転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第6章

第十四話 国に属していなくたって、国内に拠点を構えてたら税金を払う必要はあるってさ

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 某日、エフィリス国王城内。

 厳重な警備のもと、来賓を持て成す広々とした吹き抜け式の広間には重苦しい空気が横たわっていた。

 中央のテーブル席に座すのは国内における有力者たち。さまざまな組織の代表が護衛を引き連れてこの場にいる。

 総勢二十を超える面々であり、これほどまでの規模の会議は少なくとも当代のエフィリス王が即位してからは前代未聞であった。誰もが、これから行われる『会議』への複雑な心境を抱いているのが表情から窺える。

 ところが、そんな中で穏やかに談笑をしているものもいた。

「先日いただいた美容液、とても良かったわ。ウチには女性の騎士もたくさんいますから、今後も融通していただきたいものです」
「それはそれは何よりで。お勧めした甲斐があるというもの。以降も是非、ご贔屓を」

 献聖教会教皇の名代として参加したラクリマ・ピーズリ。対するはレヴン商会の会長アクリオ・レヴンだ。護衛としてこの場に同行し後ろに控えているデュラン、ヘクトは自身の上司が空気も読まず会話に花を咲かせている様は、少しばかり居心地が悪そうである。

 そんな二人を見据えて険しい顔になっているのは、ハンターギルドの代表だ。残念ながらギルドの最高権威マスターは所用により欠席となり、代理として幹部が参席していた。

 ラクリマと似たような形ではあったが、あちらは次期教皇という立場であり道理が通っている。けれどもこちらはただの一幹部なのだ。過分な役割を押し付けられて、会議が始まってすらいないのに既に胃が締め付けられるような気分であった。

「大丈夫? 胃薬飲みます?」
「……誰のせいだと思っている」

 護衛に耳打ちされても、反射的に悪態しか出てこない。幹部がこの場に参席したのは、ある種の貧乏くじであり、それを引く最大の原因はこの護衛──アイルであった。

「あなたのおかげで昇格したアイルが早速活躍したから、その判断力を見込まれてこの場を任されてるんでしょ? 期待されてるようで何よりじゃない」
「くっ…………」

 対外的にはその通りなのだが、内実は脅しで昇格させられた上に、赴いた先で手柄を立てせいで、間接的に己の株が上がってしまった。当人としては過分な期待を寄せられてたまったものではない。もっとも、脅しのネタは彼がギルドの資産を着服したことに起因しているので、自業自得である。加えていうなら、各所の重鎮が居合わせる場で声高に言い返せるはずもない。きっとそれはアイルもわかっていてやっているのだろう。

 漏れ出た身の錆に苦悩している間にも、時は過ぎていく。




 あらかじめ知らされていた刻限が迫ると、会議室の扉が開かれた。

 入室してきたのは三名。彼らの姿に代表たちはさまざまな反応を見せる。ラクリマ、アクリオたちはさほど驚いた様子はなく、ギルドの幹部は眉を顰める。だがそれまで余裕綽々だったアイルは盛大に顔を顰めていた。

 一人が、空いていたテーブル席の最奥に腰を下ろし、続いていた二人の片割れは彼の背後に陣取る。そしてもう一人は、残された最後の一席であるシドウの隣に腰を下ろす。

 最奥の席についた人物が、口を開いた。

「お歴々の方々、此度の招集に参じていただき感謝する。私はシドウ。この会議における進行役を任されている。この場限りの方もいるであろうし、お見知りおきはせずとも結構だ」

 男──シドウの声に、いよいよ室内の緊張が高まっていく。進行役というのだから、王国側の人間であるには違いない。けれども身分を名乗らないことへ疑問を抱く者もいるようだ。唸るように険しい表情がちらほらとある中で、シドウは口を開いた。

「素性も知れぬ男が進行役であることに不満を抱く方もいらっしゃるようだが、申し訳ない。私の身分を懇切丁寧に説明するつもりはない。もっとも、隣の彼女・・については後ほど説明をさせてもらうが」

 室内のざわめきがさらに大きくなるが、シドウは視線を正面から斜め上へと移した。

「どうやら、この会議の主催者もいらっしゃったようだ」

 皆が一斉にシドウの視線を追うと、誰かがハッと息を呑んだ。

 吹き抜けの二階部。ちょうど会議の全容を見渡せる位置に、偉丈夫が佇んでいた。この場に居る者の中で、その人物の顔を──名を知らぬものは存在していなかった。

 カイン・エフィリス。かの悪逆皇帝を討ち果たした勇者アベル・エフィリスの子孫であり、エフィリス王国の盟主である。

 そして彼こそが、ここに居合わせる有力者たちに号令を発した張本人なのだ。

「先に申しておくと、私はこの会議において、王より名代としての役も任されている。ゆめゆめ、お忘れなきようお願いする」

 発言を聞いた王が、鷹揚に頷く。シドウの言葉は一切相違ないと、王自らが認めた証左であった。

 参席者の数人が慌てて席から立ちあがろうとするが。

「わざわざ起立する必要はないと、先んじて王より仰せつかっている。この場に居る大半の者は王直下では無い。むしろ、貴殿らの払う血税によって王家は成り立っている。糧を頂戴している身として、必要以上に畏られても困る──とのことだ」
「……………」

 王は口こそ開かなかったが、無言の圧力をシドウに向ける。この場をシドウに一任すると認めた手前、気軽に発言もできないのだろう。

 このやりとりだけで、シドウがタダならぬ者であるとほとんどの者が理解したであろう。またその内の幾人かは、シドウが何者かを察したに違いない。

 騒めきが薄れ空気が落ち着いたのを見計らい、シドウが改めて口をひらく。

「では『亡国を憂える者』対策会議の開催をここに宣言しよう」

 
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