士農工商

ロコ

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娑婆世界

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江戸の街全域の再建は、進んでいる。
まるで、二十年に一度のお伊勢様の建て替えの、式年遷宮の様である。
ここ深川長兵衛長屋の、職人達は、大喜びだ。
工事の家に、孝行者の息子がいる。

将太と、言う。
弱冠十二歳。
工事の還暦の祝いに、うっかり出来た子だった。
今工事は老齢七十ニ。六十八で呆けてしまい床に着いている。母の史子は、十年前肺結核を病み他界した。
将太の記憶に、母は居ない。弱冠八歳だった。
余りにも弱冠だった。然し少年は頑張った。

【よし、おいらがお父を喰わす】

少年は、その日から読売堂の、下働きとして、働き始めた。
校正刷り見習い。朝早くに、お父にままを、あてがいそのままお店に出て掃除して、賄いを頂き。
仕事にかかった。元来聡明な質で、仕事をよくこなした。初給金で、お父に帆立貝を買った。
一年もすると、一人前の校正者に成長していた。
給金も、当初の数倍。瓦版印刷に必要欠くべからずの存在になっている。ここ長兵衛長屋も、震災の家屋倒壊全滅の憂き目にあい、取るものもとりあえず皆避難した。そして再建。大黒柱軋むボロ長屋は、新築の木造住宅へと、変身した。畳から何から全部新築である。

人生何が幸いするか分からない

古言は、言っている。
将太十二歳、副番頭に昇進した。
少年に、顎で使われるお棚の店員達。

世の中実力者が、勝つ世界よ。
将太は、いい放つ。
もう、慢じている。将太のいい方も、良くないが事実である。

糞ガキめ、偉そうに!!!!
八方から、攻撃される。
悔しかったら、副番頭になってみな。
聞こえると、その者を呼びつけて面と向かっていい放つ。真っ赤な顔に、なりチビの面前で唸る店員達。

よし、良く言った。
覚えていろ。
きっと、後悔させやる。
職人達は、捨て台詞を吐くと、面前から去った。
そんな日々が、流れていった。
ある晩の丑三つ刻。
長兵衛長屋門を、影が忍んだ。
将太の部屋の前で、影は止まった。
その手に、
キラッと白刃が月夜に映えた。中の様子を伺っている。そして障子戸をそっと引いた。中は、火が落ちて居て暗い。いびきが響いている。

フン、ガキめ。
賊は、安心した。
やっぱり、ガキはガキだな。
ソロリ、ソロリ、忍び足で入ると短刀を構えた。

死ね糞ガキ!!!!

殺人剣は、布団を滅多刺しにした。

ザマアミロ!

言い残して、賊は、逃走して行った。
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