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「愛」を初めて貰った日
初めて出会った日
しおりを挟むその後、
『私』は母の言葉を否定することも無く
彼女がリビングを去ってからもずっと
下を向いていた。
そんな自分を見ていると
すぐに私の視界は舞台の照明が一気に消えたときのようにまた真っ暗になった。
やっとこの夢も終わるのか、
と考えてから
ゆっくり目を開けると
また場面が変化しただけで、
まだ夢から醒めていなかった。
そしてそこには塾の自習室でポカンとした顔
をしている『私』がいた。
あの夜以降、
母の言葉は『私』の脳裏に焼き付いて離れずに常に『私』を責め立てるかのように響いていた。
そして、
彼女に反論できなかったことからくる
悔しさと共に、
自分は彼女の言う通りの人間なのかもしれないという気持ちが襲ってきていた。
ラブドールかどうかは別としてだが、
自分の気持ちを言わずに、
良い子を演じ、
親の期待に応え続けようとする自分は
母親の『人形』と
言われたって全然不思議ではない気がしたのだ。
現にこの時だって、
母に酷いことを言われたその翌日
なのにも関わらず
無意識に自習室に足を運びまた彼女の期待に応えようと思ってしまっていた。
そんなどうしようもない自分と母に対する
嫌悪感は日に日に増していき、
彼女と会うのが苦痛だと思うようになった。
その結果、
私はこの日から無駄に自習室に遅くまで残ったり、近所の公園で時間を潰したりして
母が眠るであろう時間まで家に帰ろうとしなかった。
今考えればバカなことをしていたなと
思うが、この時の『私』にとっては最良の選択だったと思う。
そしてまた夢の中では早送りのように
どんどん時間が経ち、
そして公園に夜立ち寄るのも何度目かという
タイミングで、『私』は精神的な疲労からか
うたた寝をしてしまっていた。
公園の遅れている時計が12時を指した頃も『私』に起きる気配はない。
そしてそんな『私』に近づく影が…
と、ここまで来て私はやっと思い出した。
うたた寝のお陰で、この日
『私』は真乃香と出会えたのだ。
その忍び寄る影は公園のベンチで1人眠る
『私』に声を掛けてきた。
「おーい…君、大丈夫?」
肩をトントンとされた影響で
『私』は目を覚まし、
そんな自分を覗き込む人物に驚いてしまった。
「あぁ、ごめんね!
驚かせるつもりはなかったんだけど…」
丁度公園の照明で相手の顔を確認することは
できなったが、ペコペコとする
ジャージ姿のこの人には
恐れていたような下心を一切感じなかった。
「まさか、先客がいるなんてね…。」
よいしょ、と言いながら同じベンチにスペースを空けて座る。
「…あ、あの。」
「ん、なに?」
「いつもここに来られてるんですか…?」
『先客』という言葉が気になって
思わず聞いていた。
「うん、まぁ…毎日って訳じゃないけどね。
週に1回くらいなんだけど…」
そこから
彼女は所属している部活動やクラブチームでの練習、そして塾に行ったりなどしてこの日は特別遅くなってしまうと教えてくれた。
「君は?」
「私は…」
と、不意に聞かれた『私』は、
会ったばかりの人に本当の事は言わなくても
いいだろうと思っていたのに口から零れたのは
「私は…家に早く帰りたくなくて…。
ここで毎日時間を潰してるんです。」
と正直な自分の言葉に驚いた。
『家に帰りたくない』ことは
学校の人にも塾の講師にも言っていなかった。
もし言えば大抵の人は心配というより
関心をもって、酷い人の場合は下心をもって『私』の心にどうにかして無理やり入り込もうとすると思っていたからだ。
確かに、一瞬も気を緩ませないような
人間が弱みを持っているとなれば気になるのも分かる気がするが、『私』はとにかくそれが嫌だった。
なのに言ってしまった。
なぜだ…。
「…そっか…。
あ、これ半分あげるよ、…はい。」
と言いながら持っていた2個入りのアイスの片割れをくれた。
何も聞いてこない彼女に内心動揺しながらも
お礼を言って貰ったアイスをちびちび口に入れた。
それからはお互い何を話すという訳でもない
静かな空気が深夜の公園に漂っていた。
いつもなら気を利かせて話題を
振ったりするのだが
『私』はこの空気を崩したくなかった。
2人ともアイスを食べ終えたところで
ジャージ姿の彼女が私に提案してきた。
「もうこんな時間だし、家まで送るよ。」
「え、でも…悪い、です。
アイスまで貰っちゃったのに…。」
「間違えて2つの奴買っちゃったからさ
むしろ協力してくれたお礼に。」
きっとこの時の『私』は誰かに甘えたかったのだろう。
彼女の親切心を利用するかのように
その提案を受諾した。
ゆっくりと2人で歩きながら彼女は自分の友人の話や日常の話を沢山してくれた。
『私』はそんな他愛もない話を人としたのは
凄く久しぶりのような気がして
少し楽しいと感じ、
灯りで見えるようになった彼女の顔に
どこか見覚えを感じつつも隣を歩いていた。
「あ、着きました。
ここでもう…大丈夫です。」
「ん、そっか。
…今日は話せて楽しかった。
でも、深夜の公園は危険だから程々にね?
じゃあおやすみね。」
そう言ってゆっくり帰って行く彼女の後ろ姿を見送り家の玄関を開けた。
母は『私』が帰ってきても来なくても別に気にしない。
そしてこの日も既に就寝しており、
家の中には先程感じた静かな空気とはまた色が違う嫌な静けさを感じた。
やることをやってからベットに入る時に
いつも感じていた孤独感は
この時、あの女の子のお陰か
少し軽くなったような気がしたのだ。
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