転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第7章

第三十話 杞憂を願って万事を尽くす

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「で、これがお前の気になっている……」
「あ、はい。精査自体は終わってるらしいので、疑うのも悪いかなって思ってたんですけど」

 謙遜や遠慮が混じりつつ、ドライアは己の心情を正直に伝えると、ケインは書類でポスポスと彼の頭を叩いた。

「そこで素直に引き下がるようだったら、今この瞬間にお前を追放してる」
「怖ッ!? せめて貯蓄が出来るまでは勘弁願いたいところなんですがっ」

 上司の顔色を伺い、疑問に蓋をするような人間はこの組織には要らないのだ。

 机の書類を手に取り目を通すと、途端にケインの目つきが険しくなった。この辺りについては、ドライアも予想の範囲内である。

「よりにもよって、あの女関連か」
「ええまぁ。最初はそこに目が付いたんですけど──すいません。本当に勘みたいなもので、根拠も何もないんです」

 書類には、王都から離れた遠方の地に、亡国を憂える者が潜んでいる旨。その後に判明した敵戦力の規模。先行して派遣した執行官たちの戦力では、万難を拝し難い。よって、協力者として『剣姫』を増援に送る──と記されている。

 他の書類は、当該地に纏わる調査書で本件の裏付けに必要な情報が記載されている。

 それらにも目を通すが、一見した限りではケインにはドライアの言う『違和感』は分からなかった。
「かと言って、安易に無視もできんか」

 ドライアの来歴を知っているだけあって、彼の直感は軽視できない。機関の中では新人に違いないが、それまでは闇の世界で長く生きてきた経験から来る勘だ。何かが潜んでいる可能性は大いにありうる。

 ケインは一旦書類から意識を剥がし、別の視点で考え始めた。

 直感とはつまり蓄積され培われた経験からくる最適解だ。そして、ケインとドライアが積み重ねてきた経験は異なる。裏の社会で過ごしたという点は違うが、ドライアはケインと違って師や同輩はいたが実質的には個人で活動してきた人間だ。

 機関の外部で活動していた、ドライアだからこその観点があるのではないか。

 あるまじきことだが、機関の人間であれば無意識に信じてしまう情報。

 思考の底に沈んでいた意識が浮上すると、ケインは再び書類に目を通す。

 ──そして目についた一つの記述。

 情報の出元に纏わる部分だった。

「ドライア、お前が気になっていたのは、おそらくこの部分だ」
「……あ、ああ。そうだそうだ。覚えのある名前が繰り返し出てくるから気になったんだ」

 ピタリと指摘されると云々と頷き、得心してスッキリしたドライアに比べて、指摘した側であるケインの表情には険しさが帯びていた。

 情報元の記名についてはそれぞれ異なってはいるが、元を糺せば一つの大きな組織にたどり着く。それは獣殺しの刃が最も信頼を置いている組織の一つであり、本来であれば疑いが挟まる余地はない。

 ただ『情報の真偽を確かめる為の情報』というのは、多角的なものが求められる。どれほど客観的な分析を心がけていようとも、無意識に主観が入り込む可能性がある。それを避けるために、一箇所だけではなく複数の場所から集めた情報を照らし合わせて事実と真実の差異を確かめていくのだ。それはたとえ、絶対の信頼における組織であろうとも変わりはしない。

 ドライアは先入観をなく、情報源の大元が同じであることに気が付いたのだ。

 ──とはいえ、情報の出元とは機関も長く付き合いがあり、十分以上に信頼できる。だからこそ、同じ場所からの情報にも関わらず、そのまま精査に使われていたのだろうが。

 ケインの中には、他の構成員や執行官たちが持ち得ない一つの可能性があった。

 とある少女からもたらされ、そして総長も万が一と懸念している認めたくない仮説。

 しかし、今し方ドライアにも言ったばかりだ。

 ここで疑問に蓋をするようでは獣殺しの刃にいる資格などない。

「……ドライア。今、任されている仕事はあるか?」
「そもそも今日の分が終わったから、こんなことやってるわけで──ってもしかして」
「喜べ。今から大忙しだ。至急、調べて欲しいことがある」

 ケインの口から述べられた指示内容に、ドライアは驚きを経て渋い顔になる。

それ・・の裏付け、新人の自分にできますかね。結構な裁量がないと無理なんじゃ」
「かまわん。責任は全てこちらが請け負う。相手がごねたら俺の名前を出せ」

 執行官が見せる真剣な面持ちに、ドライアは息を呑む。言い換えれば、獣殺しの刃においては最大の権限を使えと告げてきたのだ。己が抱いた疑問が、想定以上に重大な事態に繋がっていると感じずにはいられなかった。

 それから、ドライアは抱いた動揺を飲み込み、苦笑しながら肩をすくめた。

『彼女』には、一生かけても返しきれない絶大な恩がある。それを僅かでも返す好機チャンスが早々に巡ってきたと考えれば、意欲も高まるというものだ。

「分かりました。すぐに取り掛かります」

 ドライアは椅子を倒す勢いで席を立ち上がると、足早に部屋を出ていった。

「さて、俺もこうしてはいられんな」

 万が一を想定しての任務の引き継ぎやその他諸々の擦り合わせなど、やらなければならないことが山積みだ。

「アマンがいないのが悔やまれるな」

 ケイン執行官の補佐であるアマンは、情報の扱いや各部署での調整力は優れており、今は対亡国同盟の方に掛かり切りだ。先日も家に帰れず徹夜続きであることを嘆いていたばかりだ。これ以上負担を増やすといよいよ倒れかねない。

 アマンの優秀さはよく知っているつもりであったが、頼れない状況になって尚更にありがたみを感じる。

 ケインの中に生じた焦燥が膨れ上がり続ける。ここまで嫌な予感を覚えたことは、機関の構成員──そして執行官となってからも稀なほどだ。

「……俺なりに、打てる手は打っておくか」

 これが『杞憂』になることを願いつつも、ケインは行動を開始した。
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