千物語

松田 かおる

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あまやどり

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「まいったなぁ…」
雨が降る軒下で、僕は思わずつぶやいた。

帰宅途中で食事に入ったうどん屋で、傘を持って行かれた。
食事が終わって店から出たら、傘立てから僕の傘が消えていた。
梅雨時に傘を持たずに外出する人はそうそういないだろうから、きっと間違われてしまったのだろう。
タイミングよく雨脚は弱まっていたので、『ちょっと走れば何とかコンビニくらいまでは』と思っていたのが、裏目に出てしまった。
道を走り始めてほとんどしない間に雨脚が強くなり始めて、とうとう雨宿りをしなければいけないほどになってしまった。
仕方がないので、たまたま目についたお店の軒先を拝借することにした。

定休日なのか閉店しているのか、お店のシャッターは閉まったまま。
軒先にいるのは僕一人だけ。
時間が経てば経つほど雨脚は強くなる一方。
さらには遠くの方から、雷の音も聞こえ始めてきた。

「まいったなぁ…」
誰にともなくもう一度つぶやくと、
「雨は嫌いですか?」
と、横から声が聞こえてきた。

声のする方を振り返ると、一人の女性が立っていた。
-さっきは誰もいなかったのに、いつの間に?それにこの雨なのに全然濡れてない…-
そんなことを考えながら彼女の方を見ると、僕の返事を待っているようだった。
「嫌いではないですよ。ただ、今みたいに傘がないと困っちゃいますけど」
僕がそう答えると、彼女は
「なぜ傘を持っていないのですか?」
と聞いてきたので、さっきあったことを話してあげた。
すると彼女は
「それは災難でしたね。でも安心してください、雨はもう止みますよ」
と返してくれた。
「でも、雷も鳴ってますよ?そんなすぐに止みますか?」
僕が聞くと、
「はい、大丈夫です、雨はもう止みます」
彼女がにっこり笑ってそう答えた次の瞬間、周りが一瞬明るく光ったと思ったら大きな雷鳴が響き渡った。
「すごい雷でした…ね…」
雷の鳴った方を見ていた僕が振り返って彼女に話しかけようとしたところ、彼女の姿が消えていた。
周りを見回しても、どこにも彼女の姿は見当たらなかった。

一体何だったんだろう…
まるで狐にでも化かされたような気分だった。

でも彼女の言った通り、その雷が合図になったように雨がぴたりとやんだ。
彼女のことは気になったけど、本人がいないのではどうしようもない。
僕は軒先から出て、遠くの方でまだ小さく鳴っている雷の音を聞きながら家路を歩き始めた。


そして家に帰ったら、ニュースで梅雨が明けたと発表があった。
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