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プロローグ
ありのままは怖いの。
しおりを挟む人目を気にしながら急いで靴箱までたどり着いた日菜の表情筋はとても強ばっていた。
(やっぱり緊張する…)
日菜にはあの子に会うときに毎回頭に浮かべるものがあった。
それは、「高嶺の花の宮本さん」では無い、
ありのままの自分であの子と話してみたい、
ということである。
周りの期待や評価を気にして今まで他人や家族にまでもこの貼り付けの自分で接していた。
そのため、ありのままの自分を見せたら
あの子に嫌われてしまうかもしれないという恐怖をどうしても感じてしまうのだ。
その一方であの子ならこんな自分を受け止めてくれるのではないかというささやかな希望もいつも抱いているのである。
「あ、宮本ちゃんだ。おはよう」
そんな矛盾した考えを巡らせている内に、
珍しくあの子の方から声を掛けてくれた。
その事に日菜は戸惑い、その戸惑いを勘づかれないように振舞った。
「あら、おはようございます。真乃香さん 。」
いつものように作り上げた、完璧な笑顔を添えて落ち着いた口調で応えた。
焦ったり、不意を突かれるとやはり繕った自分を出してしまう自分に少し嫌気が差した。
「うん。
...宮本ちゃん最近また無理してる?
なんか今日はいつもに比べて元気ないね。」
「え…
いや、無理をしているわけではないですよ。」
言われ慣れていないあの子の…
『蓮見 真乃香』の一言に
日菜はまた戸惑ってしまった。
「...ふーん、そっか。ならいいんだけどさ。」
と言いながら真乃香は苦笑いをした。
日菜は真乃香が周りをよく見ている人だとは思っていたが、まさかここまでとは、と他人事のように感心していた。
毎朝訪ねて来る先生に対する愚痴を真乃香になら言ってみてもも良いのだろうか…。
他者にとっては小さいことでも、
日菜にとっては自分の本物の意思を
愚痴であれなんであれ他者に伝えるということは少し勇気のいるものであった。
「……あ、あの。実は…」
「まの…いや、蓮見さん!!やっと見つけた!」
…私の折角の勇気を無駄にしたのはどこの誰だ
と怒りの感情と共に声のする方をゆっくり向く
と現代文を主に教えている国語教諭の如月先生
が普段の落ち着いている様子とは打って変わっ
てムスッとした表情で真乃香を見つめていた。
普段のイメージからあんな
分かりやすく怒るような人とは思っていなかった。
「前もって今日の朝来るように
言っていたでしょ。
まさか忘れたわけじゃないでしょうね…」
「あぁ、えぇと、すみません如月先生。
今行きますね。」
そんなムスッとしている如月先生に対し、真乃香はいつものへらっとした態度のままで軽くあしらっていた。
「えぇと、ごめんね宮本ちゃん…
話の続きだったのに。」
「い、いえいえ。私は全然…」
「今日また廊下とかで会ったら、
話しかけてもいいかな。」
「はい。
話しかけてくださるだけで嬉しいですよ。」
「そう…?
ん…じゃあまたね!」
真乃香はにこにこしている日菜を一瞬悲しそうな目で見てから如月先生の元へ行ってしまった。
日菜にはその視線の意味は分からず、
純粋に話を切り上げたことからの罪悪感から来る感情だと思い込んでいた。
「はぁ…。」
溜息をつきながら日菜は何事も無かったかのように自分の教室へゆっくりと足を進めていた。
その道中でも真乃香との会話を思い出す。
真乃香とあまり中身のある会話が出来なかったことが心残りだと日菜は感じつつも、
如月先生が遮って来た時に一瞬だけ『ホッ』と
感じた自分がいた事を自覚し驚いていた。
(私の臆病者…)
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