キミを絶対、世界のみんなに自慢する。〜ポンコツな家政婦とナマイキ少女の下克上〜

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【第15話】ロールキャベツ

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「あなたは、どなたですっ?」

 突如目の前に現れた老人に、キノーは質問を投げ掛けた。

「ん? さっき言ったぞ? フォマローの友達だ。君こそ誰なんだ?」
「ただの……家政婦ですっ」
「なるほど、そうか」

 老人は地面からナイフを拾い上げた。
 先ほどおっさんが落とした物である。
 手に取り、じっくりと眺める。
 すると。

 老人は、自分の手のひらを切った。

(うわっ……)

 顔をしかめるキノー。
 傷口から、血が流れ落ちる。
 一滴。地面に赤い点が付く。
 しかし、出血はそれだけだった。
 瞬く間に出血は止まり、老人の手のひらの傷は跡形もなく消えていた。

「えっ……」
「驚いたか? ちょっとした手品だ」

 彼はナイフを拭うと、キノーに手渡した。

「さっきの君も、手品なのか? もう一度見せてくれ」
「……」

 キノーは困惑していた。
 この老人、掴み所がない。
 敵なのか味方なのか。
 嘘なのか、本当なのか。
 まるで解らない。
 ただ一つ、どうするべきかは理解していた。

「……わかりました。危ないのでちょっと離れてくださいっ」
「ん? ああ、いいぞ」

 三メートルほど、老人は身を引いた。

 直後。

(今だっ! 【過剰リリース】っ!)
 
 シャリオの身体を引き寄せ、キノーはすぐさま駆け出した。


 風音と共に、一瞬にして姿を消した二人。

「……上出来だ」

 残された老人は、感心した様子でその場に留まった。



(ヤバイヤバイヤバイヤバイっ! 絶対ヤバイ人だっ!!)

 シャリオを前方に抱え、キノーは暗闇を駆けた。
 
 彼女の脳裏に先ほどの老人の姿が過ぎる。
 傷口。そして、血で濡れた掌を見つめる冷たい視線。
 月明かりが相まってか、その姿に官能的な雰囲気を感じ取っていた。

(凄く気になるけど……いまはシャリオくんの安全と、ディナーの準備が優先だっ)

 邸宅が近づき、キノーはスピードを落とした。
 そしてキッチンの裏口に到着すると、リュンヌが心配そうな面持ちで立っていた。

「シャリオ……!!」
 
 弟の顔を見るやいなや、少女が駆け寄る。
 しかし当のシャリオは、どこかぼんやりとした表情で宙を眺めていた。
 
 二人を尻目に、キノーは窓を開けて振り向いた。
 
「私はディナーの準備がありますので、これで失礼しますっ」
 
 そう告げると、もぞもぞとキッチンの中へと戻っていくのだった。
 
 
「ねえ……シャリオ。大丈夫? 何かされてないよね?」
 
 窓が閉じられたのを確認し、リュンヌは再び弟に声を掛けた。
 シャリオの表情は、相変わらず心ここにあらずである。

「……よかった」
「シャリオ……?」
「すごく……すごかった!」
「どーゆーこと……!?」
 
 
 
 キノーが料理を再開した時には、もう残り時間は十分を切っていた。

 しかし、彼女に焦りはない。
 五分で広間を掃除したとき同様、スキル【過剰リリース】を発動させる。
 素早く、そして正確に。
 ディナーの準備は、着実に進められた。
 
 
 

「ん、美味しい……!」
 
 時間通りのディナータイム。

 キノーの料理を食べたオルディネールは、思わず感嘆(かんたん)の声を漏らした。
 そして二口目を食べながら、どこか嫉妬めいた視線で周囲の反応を見つめた。
 
 フォマローも続けて感想を述べる。

「キノー、見事だ。こんな美味しい”ロールキャベツ”は初めてだよ」
「喜んでいただき、光栄ですっ」
「肉の力強い味をキャベツの優しい味が包み込むことで、
 程よく中和しているね。
 素晴らしいバランスだ……」
 
 うんうん、とオルディネールも頷く。
 リュンヌとシャリオは何も言わないが、その表情から満足そうな様子が見て取れる。
 
(作ってよかった……)
 
 キノーは静かに、安堵のため息を吐いた。 

「また、ディナーをお願いしたいな。オルディーはどう思う?」
「うん、いいかも。私もキノーさんの料理、気に入っちゃった!」
「どうだろう、頼めるかな?」
 
 二人の、期待に満ちた視線が向く。
 
「はいっ。そう言って頂けるなら……今度は“肉そのもの”の料理をお出ししたいと思いますっ」

 そう言いながら、キノーは微笑んだ。
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