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ベッドで待っていて
しおりを挟む湯船の中で、ラファエルもまた口づけから欲情の炎が燃え上がるのを感じて唇をヴァレンティーナから離す。
「俺も、のぼせそう……もう出ようか。俺が拭いてあげるよ」
「ん……いや……身支度をしていくから……先に出て……部屋で待っていて」
「支度……? このままでいいのに」
「……初めて……なんだぞ……少しでも……あの……つまりだ……」
いつもは毅然とした態度でハッキリものを言うヴァレンティーナだが、ラファエルの前では言葉に詰まってしまう。
それでもラファエルは優しく手を握って、瞳を見つめて話を聞いてくれる。
「うん」
「少しでも……ましなように……綺麗にしたいんだ……夫に少しでも、そう思われたいから」
『夫』と呼ばれて、ラファエルは微笑む。
「ヴァレンティーナ……すごく嬉しいよ。でも一人で歩けるかい?」
湯船でも、ついヴァレンティーナの素肌に触れて沢山の口づけをしてしまった。
「も、もう大丈夫だ」
「ベッドでは、もっと激しく優しくするからね……」
「なっ……ラファエル……さっきので十分だ」
「これからだよ……待ってる。呼び鈴があるから、歩けなかったらすぐに呼ぶんだよ」
「わかった……愛してる」
「愛してるよ」
ラファエルは、ヴァレンティーナの頬にキスをする。
先ほど感じた快感以上にもっと激しい事が……これから? と思うと身体が疼く。
自分にこんな淫らな面が、と思ってしまうがそんな自分をラファエルは可愛いと言って愛してくれる。
まさかこんな事が自分の人生に起こるとも思わず……知識など一切ない。
先ほども一方的に快楽を与えられたが、本当は自分がラファエルを洗い、奉仕をせねばいけなかったのでは……と考える。
湯からあがり、興奮が収まっていない身体を拭いてアリスの用意した身支度品を手に取った。
パーティーの時以外は化粧はしないが、おしろいと紅くらいは化粧直しでする事ができる。
吸水布という髪が乾く特別なタオルで髪を拭き、櫛を通し三つ編みをして横に流した。
そして……。
「これを……着るのか」
アリスが用意していたのはベビードールとショーツ、ストール。
もちろんヴァレンティーナに似合うよう過度なフリルやレースは付いていない。
スレンダーな身体に合うよう、デザインされたものだ。
あの短時間で一体どうやって用意できたのか。
じわりと感謝の気持ちが湧くが……。
「……でも……ショーツが小さすぎる……」
こんな布地の大きさで? と思うような純白レースのショーツ。
しかも両端は紐だ。
こんなにも心もとない下着があっていいのか? とヴァレンティーナは思う。
『ラファエル様を喜ばせたいんですよね? あ、でも履かないのもアリですよ』
というアリスの声が脳内に響いた。
「……ばかな……」
ぎこちなく、ヴァレンティーナは小さなショーツを履きベビードールを着た。
これまた薄布の光沢のあるストールを羽織る。
透けているような気もするが、もうどうしたらいいかわからない。
それよりもラファエルに触れられた身体は、ベビードールが揺れて触れる刺激にもまた反応してしまう。
落ち着いて、と思ったが腰に剣などはない。
二人の剣はラファエルの部屋だし、初めて愛し合う時に剣を身につけていいわけがない。
「ええい、ままよ……」
渡り廊下を歩いて、ヴァレンティーナはラファエルの部屋へ入る。
しかしそこにラファエルはいない。
そうだ、ベッドで待つと言っていた……今度は寝室のドアを開けなければ、と何度も緊張してしまう。
ふーっと深呼吸をした。
「たのもう!」
「えっ……?」
「あっ……いやあの」
大きな天蓋付きのキングサイズベッド。
そこに横たわってワインを飲んでいたラファエルは、バスローブを着ているが当然中は裸だ。
胸元も足も見えていて、ラファエルを見た瞬間にまた心臓が疼く。
「ヴァレンティーナ」
待ちわびていたと言うように、ベッドを降りて彼女のもとに駆け寄るラファエル。
「ラ、ラファエル……」
「天使だ」
「え?」
「美しい天使だ」
「へ、へ……変な事を言うな君は」
「え? なぜ」
一番似合わない言葉だと思ったが、ラファエルは不思議そうな顔をした。
「私は男達に、男女だの死神だの言われていた女だぞ」
ラファエルは一輪の薔薇を、ヴァレンティーナに差し出す。
「それは君の剣の強さに嫉妬した低能な奴らの悪口だろ? すごく素敵だよ。天使みたいに可愛い」
「かわ……」
薔薇は綺麗なピンク色だった。
恥ずかしくなって、そっと受け取る。
ピンクの花など初めてもらった……と思うヴァレンティーナ。
「喉が乾いただろう? さぁベッドで水を飲もう」
手を引かれて、ベッドに座らされてオレンジを浮かべた水のグラスを渡された。
「兎だ。可愛い」
「こっちにもいっぱいいるよ」
お皿の上に並べられた、ラファエルお手製のオレンジの兎。
「ふふ、ありがとう。とても可愛くて、嬉しい」
喜ぶヴァレンティーナの笑顔。
いつもの凛々しさではなく、無邪気で可愛い。
こんな表情をヴァレンティーナは、きっと外で見せる事はしない。
それが今自分に向けられていると思うと、ラファエルの心はじんわりと熱くなる。
「湯当たりしなかったかい?」
「大丈夫だ」
「もう眠い……?」
「いや……大丈夫……」
ラファエルの気遣いと優しさが、清らかな水のように心に染み入る。
「可愛いね、これ」
ヴァレンティーナが唯一できるが、人前では絶対にしない三つ編み。
彼女が水を飲むのを、待つように彼はその三つ編みを愛しそうに撫でて髪にキスをする。
「……私は不器用なんだ。だから、これしか結えない」
「俺のため?」
「……うん……そうだ」
初めて、誰かのために綺麗になりたいと思った。
「嬉しいよ」
キャンドルの甘い香りと淡い光が、二人を包む。
まだ二人の時間は……これからだ。
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