部員たちも出してくれたと話を聞いている」

 自信作だと自信もって由香奈が言っていたと前島の話を聞いて、飛鷹は「自信あったものができなくなるって悲しいだろうな」と彼女に同情していた。

「問題は密室であったことなんですよね。これが解ければ……」
「うーんとあたしにはよく分からないけどさ。意外と簡単なことなんじゃない? ほら、実は合鍵がありましたーとかさ」

 難しく考えすぎているだけで、実際は意外と簡単なところに答えがあるのかもと飛鷹は言う。

「意外と簡単なところ……」

 これは難しく考えるものではない、そう素人が考えたシナリオだ。飛鷹の言葉を聞いて時久ははたりと気づく、それは今まで疑問だったもやもやが晴れるように。

「前島先生。鍵を紛失した時、取り替えたという報告はなかったと言っていましたよね?」
「え? 確かに報告はなかったらしいが、もう数年も前の事だ。それにいくらなんでも取り替えていないなんてことは……」
「では、紛失した鍵が見つかったという報告はありましたか?」
「いや、それもないが……」 

 それがどうしただろうかと前島が首を傾げれば、時久は「前島先生、小道具置き場の鍵を貸してください!」と声を上げた。突然のことに前島は「倉庫の鍵?」と問うが、「急いでください」と時久に急かされて立ち上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...