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その後のネズミ
18.その後
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◇◇◇◇
父上様が再婚して、俺に継母と妹が出来た。
妹は俺とは血が繋がらない連れ子だが、「にいたま」と俺を呼んでくれる姿はとにかく可愛らしい。
そしてあと数ヶ月もすればもう一人兄弟が増える。
性別は産まれてみないと分からないけれど、腹違いでも正真正銘血縁のある兄弟だ。
継母の腹を力一杯蹴る様子から男の子なんじゃないかと期待している。
継母は珠世という名で、俺よりちょっとだけ年上だ。
だから継母と言うのも気が引ける。せいぜい姉くらいの認識だ。
父と辰彦が揃って出掛けてしまった時に聞いた。
「珠世さん。本当にあんな父上様で良かったの?」
「あんな、とは言い過ぎですよ」
「だってさぁ、父上様が子守しながらあんなにデレデレになってるの見るとねぇ」
「あら、四郎さんも友厚様と同じデレデレのお顔をしてますわよ」
そんな会話をしながら庭に面した縁側に座り、二人でお茶を飲む。
余談だが、珠世の前では四郎の名前で通している。屋敷の皆もそう呼ぶから、まぎらわしくないようにだ。
「友厚様には本当に感謝しています。今でも亡くなった夫も愛しておりますが、それでも良いと友厚様はおっしゃってくれました。そんな抱擁力のある御方と一緒になれて幸せです」
そう言って微笑む珠世さんの笑顔はとても綺麗だった。
「んー、珠世さんが良いなら
それでいいけどね」
「あら、四郎さんは私では不服ですか? それとも、私の年齢が気に入らないのかしら?」
「いやいや! 年齢なんて全然関係ないって!」
「ふふっ、冗談ですよ」
おっとりとしているように見えて案外父上様の手綱を上手く握っているような気もする。
「にいたまぁ、遊んで」
「おぉ早恵。良いぞ。何して遊ぼうか」
一人遊びに飽きた妹の早恵が背中にのしかかるようにじゃれてきたので、身重な珠世さんの代わりに子守をしていたら父上様と辰彦様が帰って来た。
それはちょうど早恵の馬になって部屋の中をと言いながらぐるぐる回って遊んでいた時だった。
急に背中が軽くなって俺は上半身を起こす。
早恵を抱き上げたのは辰彦で、即座に父へ押し付けていた。
ポカンとしている早恵に真顔の辰彦は言う。
「早恵、簡単に男に跨がってはいけないよ。大人になるまでは父上様にお馬になってもらいなさい」
「にいたまにお馬になってもらったらダメなの?」
「お馬は父上様以外はダメだ」
早恵は指を咥えてしゅんとしてしまう。いじけた時の癖だ。
それを見た珠世さんは顔を青くして辰彦に頭を下げた。
見た目だけで言えば、辰彦より父の方が顔も体格も厳ついのに、辰彦の事が怖いらしい。
確かに俺でも畏縮する時もあるくらいだし、何より農民上がりの珠世からすれば身分的にも上だから仕方ないのだろう。
「辰彦様、申し訳ございません。私が止めるべきでした。ほら、早恵。こちらへいらっしゃい。お昼寝の時間よ」
「俺がしたかっただけだから、珠世さんのせいじゃないからね」
慌てて擁護したのだが、珠世は軽く会釈をして早恵を抱いて部屋を出て行ってしまった。
父も怒るほどではないが少しだけ眉間にシワを寄せている。
「辰彦。まだ小さい早恵になんて事を言うんだ。昔からお前はそうやって配慮が無い」
「早恵が変な馬の骨に引っ掛からないための忠告だ。こういうのは幼い内から教えておかないといけないだろう」
「それはそうかもしれないが……」
俺は二人の会話に割り込む。
「辰彦様!物心すらついていない子供に教えるにはまだ早いです!それに父上様は納得しないでください!」
俺は怒っているのに辰彦は小さく吹き出して笑い出した。
面白い顔をしているわけでもないのに、人の顔を見て笑うなんて失礼だ。
「紫苑は顔だけじゃなくて、小言まで白菊に似てきたなぁ」
辰彦の言葉に何故か父まで頷いている。
母に小言が似ていると言われても嬉しくない。
仁王立ちをして二人を睨むと俺は言った。
「辰彦様。父上様との用が済んだのなら帰りますよ!」
今日は父に用があったらしく、俺もそれに同行した次第だ。
早恵もお昼寝だし、辰彦も用が済んだのだから帰るというと父は寂しそうな顔をする。
すぐ辰彦と出掛けてしまった父とは今日はほとんど言葉を交わしていないからかもしれない。
「もっとゆっくりしていかないのか?」
「父上様、また来ますね。客がいたら珠世さんが休めないでしょ。まだ来るから」
「ああ。落ち着いたら家族皆で温泉でも行くか」
何気なく声をかけた父に、辰彦はムッと顔をしかめた。
「おい、友厚。いくら家族でも俺の女を温泉に誘うなんて何事だ」
「もーっ!辰彦様。余計な事言わないで。早く出発しないと夜までに着きませんよ」
閨では女役ではあるけれど、父の前で女とか言わないでほしい。
俺は辰彦を急かして屋敷を出た。
すると後ろからついて来ていた辰彦から不服そうな声がする。
「紫苑、お馬さんごっこがしたいのならば私に言えば良いのに」
何を言うのだと俺は目を丸くして振り返った。
だが、すぐにそれが性的な意味だと理解した俺は顔を赤くした。
しかしここで過剰に反応したら負けだ。
「往来の真ん中で言うことじゃないですよ」
「遠慮はいらないぞ。今晩は私とお馬さんごっこをしよう」
「なっ?!けっ、結構です!!」
俺は辰彦を置いて先を歩いた。
父上様が再婚して、俺に継母と妹が出来た。
妹は俺とは血が繋がらない連れ子だが、「にいたま」と俺を呼んでくれる姿はとにかく可愛らしい。
そしてあと数ヶ月もすればもう一人兄弟が増える。
性別は産まれてみないと分からないけれど、腹違いでも正真正銘血縁のある兄弟だ。
継母の腹を力一杯蹴る様子から男の子なんじゃないかと期待している。
継母は珠世という名で、俺よりちょっとだけ年上だ。
だから継母と言うのも気が引ける。せいぜい姉くらいの認識だ。
父と辰彦が揃って出掛けてしまった時に聞いた。
「珠世さん。本当にあんな父上様で良かったの?」
「あんな、とは言い過ぎですよ」
「だってさぁ、父上様が子守しながらあんなにデレデレになってるの見るとねぇ」
「あら、四郎さんも友厚様と同じデレデレのお顔をしてますわよ」
そんな会話をしながら庭に面した縁側に座り、二人でお茶を飲む。
余談だが、珠世の前では四郎の名前で通している。屋敷の皆もそう呼ぶから、まぎらわしくないようにだ。
「友厚様には本当に感謝しています。今でも亡くなった夫も愛しておりますが、それでも良いと友厚様はおっしゃってくれました。そんな抱擁力のある御方と一緒になれて幸せです」
そう言って微笑む珠世さんの笑顔はとても綺麗だった。
「んー、珠世さんが良いなら
それでいいけどね」
「あら、四郎さんは私では不服ですか? それとも、私の年齢が気に入らないのかしら?」
「いやいや! 年齢なんて全然関係ないって!」
「ふふっ、冗談ですよ」
おっとりとしているように見えて案外父上様の手綱を上手く握っているような気もする。
「にいたまぁ、遊んで」
「おぉ早恵。良いぞ。何して遊ぼうか」
一人遊びに飽きた妹の早恵が背中にのしかかるようにじゃれてきたので、身重な珠世さんの代わりに子守をしていたら父上様と辰彦様が帰って来た。
それはちょうど早恵の馬になって部屋の中をと言いながらぐるぐる回って遊んでいた時だった。
急に背中が軽くなって俺は上半身を起こす。
早恵を抱き上げたのは辰彦で、即座に父へ押し付けていた。
ポカンとしている早恵に真顔の辰彦は言う。
「早恵、簡単に男に跨がってはいけないよ。大人になるまでは父上様にお馬になってもらいなさい」
「にいたまにお馬になってもらったらダメなの?」
「お馬は父上様以外はダメだ」
早恵は指を咥えてしゅんとしてしまう。いじけた時の癖だ。
それを見た珠世さんは顔を青くして辰彦に頭を下げた。
見た目だけで言えば、辰彦より父の方が顔も体格も厳ついのに、辰彦の事が怖いらしい。
確かに俺でも畏縮する時もあるくらいだし、何より農民上がりの珠世からすれば身分的にも上だから仕方ないのだろう。
「辰彦様、申し訳ございません。私が止めるべきでした。ほら、早恵。こちらへいらっしゃい。お昼寝の時間よ」
「俺がしたかっただけだから、珠世さんのせいじゃないからね」
慌てて擁護したのだが、珠世は軽く会釈をして早恵を抱いて部屋を出て行ってしまった。
父も怒るほどではないが少しだけ眉間にシワを寄せている。
「辰彦。まだ小さい早恵になんて事を言うんだ。昔からお前はそうやって配慮が無い」
「早恵が変な馬の骨に引っ掛からないための忠告だ。こういうのは幼い内から教えておかないといけないだろう」
「それはそうかもしれないが……」
俺は二人の会話に割り込む。
「辰彦様!物心すらついていない子供に教えるにはまだ早いです!それに父上様は納得しないでください!」
俺は怒っているのに辰彦は小さく吹き出して笑い出した。
面白い顔をしているわけでもないのに、人の顔を見て笑うなんて失礼だ。
「紫苑は顔だけじゃなくて、小言まで白菊に似てきたなぁ」
辰彦の言葉に何故か父まで頷いている。
母に小言が似ていると言われても嬉しくない。
仁王立ちをして二人を睨むと俺は言った。
「辰彦様。父上様との用が済んだのなら帰りますよ!」
今日は父に用があったらしく、俺もそれに同行した次第だ。
早恵もお昼寝だし、辰彦も用が済んだのだから帰るというと父は寂しそうな顔をする。
すぐ辰彦と出掛けてしまった父とは今日はほとんど言葉を交わしていないからかもしれない。
「もっとゆっくりしていかないのか?」
「父上様、また来ますね。客がいたら珠世さんが休めないでしょ。まだ来るから」
「ああ。落ち着いたら家族皆で温泉でも行くか」
何気なく声をかけた父に、辰彦はムッと顔をしかめた。
「おい、友厚。いくら家族でも俺の女を温泉に誘うなんて何事だ」
「もーっ!辰彦様。余計な事言わないで。早く出発しないと夜までに着きませんよ」
閨では女役ではあるけれど、父の前で女とか言わないでほしい。
俺は辰彦を急かして屋敷を出た。
すると後ろからついて来ていた辰彦から不服そうな声がする。
「紫苑、お馬さんごっこがしたいのならば私に言えば良いのに」
何を言うのだと俺は目を丸くして振り返った。
だが、すぐにそれが性的な意味だと理解した俺は顔を赤くした。
しかしここで過剰に反応したら負けだ。
「往来の真ん中で言うことじゃないですよ」
「遠慮はいらないぞ。今晩は私とお馬さんごっこをしよう」
「なっ?!けっ、結構です!!」
俺は辰彦を置いて先を歩いた。
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