初めて愛をくれたのはあなたでした

紫音

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プロローグ

接待はもう懲り懲り

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 「ふわぁ~…。..ふぅ。」

誰もいない教室に宮本 日菜の
間抜けなあくびの声がぽつんと響いた。

 時刻は現在午前7時。

部活動の朝練などが禁止されているこの学校では、この時間に登校している生徒はとても珍しいはずなのだが、日菜は約1年前から毎日この生活を続けている。



「まぁ、こんな時間にあの子が登校して来たことなんて1度もないしそろそろこんなに早く来るのはやめよっかな…ぁ」
 

と、1人なのをいい事にポツポツと呟いていると、廊下からコツコツとヒールの音が聞こえてきたのを感じた。


日菜は眠気でふにゃっとしていた姿勢を直し、
周りから評判も良い、いつもの

「真面目で高嶺の花な宮本さん」

を自分に貼り付けた。


ガラガラ…


「あら、宮本さん。おはよう。
いつも早いわねぇ。」



「おはようございます。泉先生。
いえいえ、そんなことありませんよ。」



「宮本さんには生徒会活動以外にも
私たちは感謝しているのよ?
それに学業も頑張っているし、
貴方はこの学年の誇りだわぁ…」


毎回教室を訪ねては日菜を絶賛してくる泉先生の話を日菜はにこやかに聞いている。

その笑顔の裏では
この話何回目かなぁ…とか、
泉先生毎日来て飽きないのかな…
まぁ、悪い気はしないけど…
などぼんやりと考えている。
なんてこの先生はつゆ知らずなのだろうが…



「私が学業や生徒会活動に励めているのは
学校の先生方や先輩方のご指導のお陰なんですよ。こちらこそ熱心に教育して頂いてとても嬉しいです。

特に泉先生の数学、私とても好きなんです。」


日菜は出来るだけ本来備わっていないはずの
上品さを最大限盛り込んだ笑顔を泉先生を覗き込む形で突きつけながら言った。


「あら、本当に…?」


少し赤くなった泉先生の顔を見て喜んでくれたことからの些細な喜びと共に
あぁ、やっぱり大人であり先生だと言えども
この程度で赤くなるのか、という
軽い失望がさざ波のようにほんの少しだけ日菜の貼り付けの薄っぺらい意識を揺らがせた。



桃のような顔色のまま、また日菜を賞賛し始めた泉先生がふと視線を時計の方にそらすと慌てだして、



「あ、あらもうこんな時間。

職員会議に行かなきゃだから失礼するわね!」 



「私こそ気づけなくてごめんなさい。

先生とお話出来てとても嬉しかったです。」


無事に教室に入ってきた時よりも上機嫌になっている泉先生をにこやかに見送った。




「私は貴女のご機嫌取り係じゃないんだけど。
はぁ……。」






日菜は自他ともに認めるほどの整っている顔の持ち主で、さらにほとんどの人と接する時は先程のように上手いこと猫を被れるため
男女問わず彼女に好意を寄せない人は居ない。



その上成績もよく生徒会に所属している
才色兼備な「ザ・高嶺の花」という立ち位置に
小学生後半から君臨しているため、
人に好かれるという事は半強制的に慣れてしまっている。



日菜にしてしまえば他人に心を開かせたり、
上機嫌にさせることは朝飯前の事だった。





だからこそ日菜は

他人をあまり好きにはなれなかった。
 


自分の前に現れる人は必ず日菜に見返りを求めてやって来る。
さっきの泉先生だってそうだ。
おそらく彼等は日菜のようなスペックの高い人間から褒められたり認められたりすることで欲求を満たしているだけで日菜自身の事など目に見えていないのだ。



そんな彼等を日菜は得意としていなかった。




そしてそんな彼等に付き合って愛想を振りまく自分自身も好きではなかった。


(あぁ、ダメだ…)


泉先生のあの紅潮した顔を見た時に感じた揺らぎを今になって思い出し変な切なさを日菜は感じた。



でもそんな変な気分になり、
すこし気持ち悪く感じている頭をふとよぎったのはあの子だった。




「会いたいなぁ…」




そうだ。


私はあの子と話したいから、

あんな時間からここに居たんだ。



あの子は私が今まで遭遇してきた他人とは
違う気がするのだ。


あの時から私はあの子を知りたくなったんだ。




あの時の


あの屈託のない、笑顔。

まっすぐ自分だけを見つめる、あの瞳。




まるで純粋な乙女のようにぽけ~、と
あの子のことを考えていると
時間が経つのはあっという間で


「…..あぁ!もう7時50分!
いつもはこのくらいの時間に
靴箱にいるから…!」


と私は人目を気にしながら小走りしたり歩いたりであの子に偶然会ったみたいな感じでおしゃべりするために靴箱へ向かった。



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