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役者は揃った
歴戦の戦士
しおりを挟む「……で、お客さん。詳しい行き先はどちらで?」
首都高速を降り、246号線に入ったあたりで、運転手がバックミラー越しに尋ねてきた。
「いや、実はよく分かっていないんだ」
ジークは隣に座る少女と笑い合いながら、悪びれもせずに答える。
「税関で入国審査の時に聞いたのは、『目黒』と『豪邸』でね」
「目黒の豪邸……?」
助手席に座っていた父親が、ふと首を傾げる。
運転手と顔を見合わせ、何かを思い出したようにポンと手を打った。
「それって、もしかして天童さんのところじゃないか? あの辺りでとんでもない豪邸といえば、あそこくらいしか……」
「ほう、心当たりがあるのか。なら、とりあえずそこへ向かってみてくれ」
ジークは運転手に気さくに指示を出すと、再び少女と母親の相手に戻った。
「それにしても、マダムのその服、とても素敵だ。君の柔らかい雰囲気に実によく似合っている」
「あらやだ、ジークさんったら……ふふっ、ありがとう」
終始デレっとした優しい顔で少女と話し、いつの間にか母親まで完全に手なずけているジーク。
さっきまで「いいじゃないか」と快く相乗りを許可した父親は、みるみるうちに不機嫌そうな顔になり、腕を組んで窓の外を睨みつけている。
和やかな(父親だけがひたすら胃を痛めている)車内の空気が、ある交差点を曲がった瞬間、ふっと変わった。
ジークがピタリと会話を止め、窓の外——はるか前方を見据えたのだ。
彼の青い瞳が、一瞬だけ、底知れない歴戦の戦士の「真剣な目」に変わる。
「……この方角で間違いない」
ポツリと漏らした低い声。
やがてタクシーは、閑静な高級住宅街の中でも異様な威圧感を放つ、巨大な正門の前に滑り込んだ。
要塞のごとき、天童家。
タクシーが停まるや否や、門の前に立っていた屈強な黒服の警備員たちが、鋭い目つきで車に近づいてくる。
後部座席の窓が開き、ジークが大きな顔を出すと、警備員の一人が眉をひそめて怪訝な声を上げた。
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