千物語

松田 かおる

文字の大きさ
40 / 94

狭い画面、広い空。

しおりを挟む
私は、いわゆる「引きこもり」だ。

きっかけは些細なことだったけど、もう数年も引きこもってしまっている。
こうして引きこもっているのがいいことだなんて、少しも思っていない。
だけどどうしても断ち切ることができず、こんな生活をずるずると引きずってしまっている。

なので私はカーテンすら閉じたうす暗い部屋の中で、スマホでSNSを覗いたり、自身の生活をつぶやいたりする毎日を繰り返している。
とは言っても、引きこもりのつぶやきなんてたかが知れている。
誰も見向きなんかしてくれない。

それでもこんな私のことをフォローしてくれている人がいる。

私もその人をフォローしているので相互フォローの関係ではあるけど、私の住んでいる街からは遠く離れた地方都市に住んでいる女性だということがわかるくらいだ。
特にお互い交流もなく、もっぱら私が彼女のつぶやきに「いいね」をつける。
そんな一方通行の関係だ。

彼女が私のことをどう思っているかは、知る由もない。



彼女のつぶやきは、いつもどこか私の心を引き寄せる。

内容自体は

-今日は有名な観光スポットに出かけた。海がきれいだった-
-出かけていたら通り雨にやられた。でも雨に打たれるのも悪くない-
-明日はあのお店に行って、評判の料理を食べてみよう-

と、本当に他愛もない物ばかりだ。
最近事情があって引っ越しをしたらしいせいか、「どこに行った」「あそこはよかった」という内容ばかりだ。
だけど短い文章の中からも生き生きした感じが伝わってきて、まるで自分がその場所にいるような気分にさせてくれた。



そんなある日、彼女のつぶやきが目に入った。

-ここに引っ越してくる前、ちょっとした訳があって引きこもっていた-
-でもこのままじゃいけないと思い、思い切って引っ越した-
-そうしたら新しい場所で見えてくるものがみんな新鮮に見えて、引きこもっていたのがばかばかしく思えた-
-きっかけなんて、意外とそんなものなのかもしれない-

そんな内容が、何回かに分けてつぶやかれていた。

私は彼女のつぶやきを見て、正直ショックを覚えた。
それと同時に、今もだらだら引きこもっている自分が急に恥ずかしく思えてきた。
そして彼女のつぶやき全てに、「いいね」をつけた。



スマホから更新通知の音が鳴り響いた。
彼女はそれを見て、通知をしてきたつぶやきを読む。
そして軽く微笑むと、「いいね」をタップした。


-近所の公園まで出かけてみました。空が広くて青いです。-
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...