千物語

松田 かおる

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選択肢

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ある日突然、目の前に「選択肢」が表示されるようになった。

とは言ってもそんな複雑なものではなく、簡単な二者択一だ。
それこそ
-お昼ごはんは何にしますか?-
 A:カレー
 B:ラーメン
と言った感じだ。

最初は少し驚いたが、実際に目の前に現れた選択肢は「こっちにしよう」と考えるだけで消えるので、特に邪魔くさいとも感じていない。
むしろ余計に考える手間が省ける場合があるので、ありがたいくらいである。

-次の電車はどうしますか?-
-食後の飲み物は何にしますか?-

などなど。
こういった些細なことばかりの選択肢なので、軽い気持ちで選択肢を選んで過ごしていた。


そんな生活がしばらく続いたある日、選択肢が四つに増えていた。
どうやら最初の選択肢の「次の選択肢」も、併せて表示されるようになったようだ。
 Aの1
 Aの2
 Bの1
 Bの2
と言った具合だ。
まぁ、次の選択肢が出るくらいであれば選択の幅が広がるから、これはこれで悪くないかもしれないな…


そう考えていた自分が甘かった。
またしばらくすると、選択肢は八つに増えた。
さらに次の選択肢まで表示されるようになったようだ。
さすがに八つともなると、どれを選ぶかでちょっと悩むようになってきた。

一応一通り目を通してみたが、どれも別々の結果に結びつきそうな内容になっているのは興味深かった。
一つの行動で色々な結果になるんだな…と、自分自身のことなのに変に感心してしまった。


感心している場合ではなくなってしまった。
日を追うごとに選択肢の数は倍々ゲームで増えていき、今ではいくつの選択肢になったかわからない状況だ。
32個くらいまでは目を通せていたが、そこから先は見るのが面倒になった。
ただ、選択肢のどれかは選べているようで、画面はちゃんと消えてくれているのが唯一の救いだ。


視界が選択肢で溢れては消える生活がしばらく続いたある日、選択肢が一つになった。
選択肢…というか一つしか内容が表示されていない状態になった。

だけど一文字だけ表示されている画面を見て、妙に合点が行った。
確かに無限に選択肢が増えても、最後にたどり着く場所は一つなのだから…

目の前の画面は今までのように「考えれば消える」のではなく、ご丁寧に[確認]ボタンがある。
このボタンを押せば画面は消えると思うが、その結果が出るのは一体いつなのだろう。

今か、明日か、それともずっと先か…
そんなことを考えながら、目の前の[確認]ボタンを押して画面を消した。
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