龍血の系譜

盤上の観察者

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千年戦争

清寿軒

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「この俺もまた聞きなんだがな……源蔵が言うには」
 ジークは、空になったグラスに再びフォアローゼス プラチナを注ぎながら語りだした。

 ――シルヴァードラゴンとブラックドラゴンは、もともと平和な関係であったこと。
  ――しかし、ある日を境にすべてが狂ったこと。

 天童は、その荒削りな神話に静かに耳を傾けながらも、視線だけで傍らに控える美代へ『人数分の飲み物と軽食』を指示する。

「そして……」
 ジークはテーブルから身を乗り出し、声を一段低く落とした。
「時のブラックドラゴン王が、突如シルヴァードラゴン族を蹂躙し始めた」

「許せねえな!」
 シンジが即座に反応し、冷気を孕んだ殺気が室内の空気を微かに震わせる。

 ふたたび、水を打ったように静まり返るリビング。
 その張り詰めた緊張感を縫うように、美代が音もなく歩み寄り、イタリア製のテーブルへ『清寿軒のどら焼き』と立ち上る『玉露』を、寸分の狂いもない完璧な位置に配置していく。

「……待て、その話には無理がある」
 天童がさらに続けた。
「理由がない。彼らがこちらに顕現する理由は別にあるはずだ。仮にシンジが狙いだとしても、純粋なシルヴァードラゴンではない彼を執拗に追う理由としては弱い」
 極上の玉露で喉を潤しながら、天童は冷静に頭脳を回転させる。

「……それについては、別の理由でシンジが狙いなのだと思います」
 おしんが、清寿軒のどら焼き『小判』を可愛らしく頬張りながら割って入った。

(これは……なんとよい時代になったのですね)
 四百年ぶりの甘味に密かに感動を覚えながら、おしんは淀みない動作ですぐさま隣の『大判』にも手を伸ばす。

 天童は、再び美代に目で何らかの指示を送る。
 すぐさま、無言のまま影のように消える美代。

 ***
 天童邸の裏庭。
 
 田中は、数時間前にホイールについたばかりの僅かな汚れを落とすため、漆黒のリンカーンの洗車を黙々と行っていた。

 突如、上着に収められているPixcelが短く振動する。
『田中さん、清寿軒に急いでください。予約はこちらで入れました』
 美代からのテキストだった。

 田中は返信は返さずにすぐさま行動に移る。
 Pixcelを上着に戻すと、濡れた手を拭う間もなくリンカーンの運転席に滑り込む。
 重低音と共にV8エンジンが咆哮を上げ、田中はサイドブレーキを一気に下ろした。

 ***
「ブラックドラゴン王は、シンジを『脅威』として考えているのでは?」
 視点を変えてきたのは、これまで黙ってシンジの背後に隠れていた綾だ。
 彼女は誰よりも、怒らせたときのシンジの恐ろしさを知っている。

「それについては僕も考えた。ただ、それなら初めから確実に殺せるだけの『大軍』で来るんじゃないかな?」
 天童が鋭く分析する。
「なぜ、小出しにしてくるのか……そこが分からないんだ」

 おしんはすでに三個目のどら焼きを口いっぱいに頬張りながら、そっと目を伏せた。
 上品に玉露を啜りながらも、その胸中では『言うべきかどうか』をもう一度激しく巡らせている。

 ここまでの会話を、フォアローゼス プラチナを舐めるように飲みながらじっと聞いていたジークが、頃合いとばかりに声を発する。

「表に出ろ! シンジ」
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