千物語

松田 かおる

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彼女と私

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私には「推し」の人がいた。

その人は、ちょっとしたことが重なって心の中にポッカリと穴が開いたような状態になったある日、SNSのタイムラインに現れた。

何気なくその投稿を読んでみると、同性であることや同年代であること、そして私と似たような境遇であることが判って、急に親近感が湧いてきた。
そして投稿の内容も私の趣味や好みにぴったりマッチしていて、さらに親近感が深まり、相互フォローになるまで時間はかからなかった。

彼女はVtuberでもあり、SNSでの投稿以外にも定期的な配信をしていた。
Vtuberなのでアバターを使った配信をしているのだけど、そのアバターも私の好みのキャラで配信も楽しく聞かせてもらっていた。

そして彼女の一番素敵なところは、「他人のことを自分のことのように考えてくれる」ことだった。
嬉しいことがあれば一緒に喜び、腹立たしいことがあれば一緒に怒って、悲しいことがあれば一緒に悲しんでくれた。
そんな彼女は、私の心に開いた穴をぴったりと埋めてくれるような存在になっていった。



しばらくして、ちょっと不思議なことに気付いた。
私が酷い頭痛に悩まされていたある日のこと、彼女も「頭痛が酷い」と訴えていた。
最初はただの偶然かと思ったけど、それ以外にも「お腹が痛い」「少し珍しいものを食べた」といった、私自身に起きたことが彼女にも同じく起きていたのだ。

…まるで私自身と同じ行動をしているかのように。

そんなことが続くと、彼女と私の関係が「普通と違うのではないのだろうか」と思うようになった。
趣味や境遇も同じ、同年代ということで「他人とは違う感覚」を覚えていたが、ある日それが確信になった。

「明日の仕事、行きたくないなぁ」と考えていたら、彼女もその日の配信で「明日の仕事、面倒くさいことがあるから行きたくないんだよね」と言ったのだ。

これはもう偶然などではない。
彼女と私は一心同体…いや、彼女は私自身なのだと確信した。
これなら私の心が欠けた時に現れたのも。
その穴をピッタリと埋めてくれるような感覚になったのも。
一挙手一投足が私と同じことになっているのも。
全て納得がいく。

…そうか、彼女は私の欠けた心だったんだ。
だったら私たちは二人別々じゃいけないんだ…
誰かのものになる前に、早く「ひとつ」にならなくちゃ…





「それじゃあ今日も配信を始めるね…あれ、玄関のチャイムが鳴ったみたい。ちょっと出てくるからミュートにするねー」
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