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「愛」を初めて貰った日
プツンと切れる音がした。
しおりを挟む「う…うぅん…。」
瞼を閉じたあとまた目を開けるとそこには自分の部屋の勉強机に広げた参考書ではなく見慣れた中学生時代にお世話になった進学塾の教室内の机が視界に広がった。
「え、どういうこと…?」
急な変化に驚きを隠しきれない私は周囲を見渡した。
そして昔の
いつも通り澄ましている『私』を見つけた。
あぁ、なるほど、と全て納得した。
これは夢だ。
しかもただの夢ではなく、中学生時代の自分を思い出し具体化したような過去の『思い出』である。
試しに頬をつねってみても痛みも感じなかった為、安堵の溜息を零した反面ひょっとしたらこれは『悪夢』なのではないかと心配になった。
中学生時代、特に中学3年生の夏頃は、
自分に対する母親の当たりがピークで、家庭環境が中々に悲惨だった。
だからこの先が憂鬱だ…。
まあ、じゃあ今は穏やかなのかと聞かれても
肯定はしかねるけれど…。
周りの夢のモブの方々や『私』に
認識されていないことを確認しながら
随分とやつれた様子の『私』に着いていくと気づくともうリビングに居た。
夢と言うものは便利なものだ…。
と呑気に考えながらリビングの様子を眺めているとドタドタと階段から降りてくる音が聞こえたかと思うと、当時の母親が虚ろな目で『私』を見つめ、
「帰ってくるのが早くないかしら…?」
と呟いた。
「あぁ、それと。前回の模試の…。
なに?あれ」
そんなことを言われた『私』はまるで犯罪を犯してしまったのかと言うほどに必死にそれに対する言い訳を母親にぶつけていた。
段々とこの日のことを私は思い出していた。
そして、この夢が悪夢だということも確信した。
確か模試の結果は決して悪いものではなかった。
むしろ第1志望校のA判定をゲットしたことで
私自身は少し喜びを感じていた程だが
この時の母親は特に神経質で私より上の順位の人が居ると分かる度に私を責めてきた。
しかし、
模試で常に1位など不可能に近かった為このように毎度毎度怒られていたのだ。
ぶつけた言い訳の中に母親の怒りを増幅させるような物でも入っていたのかは知らないが近くに置いたその模試の書類を母親は急にビリビリに破り捨てた。
そしてその後吐き捨てるように言った一言を
今も私は忘れていない。
「あんたみたいな…
外見だけで中身空っぽで馬鹿な子、
産むんじゃなかったわ。
あんたなんてラブドール未満よ。
…その唯一の長所の顔面で
お父さんも誘惑してたんでしょ?」
『私』は亡くなったお父さんに関しての
話が出されたことを疑問に感じると同時に、親戚との関わりも薄かった我が家では、唯一の家族である母親にここまで拒絶されたことにショックを受けていた憶えがある。
「なんでお父さんの話が出てくるの…?」
と、ショックが大きくて素の口調で聞くと
「お父さんね、息を引き取る間際に…
あんたの名前を呟いたのよ。
日菜に会いたい、って…
なんでよ…!
私は…!
あんたなんかよりずっとあの人を支えてきて
最期の時だって日菜は来なかったのに…!」
『私』はその当時思った。
そんなことで…?
まさか母親が自分に厳しくなったのは
「親が子の名前を言う」というなんでもないことなんかが原因だったのか…?
しかも、母親の記憶は都合のいいように改変されていた。
「来なかった」?
いや、来れなかったのだ。
父親が生死の境をさまよっていたであろう時間、私は塾で模試を受けていた。
そして母親は
その間塾にも、私にも、何も連絡を寄越さず父親のお見舞いに同日偶然来た私を他の患者さんや看護師さんの前で罵ったのだ。
私は今まで
どれだけ厳しくされても
どれだけ理不尽なことを言われても
自分にとってたった1人の家族である母親に対する愛情は潰えたことはなかった。
きっと心のどこかで拠り所か何かだと思って、
いや、願っていたのだ。
しかし…。
母親のその言葉とその眼光には『私』への愛情は一切含まれておらず逆に『私』への嫉妬・怒り・憎悪しか詰まっていなかった。
そんな言葉と、
『私』を睨みつける母親が
この時の『私』の脳内の大切な何かを食い潰していきそしてついに
プツン、
と
『私』の何かが切れる音がした。
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