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千年戦争
フォアローゼス プラチナ
しおりを挟む重厚な扉の奥から漏れ聞こえるのは、張り詰めた空気をさらに冷たくするようなショスタコーヴィチの調べ。
美代の案内で広大なリビングに通されたジークは、イタリア製のホワイトレザーソファに腰を下ろす主役たちを値踏みするように見渡した。
「何かお飲みになられますか?」
美代が即座に、かつ隙のない所作で尋ねる。
「それではバーボンをいただこうか……ロックでな」
オーダーを受け、美代は静かに、しかし流れるような手つきでフォアローゼス プラチナをグラスに注ぎ、ジークへと差し出した。
琥珀色の液体に浮かぶ氷を、ジークはいたずらに指で揺らす。
カラン、と、硬質な音がショスタコーヴィチの旋律に割り込んだ。
「どうやら、主役たちが集まっているようだな」
ゆっくりと、ジークが口を開く。
「俺はジークフリート……ジークとでも呼んでくれ。で、これはいったい何の集まりだ?」
やれやれといったジェスチャーを交えつつ、彼の視線は真っ直ぐに一点を射抜いていた。
「そもそも俺は、そこにいる二人の『龍』に会いに来た」
その言葉に、おしんの表情が微かに強張る。
「……私とシンジのことね。あなたはなぜ、それが分かるの?」
「さあな。昔から勘はいいんだ」
ジークはグラスを傾け、フォアローゼス プラチナを舌の上で転がした。
「バーで酒をあおっていたら、お前らが倒したやつに脅されてな。それを倒した連中に挨拶に来たってわけだ」
その瞬間だった。
シンジの指先が、極めて自然な動作で愛刀『月光』の柄へと滑る。
空気が凍りついた。
「おいおい、いきなりかよ」
ジークは全く動じることなく、口元に笑みを浮かべる。
「まあ、なんだ……それもあるが、まずはどんなやつか、この目で見てみたくてな」
シンジは柄に触れる寸前、空中でピタリと指を止めた。
ジークは再びフォアローゼス プラチナで喉を潤し、ポツリとこぼす。
「お前、その気の短さは『源蔵』みてえだな」
その瞬間、おしん、そしてシンジの息が止まった。
「日本人っていうのは基本的に短気なのか? そういえば小田も短気だったが……おっと、お前ら先祖か何かか?」
ジークは遠い目をしながら、四百年以上前の源蔵との記憶を語り始める。
あらゆるジェスチャーを交え、ジークが『源蔵』を堪能し終えたころには彼のグラスの中の氷は、すでにかなり溶け出していた。
「……そんなわけがない! 源蔵さんは四百年以上前に亡くなりました」
おしんが鋭く否定する。
「へー、そうかい。もしかしてあいつをやったのは、お前らが倒したやつか? それとも他に……」
「……その通りです」
静かに答えるおしん。
「でも、これで双極星も再び平和になるでしょう……」
「それなんだが、母さん」
沈黙を破り、シンジが重い口を開いた。
「あいつ、消える寸前に笑っていたんだよ……」
その言葉に、終始何かを確認するように考え込んでいた天童理人が動いた。
「ずっと疑問に思っていることがある。あいつらは何が目的なんだ? 綾さんの命だとでもいうのか?」
「俺も疑問に思っていた。あいつらはなんで襲ってくるんだ? 目的がさっぱり分からん」
シンジが同意するが、おしんは喉まで出かかった言葉を飲み込み、目を伏せている。
カツン。
空になったグラスが、イタリア製のテーブルに置かれる音が響いた。
「……そうか。ならお前ら」
ジークの目が、猛禽類のように細められる。
「千年前から続く戦争のことは、知っているか?」
圧倒的な静寂がリビングを支配する中、ジークは美代に向かって片手を上げた。
「ボトルで持ってきてくれ!」
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