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藤原ハウス中央展示場〜お付き合い編〜
2章9話 セクハラでコンプラに通報すんぞ
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「さーせん、ちょい遅れました」
「おー、来たな上条クゥン。生頼んだいたヨン。クリスマス前にしれーっとカノジョ作りやがってぇ~この裏切りモン~」
居酒屋の予約席に向かうと、紙タバコ片手に口唇を尖らせた寺田店長が待ち構えていた。くしゃっと呆れ顔をして座敷に上がる。
「裏切りモンじゃねーって。だからちゃんと来たじゃねっすかー、先に寺田さんと約束してたから」
水曜夜。下瀬に駅まで送ってもらい、十九時半からの飲み会に顔を出しにきた。道が混んでて十分遅刻。同じ東京営業所西部エリア、西展示場の寺田店長と、今年初めに中央から西に配転した下瀬の同期福田、西の若手二十四歳渡邉、何故か俺んとこの中谷、そして俺。というメンバーである。
六人掛けの座敷で手前側の寺田さんの隣と渡邉の隣が空いていて、寺田さんの隣に腰を下ろした。バニラっぽいタバコの臭いが鼻を擽る。
「店長水臭いっすよー、俺らに言うより先に寺田さんにカノジョ出来たって言うとか」
「ごめんて。言う暇ねーくらい最近出来たばっかなの。てか何で中谷居んの?」
「昨日寺田店長にガルバ誘われて行ってきたんで、今日も来いよつって」
あー昨日の電話のアレね。と合点が行く。原は知らんけど、下瀬の方には電話が来なかったから一応俺の意見を聞いて中谷を誘ったのだろう。
「もー、寺田さぁーん。うちの中谷は金欠なんすから誘うなら奢ってやってくださいよー」
「中谷の分は絶好調の四季ちゃんが奢ってやんなよぉ。うちの福田と渡邉も金欠ちゃんなんだから」
「四季ちゃん言うな。ヤっすよ、寺田さん持ちね。寺田さんだって今年十六件取ってんだから金あんでしょ。寺田さん主催の彼女と別れた記念カワイソーな寺田さんを慰める会なんすから」
「カワイソーな俺を慰める会なんやから奢ってくれたってえーやんなぁ~?」
とか言いながら泣き真似をされ、やれやれと肩を竦めた。寺田さんはまあ、気の良いお調子者だ。黒髪パーマで営業所内のフットサルサークル所属、サッカーガチ勢。関西人だが大学が東京で、そのまんま東京配属になり東京歴が長い。俺ら営業職は全国転勤有りだけど、希望しない限りは割とエリア内の配転くらいで済んでいる。
つか、寺田さんは大して凹んでねーはずだ。元々恋愛だとかより、飲み、パチ、フットサルとか自分の趣味を優先したいタイプで、年下の彼女とは喧嘩が絶えなかったし。彼女の方が可哀想だろと思いつつ、向こうは向こうで既に新しい彼氏が出来たようだから、まあ寺田さんも可哀想っちゃ可哀想。毎度毎度まあいっか~で付き合ってみちゃ別れてる。
「しょ~がねぇなぁ~。多分合計二万くらいだろ? 一軒目は俺が出してやっから二軒目三軒目行くならそっちは寺田さん持ち。オケ?」
展示場メンバー揃っての飲み会なら経費が割り当てられていてそこから落とせるが、フツーの個人の飲み会の際は基本役職者持ちだ。ザ・男社会。飲み会好きだし、苦じゃねーけど。
「キャー四季ちゃん流石オトコマエ! ラブチュー!」
「ぎゃっ! まだ飲んでねーのにもう出来上がってんの? セクハラでコンプラに通報すんぞ」
むちゅーっと頬にキスされてシッシッと払い除ける。寺田さんには良くあることであり、昔っから俺がされているから慣れたモンではある。なんで俺ばっかなんすかつったら、四季ちゃんは笑って許してくれるからーとか言って。というわけで、ここ八年ほど俺が一身に被害を受けている。下瀬もそれは知った話ではあり、今日の会にも来たがっていた。俺が誘うのも変だろと断ったが。
結局駅で降ろしてもらった後に「やっぱ俺も行きます! 後で福田辺りに連絡入れます!」とメッセージが届いたから多分来ることだろう。車どうすんだろ。代行呼ぶのかいっぺん家帰って電車で来んのか知らんけど。まあ下瀬の自宅は駅から近かった筈だし一旦家に車置いて電車で来んのかな。
「寺田さん独り身仲間が居なくなってさみしーんすよぉ。今年は折角イブが水曜だし上条店長とクリパしたかったのにーって泣いてました。泣き真似だけど」
「渡邉はフリーだろ? カワイソーな寺田さんに付き合って良い店でも連れてってもらえ。俺はイブと当日恋人と過ごすからムリー、ドンマーイ」
「ンマァ~四季ちゃん! お母さんそんな生意気なコに育てた覚えないわよ! 大和クンも言ったって!」
「寺田さん、俺は上条さんに生意気な口利けないっす~……」
「うちの母親そんなんじゃねーから」
まだまだ新人の渡邉大和が肩を竦めて恐縮する。俺が寺田さんに向けてべーっと舌を出して顔を顰めたところで人数分の生ビールが届いた。
「じゃっ、寺田さん、乾杯の音頭ドーゾ」
「では僭越ながら。今日は俺の破局記念に付き合ってくれてアリガトーウ! 乾杯!」
俺が促すと、寺田さんがジョッキを掲げた。俺らも「カンパーイ。寺田さん破局オメー」とか言いながら付き合ってやる。
生ビールで喉を潤しながら、いや俺禁酒の誓い立てたんだったわとか思い返す。まあ~この仕事してる限り飲み会むっちゃあるし難しい、から飲みすぎないよう程々にしようと自省しておく。生をグビグビ飲んでいたところ、福田のスマホがブーブー鳴った。
「あ、下瀬だ。ちょい出ます。もしもーし? おん? 今寺田さんの破局祝い飲み会よ。上条さんと中谷と、うちの渡邉も居る。下瀬どこ居るん? ちょい待って――寺田さん、上条さん。下瀬から飲まないかーって話なんすけど、呼んでもいーすか?」
「おー呼べ呼べ、人数多い方がおもろいやん。一軒目は四季ちゃん持ちだし」
「下瀬の分はしゃーない、俺持ちでいっすよ」
来ることは知っていたし、平静とそう返す。信頼されてないとかそういうんじゃなくて、素で心配されている。寺田さんはマジのノンケで絶対ねえからと話したものの、地味に妬いているらしい。かわいーやつ。
今日の飲み会と来週のスノボ会までが寺田さん込みの約束だから、それ終われば寺田さんにやんややんや呼び出されることねーはずだけど。ややカスだが、恋人持ちや家庭持ちに対してはきちんと配慮する人である。なるたけ遊びや飲みに誘うのを遠慮する的な意味で。
正直言えば、昔ちょっとだけ好きだった。俺が恋人と別れて凹む度に良くしてもらってたし。そんなこと下瀬に言うつもりは一切無いが。昔の話だ。
「下瀬、後で合流するみたいっす」
「りょー。下瀬クン彼女居なかったよな? 独り身ロンリネス仲間としてクリパに誘ってやろう。ついでに最近絶好調みたいだし懐かせて西に配転させよう」
福田が下瀬との通話を切って言うと、寺田さんがウキウキした調子で引き抜きを語ってくる。店長程度の意向じゃ配転決まんねーから冗談だ。
「ムーリ、下瀬は中央の男っす。寺田さんにはやんねーよ」
「マッ、四季ちゃんったら独占欲出しちゃって! しっかし、下瀬クンは中央行ってからほんまに絶好調やんなぁ。四季ちゃんの指導がいーのかね?」
ム、と口唇を尖らせると寺田さんから揶揄う笑みを向けられた。
「下瀬さん、上条店長に言われたこと逐一メモってすげー熱心に勉強してるっすからねー。俺も頑張って勉強してるつもりなんすけど、なーんで契約取れないんだろ。こないだも競合他社に競り負けちゃったしぃ……」
中谷が肩を落としてしょぼくれる。中谷は今んとこ今年四件だ。まだ入社三年目だし、及第点と言えば及第点。俺が三年目の頃には十件取ってたけど、それは大分デキる方。
「ん~、そぉなぁ。やっぱ人それぞれ、取れる営業スタイルって違うじゃん。商品についての説明は同じだから、話は真似すりゃ良いんだけどさ。自分で言うのもなんだけど、俺は見た目が誠実っぽくね? 優しそ~みたいな。んで、店長って肩書も安心感あるだろ。あと実家が工務店やってるつー話出来んのもプラス。商品をしっかり理解してるだろうって安心感ね。俺はその辺を売りにしてんの」
「四季ちゃん実家工務店なの強いよなぁ。んー、街コンイメージしてみ? 短い制限時間で回転寿司みたくバーッと自己紹介してくやん。そん時にどんだけ好印象残せるかっちゅーのと同じ。俺らが扱ってる商品は良いモンや。他社の商品も悪ないよ? やから他社の方が百万安かったらお客さんは揺れるワケ。でも百万くらいなら、営業の俺らの力で捲れる範囲」
俺と寺田さんがそれぞれ話すと、言われた中谷は勿論、福田と渡邉もウンウンと頷いて素直に話を聞いている。
「契約後の姿勢は誠実で一生懸命で良いんだけどな。俺らから見りゃ中谷はまだ若手だけど、お客様からしたら若手とか関係ねーのよ。大半のお客様にとって一生に一度の一番デカい買い物なんだから、安心しきれん営業に任せらんねーだろ。多分お前の弱みは、聞かれたことに速攻で答えらんねーところ。分かってても、頭から解答引き出せるまでにラグ発生すんじゃん。その場でスムーズに答えられるように練習あるのみだな」
「パッと思い出せへーん! って時にその場で言葉に詰まるより『ナンチャラの点についてご不安とのことですね!』ってまず復唱したらええねん。んでその後『最新の情報が入っているかお調べします! 後ほど正確にお話し致しますね!』とか言うやん、そしたらお客さんも安心するし、展示場ぐるっと案内した後に『先ほどの件について最新の情報が確認出来ましたのでご説明致します!』とか言うてスムーズに椅子座らせられるやん」
俺と寺田さんのアドバイスは別々。俺は入念な準備と練習して答えられるようにしろ、寺田さんは分からんときゃ分からんと言わず後回しにして席に着かせろっちゅー話。まあ、どっちも安心させろって話にゃ違いない。
そのまましばし俺と寺田さんが営業論を語り、飲み食いしながらちょっとした勉強会の調子になる。堅っ苦しい勉強会も時には必要だが、飲みながらワイワイ話すのも若手が質問しやすくて悪くない。
「タメになります! 俺、頑張ります! ありがとうございます!」
「おー、頑張れ頑張れ。原とはイーブンだし、下瀬追い抜く気概で中谷が次世代エース目指してけー」
「中谷クンだけじゃなくて、福田と渡邉も頑張ってヨン。俺ら中央に数字負けてっかんねー。五件差やしまだワンチャン抜かせる」
勉強会ターンが終わったところで最初の相談者中谷が礼を述べて拳を握った。
西展示場は寺田さん十六件、福田七件、渡邉三件。ここに居ないメンバーだと三十八歳既婚者鈴本さん八件、新卒彼女出来たて植田ゼロ件。合計三十四件。
うちは俺が十八件、下瀬十二件、原四件、中谷四件、新卒相田ゼロ件。合計三十九件。
お互い十二月の契約見込みがチラホラあるから、こっからもうちょいプラスにはなる。
「抜かさねっすよ。俺、下瀬、原、相田はまだ十二月の契約見込み残ってるし、東京営業所一位目指してるんで」
「東京一位は今四十二やっけ。ウチと中央より僅差やもんなー。んでもウチもテッペン取る気で行ってっからネ」
東京営業所一位は現在北部エリア中央展示場の合計四十二件。ドベは件数覚えてねーけど、確か南エリア。あっちはマンションのが売れっから。
全国一位となると六十八件だからかなりの差がある。契約取りやすい地域っつうのがあるからしゃーない。いくら東京が日本で一番人口多かろうが、土地余ってねーと建てられるモンも建てらんねーし。個人成績もバケモンみたいに取ってるやつが居るから俺はトップ二十位内くらい。同期の中では俺がトップだが。
「お疲れさまでーす! なーんかバチバチしてる?」
「オッ下瀬クン早いやーん。バチバチしてへんよぉー、丁度キミの噂してん!」
「お疲れさん。そっから中谷の仕事の相談、からの契約数の話してたとこー。テッペン取りてーなって」
下瀬が合流してきて、空いていた俺の対面に腰掛ける。駅で分かれてから一時間も経っていないから何だか変な感じだ。さっきまでと同じ私服だし、その時まではお互い恋人ヅラしてたわけだし。
「あー、テッペン取りてっすね。上条さんへのクリプレとして、東京営業所一位あげたいっす」
「さっすがうちの頼れるエース! 俺調べ部下にしたい男ナンバーワン!」
「ヨッ中央展示場の星!」
俺と中谷がキャッキャ褒めると下瀬は照れ臭そうに笑った。俺調べは俺の独断と偏見であり調査対象は俺一名である。
「何調べやねんってツッコミたいとこやけど、これは部下にしたい男ナンバーワンも納得やなぁ。ウチの野郎どもは俺に東京営業所一位あげたいなんて健気なこと言ってくれへんもーん。なー、福田、渡邉」
「やっ、気持ちはプレゼントしたいっすよ、気持ちは! なっ、渡邉!」
「はいっ! 気持ちでは負けてないんで!」
話を振られた福田と渡邉はヒェッと飛び上がりグッと拳を握る。そんな調子を見て俺含めその他四名はケラケラ笑った。
下瀬合流後もぼちぼち仕事の話して、みんなそこそこ飲んだところで二十一時半。各々席から立って、俺がレジに並び支払おうとしたものの、結局寺田さんが横からひょいと払っていった。そういうやつなんだよなあ。
「ほな二軒目行きますかぁ! アフターシェリーな!」
店を出た途端寺田さんに肩を抱かれた。当然野郎同士で肩組む抱き方。中央来てから下瀬は寺田さん込みの飲み会に何度も参加してっからこういうノリも分かっているはずだが、付き合ってからは初めてだから大丈夫かなーと若干不安。アフターシェリーは寺田さん行きつけのカラオケバーだ。
「あーはいはい、お前ら行くぞー」
どうもこっちを気にしている様子の下瀬と、その他三人に向けて声を掛ける。
いやまあ恋人が肩組まれてたら嫌だろうなあ、でも寺田さんはこれがデフォだしなあ。もし下瀬が寺田さんに肩組まれようがキスされようが俺は気にしねーけど下瀬は微妙そうなんだよなあ。福田か渡邉を身代わりにするっきゃねーけど、この中で一番付き合い長くて一番仲良いの俺だしなあ。
とか内心困っているうち抱かれた肩が離れてホッとして、すぐそこのアフターシェリーの敷居を跨いだ。
◆
「おー、来たな上条クゥン。生頼んだいたヨン。クリスマス前にしれーっとカノジョ作りやがってぇ~この裏切りモン~」
居酒屋の予約席に向かうと、紙タバコ片手に口唇を尖らせた寺田店長が待ち構えていた。くしゃっと呆れ顔をして座敷に上がる。
「裏切りモンじゃねーって。だからちゃんと来たじゃねっすかー、先に寺田さんと約束してたから」
水曜夜。下瀬に駅まで送ってもらい、十九時半からの飲み会に顔を出しにきた。道が混んでて十分遅刻。同じ東京営業所西部エリア、西展示場の寺田店長と、今年初めに中央から西に配転した下瀬の同期福田、西の若手二十四歳渡邉、何故か俺んとこの中谷、そして俺。というメンバーである。
六人掛けの座敷で手前側の寺田さんの隣と渡邉の隣が空いていて、寺田さんの隣に腰を下ろした。バニラっぽいタバコの臭いが鼻を擽る。
「店長水臭いっすよー、俺らに言うより先に寺田さんにカノジョ出来たって言うとか」
「ごめんて。言う暇ねーくらい最近出来たばっかなの。てか何で中谷居んの?」
「昨日寺田店長にガルバ誘われて行ってきたんで、今日も来いよつって」
あー昨日の電話のアレね。と合点が行く。原は知らんけど、下瀬の方には電話が来なかったから一応俺の意見を聞いて中谷を誘ったのだろう。
「もー、寺田さぁーん。うちの中谷は金欠なんすから誘うなら奢ってやってくださいよー」
「中谷の分は絶好調の四季ちゃんが奢ってやんなよぉ。うちの福田と渡邉も金欠ちゃんなんだから」
「四季ちゃん言うな。ヤっすよ、寺田さん持ちね。寺田さんだって今年十六件取ってんだから金あんでしょ。寺田さん主催の彼女と別れた記念カワイソーな寺田さんを慰める会なんすから」
「カワイソーな俺を慰める会なんやから奢ってくれたってえーやんなぁ~?」
とか言いながら泣き真似をされ、やれやれと肩を竦めた。寺田さんはまあ、気の良いお調子者だ。黒髪パーマで営業所内のフットサルサークル所属、サッカーガチ勢。関西人だが大学が東京で、そのまんま東京配属になり東京歴が長い。俺ら営業職は全国転勤有りだけど、希望しない限りは割とエリア内の配転くらいで済んでいる。
つか、寺田さんは大して凹んでねーはずだ。元々恋愛だとかより、飲み、パチ、フットサルとか自分の趣味を優先したいタイプで、年下の彼女とは喧嘩が絶えなかったし。彼女の方が可哀想だろと思いつつ、向こうは向こうで既に新しい彼氏が出来たようだから、まあ寺田さんも可哀想っちゃ可哀想。毎度毎度まあいっか~で付き合ってみちゃ別れてる。
「しょ~がねぇなぁ~。多分合計二万くらいだろ? 一軒目は俺が出してやっから二軒目三軒目行くならそっちは寺田さん持ち。オケ?」
展示場メンバー揃っての飲み会なら経費が割り当てられていてそこから落とせるが、フツーの個人の飲み会の際は基本役職者持ちだ。ザ・男社会。飲み会好きだし、苦じゃねーけど。
「キャー四季ちゃん流石オトコマエ! ラブチュー!」
「ぎゃっ! まだ飲んでねーのにもう出来上がってんの? セクハラでコンプラに通報すんぞ」
むちゅーっと頬にキスされてシッシッと払い除ける。寺田さんには良くあることであり、昔っから俺がされているから慣れたモンではある。なんで俺ばっかなんすかつったら、四季ちゃんは笑って許してくれるからーとか言って。というわけで、ここ八年ほど俺が一身に被害を受けている。下瀬もそれは知った話ではあり、今日の会にも来たがっていた。俺が誘うのも変だろと断ったが。
結局駅で降ろしてもらった後に「やっぱ俺も行きます! 後で福田辺りに連絡入れます!」とメッセージが届いたから多分来ることだろう。車どうすんだろ。代行呼ぶのかいっぺん家帰って電車で来んのか知らんけど。まあ下瀬の自宅は駅から近かった筈だし一旦家に車置いて電車で来んのかな。
「寺田さん独り身仲間が居なくなってさみしーんすよぉ。今年は折角イブが水曜だし上条店長とクリパしたかったのにーって泣いてました。泣き真似だけど」
「渡邉はフリーだろ? カワイソーな寺田さんに付き合って良い店でも連れてってもらえ。俺はイブと当日恋人と過ごすからムリー、ドンマーイ」
「ンマァ~四季ちゃん! お母さんそんな生意気なコに育てた覚えないわよ! 大和クンも言ったって!」
「寺田さん、俺は上条さんに生意気な口利けないっす~……」
「うちの母親そんなんじゃねーから」
まだまだ新人の渡邉大和が肩を竦めて恐縮する。俺が寺田さんに向けてべーっと舌を出して顔を顰めたところで人数分の生ビールが届いた。
「じゃっ、寺田さん、乾杯の音頭ドーゾ」
「では僭越ながら。今日は俺の破局記念に付き合ってくれてアリガトーウ! 乾杯!」
俺が促すと、寺田さんがジョッキを掲げた。俺らも「カンパーイ。寺田さん破局オメー」とか言いながら付き合ってやる。
生ビールで喉を潤しながら、いや俺禁酒の誓い立てたんだったわとか思い返す。まあ~この仕事してる限り飲み会むっちゃあるし難しい、から飲みすぎないよう程々にしようと自省しておく。生をグビグビ飲んでいたところ、福田のスマホがブーブー鳴った。
「あ、下瀬だ。ちょい出ます。もしもーし? おん? 今寺田さんの破局祝い飲み会よ。上条さんと中谷と、うちの渡邉も居る。下瀬どこ居るん? ちょい待って――寺田さん、上条さん。下瀬から飲まないかーって話なんすけど、呼んでもいーすか?」
「おー呼べ呼べ、人数多い方がおもろいやん。一軒目は四季ちゃん持ちだし」
「下瀬の分はしゃーない、俺持ちでいっすよ」
来ることは知っていたし、平静とそう返す。信頼されてないとかそういうんじゃなくて、素で心配されている。寺田さんはマジのノンケで絶対ねえからと話したものの、地味に妬いているらしい。かわいーやつ。
今日の飲み会と来週のスノボ会までが寺田さん込みの約束だから、それ終われば寺田さんにやんややんや呼び出されることねーはずだけど。ややカスだが、恋人持ちや家庭持ちに対してはきちんと配慮する人である。なるたけ遊びや飲みに誘うのを遠慮する的な意味で。
正直言えば、昔ちょっとだけ好きだった。俺が恋人と別れて凹む度に良くしてもらってたし。そんなこと下瀬に言うつもりは一切無いが。昔の話だ。
「下瀬、後で合流するみたいっす」
「りょー。下瀬クン彼女居なかったよな? 独り身ロンリネス仲間としてクリパに誘ってやろう。ついでに最近絶好調みたいだし懐かせて西に配転させよう」
福田が下瀬との通話を切って言うと、寺田さんがウキウキした調子で引き抜きを語ってくる。店長程度の意向じゃ配転決まんねーから冗談だ。
「ムーリ、下瀬は中央の男っす。寺田さんにはやんねーよ」
「マッ、四季ちゃんったら独占欲出しちゃって! しっかし、下瀬クンは中央行ってからほんまに絶好調やんなぁ。四季ちゃんの指導がいーのかね?」
ム、と口唇を尖らせると寺田さんから揶揄う笑みを向けられた。
「下瀬さん、上条店長に言われたこと逐一メモってすげー熱心に勉強してるっすからねー。俺も頑張って勉強してるつもりなんすけど、なーんで契約取れないんだろ。こないだも競合他社に競り負けちゃったしぃ……」
中谷が肩を落としてしょぼくれる。中谷は今んとこ今年四件だ。まだ入社三年目だし、及第点と言えば及第点。俺が三年目の頃には十件取ってたけど、それは大分デキる方。
「ん~、そぉなぁ。やっぱ人それぞれ、取れる営業スタイルって違うじゃん。商品についての説明は同じだから、話は真似すりゃ良いんだけどさ。自分で言うのもなんだけど、俺は見た目が誠実っぽくね? 優しそ~みたいな。んで、店長って肩書も安心感あるだろ。あと実家が工務店やってるつー話出来んのもプラス。商品をしっかり理解してるだろうって安心感ね。俺はその辺を売りにしてんの」
「四季ちゃん実家工務店なの強いよなぁ。んー、街コンイメージしてみ? 短い制限時間で回転寿司みたくバーッと自己紹介してくやん。そん時にどんだけ好印象残せるかっちゅーのと同じ。俺らが扱ってる商品は良いモンや。他社の商品も悪ないよ? やから他社の方が百万安かったらお客さんは揺れるワケ。でも百万くらいなら、営業の俺らの力で捲れる範囲」
俺と寺田さんがそれぞれ話すと、言われた中谷は勿論、福田と渡邉もウンウンと頷いて素直に話を聞いている。
「契約後の姿勢は誠実で一生懸命で良いんだけどな。俺らから見りゃ中谷はまだ若手だけど、お客様からしたら若手とか関係ねーのよ。大半のお客様にとって一生に一度の一番デカい買い物なんだから、安心しきれん営業に任せらんねーだろ。多分お前の弱みは、聞かれたことに速攻で答えらんねーところ。分かってても、頭から解答引き出せるまでにラグ発生すんじゃん。その場でスムーズに答えられるように練習あるのみだな」
「パッと思い出せへーん! って時にその場で言葉に詰まるより『ナンチャラの点についてご不安とのことですね!』ってまず復唱したらええねん。んでその後『最新の情報が入っているかお調べします! 後ほど正確にお話し致しますね!』とか言うやん、そしたらお客さんも安心するし、展示場ぐるっと案内した後に『先ほどの件について最新の情報が確認出来ましたのでご説明致します!』とか言うてスムーズに椅子座らせられるやん」
俺と寺田さんのアドバイスは別々。俺は入念な準備と練習して答えられるようにしろ、寺田さんは分からんときゃ分からんと言わず後回しにして席に着かせろっちゅー話。まあ、どっちも安心させろって話にゃ違いない。
そのまましばし俺と寺田さんが営業論を語り、飲み食いしながらちょっとした勉強会の調子になる。堅っ苦しい勉強会も時には必要だが、飲みながらワイワイ話すのも若手が質問しやすくて悪くない。
「タメになります! 俺、頑張ります! ありがとうございます!」
「おー、頑張れ頑張れ。原とはイーブンだし、下瀬追い抜く気概で中谷が次世代エース目指してけー」
「中谷クンだけじゃなくて、福田と渡邉も頑張ってヨン。俺ら中央に数字負けてっかんねー。五件差やしまだワンチャン抜かせる」
勉強会ターンが終わったところで最初の相談者中谷が礼を述べて拳を握った。
西展示場は寺田さん十六件、福田七件、渡邉三件。ここに居ないメンバーだと三十八歳既婚者鈴本さん八件、新卒彼女出来たて植田ゼロ件。合計三十四件。
うちは俺が十八件、下瀬十二件、原四件、中谷四件、新卒相田ゼロ件。合計三十九件。
お互い十二月の契約見込みがチラホラあるから、こっからもうちょいプラスにはなる。
「抜かさねっすよ。俺、下瀬、原、相田はまだ十二月の契約見込み残ってるし、東京営業所一位目指してるんで」
「東京一位は今四十二やっけ。ウチと中央より僅差やもんなー。んでもウチもテッペン取る気で行ってっからネ」
東京営業所一位は現在北部エリア中央展示場の合計四十二件。ドベは件数覚えてねーけど、確か南エリア。あっちはマンションのが売れっから。
全国一位となると六十八件だからかなりの差がある。契約取りやすい地域っつうのがあるからしゃーない。いくら東京が日本で一番人口多かろうが、土地余ってねーと建てられるモンも建てらんねーし。個人成績もバケモンみたいに取ってるやつが居るから俺はトップ二十位内くらい。同期の中では俺がトップだが。
「お疲れさまでーす! なーんかバチバチしてる?」
「オッ下瀬クン早いやーん。バチバチしてへんよぉー、丁度キミの噂してん!」
「お疲れさん。そっから中谷の仕事の相談、からの契約数の話してたとこー。テッペン取りてーなって」
下瀬が合流してきて、空いていた俺の対面に腰掛ける。駅で分かれてから一時間も経っていないから何だか変な感じだ。さっきまでと同じ私服だし、その時まではお互い恋人ヅラしてたわけだし。
「あー、テッペン取りてっすね。上条さんへのクリプレとして、東京営業所一位あげたいっす」
「さっすがうちの頼れるエース! 俺調べ部下にしたい男ナンバーワン!」
「ヨッ中央展示場の星!」
俺と中谷がキャッキャ褒めると下瀬は照れ臭そうに笑った。俺調べは俺の独断と偏見であり調査対象は俺一名である。
「何調べやねんってツッコミたいとこやけど、これは部下にしたい男ナンバーワンも納得やなぁ。ウチの野郎どもは俺に東京営業所一位あげたいなんて健気なこと言ってくれへんもーん。なー、福田、渡邉」
「やっ、気持ちはプレゼントしたいっすよ、気持ちは! なっ、渡邉!」
「はいっ! 気持ちでは負けてないんで!」
話を振られた福田と渡邉はヒェッと飛び上がりグッと拳を握る。そんな調子を見て俺含めその他四名はケラケラ笑った。
下瀬合流後もぼちぼち仕事の話して、みんなそこそこ飲んだところで二十一時半。各々席から立って、俺がレジに並び支払おうとしたものの、結局寺田さんが横からひょいと払っていった。そういうやつなんだよなあ。
「ほな二軒目行きますかぁ! アフターシェリーな!」
店を出た途端寺田さんに肩を抱かれた。当然野郎同士で肩組む抱き方。中央来てから下瀬は寺田さん込みの飲み会に何度も参加してっからこういうノリも分かっているはずだが、付き合ってからは初めてだから大丈夫かなーと若干不安。アフターシェリーは寺田さん行きつけのカラオケバーだ。
「あーはいはい、お前ら行くぞー」
どうもこっちを気にしている様子の下瀬と、その他三人に向けて声を掛ける。
いやまあ恋人が肩組まれてたら嫌だろうなあ、でも寺田さんはこれがデフォだしなあ。もし下瀬が寺田さんに肩組まれようがキスされようが俺は気にしねーけど下瀬は微妙そうなんだよなあ。福田か渡邉を身代わりにするっきゃねーけど、この中で一番付き合い長くて一番仲良いの俺だしなあ。
とか内心困っているうち抱かれた肩が離れてホッとして、すぐそこのアフターシェリーの敷居を跨いだ。
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全3話予定。
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他サイトにも掲載。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―
綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。
一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。
もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。
ルガルは生まれながらに選ばれし存在。
国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。
最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。
一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。
遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、
最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。
ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。
ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。
ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。
そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、
巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。
その頂点に立つ社長、一条レイ。
冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
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過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
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【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
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