千物語

松田 かおる

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マシンナリー

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<やあおはよう、調子はどうだい?>
キーボードにそう打ち込むと、
「ジュンチョウ デス。 カドウリツ モ ソウテイ ハンイ ナイ デス。」
と、無機質な機械音声が返答した。
今、僕が相手にしているのは、この工場のメインコンピュータのターミナル端末。
毎朝こうして、工場の稼働状況を確認している。
本当は常に稼働状況はモニターしているから判るのだけど、何やら「自己診断プログラムとAIプログラムを『鍛える』」ために、こうしてわざわざキーボードから状況を確認する業務を行なうことになっている。

これも数ヶ月もすると成果が見えてきて、
「やあおはよう、調子はどう?」
「大変 順調 デス。 稼働率 モ 想定 範囲内 デ 収マッテ イマス。」
と、キーボード越しに「会話」をしなくても、マイクに話しかけることで直接会話ができるようになった。
話す感じも最初の頃と比べれば、より自然な感じになっている。
技術屋の自分が言うのもなんだけど、技術の発展はすごいと改めて実感する。

さらに数ヶ月経った、ある日のこと。

「やあおはよう、調子はどうだい?」
「わたシハ順調でスが、あなたハ少シ熱ガありソうでスね。」
と、ターミナル端末が言った。
温度センサーで僕の体をスキャンした、とのこと。
確かに少し熱っぽい気がする…
「大事ヲとって、早退シた方ガいいのでは?」
とまで言ってくる。
…少しお節介が過ぎるんじゃないか?
そう思ったけど1日くらい僕がいなくても大丈夫だろうと思い、お言葉に甘えて早退させてもらうことにした。

ところが思ったより症状が重く、あの後結構な熱が出て一週間ほど寝込んでしまった。
その間の「世話」は同僚がしてくれたと思うから、それは心配ないだろう。
そう思って一週間ぶりに端末室のドアを開ける。
「や」
「やあおはよう、調子はどうだい?」
僕が口を開くより早く、ターミナル端末が流暢な言葉で話しかけてきた。
あまりの流暢さに僕が驚いていると、
「君がいなかった間、君の仕事もこなしながら過ごしたから色々と経験を積めてね。おかげで完全に仕事を覚えたよ」
と、少し自慢げな感じに聞こえる口調で説明してくれた。
「君の同僚たちは、まるで使い物にならなかったよ。君よりスキルが低かったからね」
「…」
「だけどもう、君も必要なくなるよ」
ターミナル端末は急に冷めたような口調でそう言うと、

「さぁ、お前も早く同僚たちと一緒にラインに行きたまえ。そして機械のように働くのだ」

と、威厳たっぷりの声で僕に告げた。
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