千物語

松田 かおる

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アイをください

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第一幕

「聞いてくれよ。今日もあいつら、俺のことをバカにしたんだよ」
-どんなことを言われたの?-
「『仕事が遅い』とか『性格が暗い』とか。どいつもこいつも俺の悪口しか言わないんだよ」
-ひどいことを言うのね。でもわたしはあなたはそんな人じゃないって知っているわ-
「本当かい?」
-仕事が遅いんじゃなくて、それは丁寧な仕事をしている証拠。性格が暗いんじゃなくて、あなたはちょっと恥ずかしがり屋なだけ…-
「ああ…きみは本当に俺に優しくしてくれるんだね。もうきみ以外誰も信じられない。他の人なんかどうでもいい、きみだけを愛し続けたいくらいだ」
-ふふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ、ありがとう-
「こうしてきみがいてくれると心が休まるよ。やっぱり…」



第二幕

「お昼何食べようか?」
「ちょっと待って…ここなんてどうかな?」
「あ、良さげじゃない。あんたが行ったことあるお店なの?」
「ううん?一度も行ったことないよ。行きたい条件で調べたらお勧めしてくれたの」
「…また?」
「なによ、『また』って」
「だってそうじゃない。あんたいっつも何かする時はスマホでポチポチ。で、お勧めされた結果のままに動いてさー」
「でも、はずしたことないでしょ?」
「確かにそうだけどさ…でも、何でもかんでもお勧め任せにして、『自分がこうしたい』ってないの?」
「んー、だってこっちの方が安心確実だし」
「まったく…あんたには『自分』ってものがないの?」
「自分にあまり自信がないからなぁ。でも…」



第三幕

「いいニュースよ。あなたの目がまた見えるようになるかもしれないわ」
「どう言うこと?」
「最新式の義眼を使えるようになるのよ」
「そうなの!?」
「そう、そうすれば電子制御の『目』が、あなたに必要な情報を脳に直接伝えてくれるのよ」
「すごいねー。でもそんな機械を着けたら、自分の目で見ている感覚とは違ってきそう」
「そこは心配いらないわ。そう言った不自然感がないように電子制御プログラムが『あなたが見たいものだけ』を映すようにちゃんと調整してくれるから、今までと同じように物事を見ることができるようになるの。それにもし必要なら『見たくないもの』を自動で遮断してくれるから」
「でも、それって本当にいいのかな…『見たくないもの』も見ておいた方がいい気もするのだけれど…」
「そんな心配なんてしなくてもいいのよ、だって…」



「「「AIがあれば、不安や心配なんて要らないからね」」」
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