千物語

松田 かおる

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私なんか…

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子供の頃から大体のことをそれなりにこなせてしまう私は、一度も人に褒められることがなく育ってきた。
親。
先生。
友達。
そして職場の同僚や上司。
誰もがみんな「私ならできて当たり前」という評価をしてしまうため、何をしても褒められたり高く評価をしてもらえることがなかった。
もちろん、難しいことに直面したときにはそれなりに…時には人並み以上に努力もしたし、苦労もした。
でも周りのみんなは「結果だけ」しか見てくれず、どのような素晴らしい結果を出しても、
「あなたならできて当然」
と、周りの私への評価は決して高いとはいえないものだった。

ずっとそういった環境で過ごしたせいで私自身の自己評価も低くなり、いつしか
「私なんか…」
という言葉が頭に真っ先に浮かぶような、卑屈な人間になってしまった。



そんな私にも、「彼氏」と呼んでいいらしい人ができた。
でもやっぱり、いつものように「私なんかに彼氏ができてもいいのだろうか」と卑屈に考えてしまう毎日だった。

「本当に私なんかがあなたの彼女でもいいの?」
二人きりの真っ暗な部屋。
私は彼の手を握りながら思い切って聞く。
彼は
「もちろんだよ」
と、私の手を握り返しながら応える。
「でも、私とあなたじゃつり合いが取れないんじゃない?」
相変わらず卑屈な気持ちで彼に聞く。
すると彼は私の方を向いて、
「何を卑屈になってるのさ。僕は君のことがとても大切だし、大好きだよ」
「でも、私なんかが…」
思わずいつもの口癖が飛び出す。
すると彼は少しだけ私の手を握る力を強くして、
「君が君自身のことを低く見ているのは知っているけど、僕は君『なんか』じゃなくて君『が』好きなんだよ」
と言ってくれる。
私がそれに答えようとすると、
「それに」
彼が出鼻をくじくように言葉を続ける。
「君が君自身を卑下することは、君を選んだ僕自身も卑下することになっちゃうんだよ?」
少し柔らかい口調で、優しく言い聞かせるように話してくれた。
そして握っている手を放して両腕で私のことを抱きしめると、耳元で
「もっと自信を持っていいんだよ。なんたって、君は僕が選んだ『たった一人の大事な人』なんだからさ」
そう優しく呟いた。



…そうか、もっと自信を持っていいんだ。
もちろんすぐに性格を変えられるわけじゃないけど、こうして私のことを誰よりも大事にしてくれる人の気持ちには、しっかり応えなければいけないと思った。

そう考えると、今夜は少し心地よく眠れそうな気がした…
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