34 / 94
まだ見ぬ君へ
しおりを挟む
この手紙を見ている「まだ見ぬ君」へ。
君がこの手紙を見ているときには、もしかしたら僕はもう…
君が生まれる所に立ち会えないかもしれないと思うと悔しい。
君が母さんのお腹にいる時から「女の子」だというのはわかっていたよ。
きっと母さんに似て可愛いんだろうな。
幼稚園、小学校、中学校、高校…
君が可愛く大きく育っていく姿を見ることができないかもしれないと思うと、本当に残念だ。
まだ名前も考えていないと言うのに、これはあまりな仕打ちだ。
この世に神はいないのか、と嘆きたくなってくる。
せめて君が生まれてくるまでは…と思わずにいられない。
でも、もし父さんに何かあっても、君は明るく元気に育って欲しい。
それが父さんからの願いだ。
まだ見ぬ君へ。
父より。
「ねーママー。この手紙なんだけど…」
あたしが台所で夕飯の準備をしているママに話しかけると、ママは一瞬手を止めてあたしが見せた手紙を見る。
「その手紙は…」
一瞬ママの言葉が詰まる。
「それはね…ママがあなたを生む時に入院していた頃にパパが書いたの…あの時パパは…くっ…」
そう言って向こうを向いて肩を少し震わせた。
「ママ…」
あたしが声をかけると、しばらくしてママは
「…あはははははっ!パパったらこんな手紙書いてたのよねー!あははははは!」
と我慢できずに笑い出してしまった。
あたしは軽くため息ひとつ。
ママが笑いすぎて話ができなさそうなので、パパに聞いてみる。
「ねーパパ。この手紙なあに?」
するとパパは
「…パパの身に何かあった時のために書いたんだ」
と、ビールを飲みながらバツが悪そうに答えた。
「何が『何かあった時のため』よ。ただの食あたりじゃないの」
すかさずママが目尻に涙を浮かべながら突っ込む。
「だって仕方ないだろ?アニサキスにやられるなんて生まれて初めての体験だったんだし」
「でも普通ここまでする?実際にあの後すぐに良くなったんだし。お医者さんが呆れてたわよ」
「うるさいなぁ」
「昔のことだもんねー。あ、ご飯もう少しかかるから、それまでこれつまんでて。はい」
ママがそう言ってパパの前に、おつまみ代わりの自家製しめ鯖を出した。
「おー、これこれ。ママの作るしめ鯖、おいしいんだよなー」
パパは機嫌を直して、ニコニコしながら箸をつける。
ママが少し呆れながら
「また当たっても知らないわよ?」
と言うと、
「そうしたらまた手紙を書くよ。今度は二人に宛てて」
パパはそう答えて、しめ鯖を口に放り込んだ。
君がこの手紙を見ているときには、もしかしたら僕はもう…
君が生まれる所に立ち会えないかもしれないと思うと悔しい。
君が母さんのお腹にいる時から「女の子」だというのはわかっていたよ。
きっと母さんに似て可愛いんだろうな。
幼稚園、小学校、中学校、高校…
君が可愛く大きく育っていく姿を見ることができないかもしれないと思うと、本当に残念だ。
まだ名前も考えていないと言うのに、これはあまりな仕打ちだ。
この世に神はいないのか、と嘆きたくなってくる。
せめて君が生まれてくるまでは…と思わずにいられない。
でも、もし父さんに何かあっても、君は明るく元気に育って欲しい。
それが父さんからの願いだ。
まだ見ぬ君へ。
父より。
「ねーママー。この手紙なんだけど…」
あたしが台所で夕飯の準備をしているママに話しかけると、ママは一瞬手を止めてあたしが見せた手紙を見る。
「その手紙は…」
一瞬ママの言葉が詰まる。
「それはね…ママがあなたを生む時に入院していた頃にパパが書いたの…あの時パパは…くっ…」
そう言って向こうを向いて肩を少し震わせた。
「ママ…」
あたしが声をかけると、しばらくしてママは
「…あはははははっ!パパったらこんな手紙書いてたのよねー!あははははは!」
と我慢できずに笑い出してしまった。
あたしは軽くため息ひとつ。
ママが笑いすぎて話ができなさそうなので、パパに聞いてみる。
「ねーパパ。この手紙なあに?」
するとパパは
「…パパの身に何かあった時のために書いたんだ」
と、ビールを飲みながらバツが悪そうに答えた。
「何が『何かあった時のため』よ。ただの食あたりじゃないの」
すかさずママが目尻に涙を浮かべながら突っ込む。
「だって仕方ないだろ?アニサキスにやられるなんて生まれて初めての体験だったんだし」
「でも普通ここまでする?実際にあの後すぐに良くなったんだし。お医者さんが呆れてたわよ」
「うるさいなぁ」
「昔のことだもんねー。あ、ご飯もう少しかかるから、それまでこれつまんでて。はい」
ママがそう言ってパパの前に、おつまみ代わりの自家製しめ鯖を出した。
「おー、これこれ。ママの作るしめ鯖、おいしいんだよなー」
パパは機嫌を直して、ニコニコしながら箸をつける。
ママが少し呆れながら
「また当たっても知らないわよ?」
と言うと、
「そうしたらまた手紙を書くよ。今度は二人に宛てて」
パパはそう答えて、しめ鯖を口に放り込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる