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◇◇◇
翌日と翌々日は元々バイトは休みを入れていたので、次のバイトの日。
僕は店長に文句を言っていた。
「無茶な残業のせいでえらい目に会いました!満月の日は何があってももう残業しませんから!」
「悪かったよ。でもさ、あの日はすっごく大変だっただろう」
「満月の夜だけはダメです。っていうか、混む日でもシフト入れませんから」
僕は断固拒否した。
その日だけは本当に無理だと思ったからだ。
「えぇ~、満月の日だからって休むなんてそんな……。ただでさえ人手が足りないんだから」
俺が兎族だからとかは話していないから、店長は深刻さを分かってくれない。けれど、兎族だと話すとややこしくなるのでアレルギーということにしている。
「月光アレルギーなんですから、お願いだから休ませて下さい」
「月光アレルギーって、そんなアレルギー聞いたことないんだけど。ホントなのかい?」
僕は強く頷いた。
「世の中には奇病はたくさんあるんです。日光アレルギーの月バージョンがあったって不思議じゃないですよね?来月の満月の日に休ませてくれなかったらバイト辞めますから」
「う、うん。分かった。分かったよ。無理言ってゴメンね」
僕の圧に負けた店長は、あっさりと引いてくれた。
その日から普通の日常に戻ったのだが、実はここ数日、僕は悩んでいた。
それは和輝からの連絡だった。
僕としてはもう会う気はなかったのだが、メッセージアプリには朝昼晩と時間構わず連絡が入って来る。
『おはようユウくん。ご飯でも行かない?』
『明日は暇?』
『返事もくれないの?寂しいよ』などなど。
既読スルーするのにも疲れてメッセージを返した。
『満月の夜じゃないからセックスはしません』
だから誘わないでという意味だったのだけれど、どうやら逆効果だったようだ。
『セックスがしたいだけで誘ってるんじゃないよ。ユウくんにまた会いたいんだ』
会いたい理由はセックスしたいからに決まってる。
変体した兎姿は好きだったみたいだけど、満月の夜以外はごく普通の僕のような人間を口説くなんてどうかしている。
バイトが忙しいから無理だと断っても、めげずにメッセージは届く。
『顔を見るだけでもダメ?ご飯奢るよ。おいしい店知ってるんだ』
もしかしたら僕が塩対応をしているから余計執着されているんじゃないかとも思えてきた。
それに兎姿の時のフィルターがかかって和輝の中で美化されている可能性だってある。
だから僕は和輝に会ってみることにした。
人の多い場所でご飯だけ。奢られるのも借りを作るみたいで嫌だから、自分が頼んだものは自分で支払うと条件を出せば、和輝は僕の提案を承諾した。
最寄り駅から離れたターミナル駅にした。
そして待ち合わせ場所の駅に行くと、そこには既に和輝の姿があり、大きな体躯の和輝は目立っていてすぐ見つけられた。
僕を見つけると笑顔で手を振ってくる。
その笑顔が眩しいと感じる。
「ユウくん、久しぶり!」
「すいません。待ちました?」
「ううん、俺も来たところだから大丈夫だよ。今日は来てくれてありがとう」
そう言って和輝は僕の手を取った。やっぱりよく似てるよなと思ってしまう。
「ユウくん?」
見つめてしまっていた事に気付いて、僕は慌てて和輝から視線を逸らした。
なんだか心臓がドキドキして落ち着かない。
っていうか、街中で男同士で手繋いで見つめ合ってるとか何やってんだよ。
「お店、何処行こうか?」
「あんまり高すぎるお店はやめて下さい」
「それはもちろん。ハンバーグとかどう?」
そう言って和輝が連れて行ってくれたのは、チェーン店でもちょっとだけランクが上のハンバーグ店だった。
それでもハンバーグのセットで二千円以内で食べれるくらいの値段設定だ。
席に案内されると和輝は割引クーポン券を僕の前に広げた。
「奢られるのが嫌でも、クーポンなら使うでしょ?どれにする?遠慮なく使って」
ニコニコとしている和輝に呆気に取られていたら、和輝は続ける。
「もしかしてデートにクーポン持ってくるなんてケチ臭いとか貧乏臭いとか思うタイプだった?」
「いや、別に……そんな。ただ、和輝さんもクーポンなんて使うんだって意外な気がして」
「使うよ~。だってお得でしょ?」
お茶目に笑った和輝の好感度が上がる。
鞄や時計など値の張るブランド品を身につけていたから勝手にこんな人だろうと想像して警戒していたけど、案外庶民派なんだと感じる
和輝は僕のことをいろいろ聞きたがったけど、それは上手くはぐらかし、毒にも薬にもならない世間話で場を繋いで、料理が届いたら話題は食べ物の話にする。
この店は初めて来たけど、定番メニューの和牛ハンバーグは肉汁が溢れ出るほどジューシーで肉々しくて店オリジナルのソースがたっぷりかかった代物で、更にクーポンでデザート付きのセットを付けても安く済んだからお店選びには満足だった。
会話より食べることを優先して頬張っていると、和輝が目を細めて見ていた。
食後の飲み物が届いた頃、僕は尋ねてみた。
翌日と翌々日は元々バイトは休みを入れていたので、次のバイトの日。
僕は店長に文句を言っていた。
「無茶な残業のせいでえらい目に会いました!満月の日は何があってももう残業しませんから!」
「悪かったよ。でもさ、あの日はすっごく大変だっただろう」
「満月の夜だけはダメです。っていうか、混む日でもシフト入れませんから」
僕は断固拒否した。
その日だけは本当に無理だと思ったからだ。
「えぇ~、満月の日だからって休むなんてそんな……。ただでさえ人手が足りないんだから」
俺が兎族だからとかは話していないから、店長は深刻さを分かってくれない。けれど、兎族だと話すとややこしくなるのでアレルギーということにしている。
「月光アレルギーなんですから、お願いだから休ませて下さい」
「月光アレルギーって、そんなアレルギー聞いたことないんだけど。ホントなのかい?」
僕は強く頷いた。
「世の中には奇病はたくさんあるんです。日光アレルギーの月バージョンがあったって不思議じゃないですよね?来月の満月の日に休ませてくれなかったらバイト辞めますから」
「う、うん。分かった。分かったよ。無理言ってゴメンね」
僕の圧に負けた店長は、あっさりと引いてくれた。
その日から普通の日常に戻ったのだが、実はここ数日、僕は悩んでいた。
それは和輝からの連絡だった。
僕としてはもう会う気はなかったのだが、メッセージアプリには朝昼晩と時間構わず連絡が入って来る。
『おはようユウくん。ご飯でも行かない?』
『明日は暇?』
『返事もくれないの?寂しいよ』などなど。
既読スルーするのにも疲れてメッセージを返した。
『満月の夜じゃないからセックスはしません』
だから誘わないでという意味だったのだけれど、どうやら逆効果だったようだ。
『セックスがしたいだけで誘ってるんじゃないよ。ユウくんにまた会いたいんだ』
会いたい理由はセックスしたいからに決まってる。
変体した兎姿は好きだったみたいだけど、満月の夜以外はごく普通の僕のような人間を口説くなんてどうかしている。
バイトが忙しいから無理だと断っても、めげずにメッセージは届く。
『顔を見るだけでもダメ?ご飯奢るよ。おいしい店知ってるんだ』
もしかしたら僕が塩対応をしているから余計執着されているんじゃないかとも思えてきた。
それに兎姿の時のフィルターがかかって和輝の中で美化されている可能性だってある。
だから僕は和輝に会ってみることにした。
人の多い場所でご飯だけ。奢られるのも借りを作るみたいで嫌だから、自分が頼んだものは自分で支払うと条件を出せば、和輝は僕の提案を承諾した。
最寄り駅から離れたターミナル駅にした。
そして待ち合わせ場所の駅に行くと、そこには既に和輝の姿があり、大きな体躯の和輝は目立っていてすぐ見つけられた。
僕を見つけると笑顔で手を振ってくる。
その笑顔が眩しいと感じる。
「ユウくん、久しぶり!」
「すいません。待ちました?」
「ううん、俺も来たところだから大丈夫だよ。今日は来てくれてありがとう」
そう言って和輝は僕の手を取った。やっぱりよく似てるよなと思ってしまう。
「ユウくん?」
見つめてしまっていた事に気付いて、僕は慌てて和輝から視線を逸らした。
なんだか心臓がドキドキして落ち着かない。
っていうか、街中で男同士で手繋いで見つめ合ってるとか何やってんだよ。
「お店、何処行こうか?」
「あんまり高すぎるお店はやめて下さい」
「それはもちろん。ハンバーグとかどう?」
そう言って和輝が連れて行ってくれたのは、チェーン店でもちょっとだけランクが上のハンバーグ店だった。
それでもハンバーグのセットで二千円以内で食べれるくらいの値段設定だ。
席に案内されると和輝は割引クーポン券を僕の前に広げた。
「奢られるのが嫌でも、クーポンなら使うでしょ?どれにする?遠慮なく使って」
ニコニコとしている和輝に呆気に取られていたら、和輝は続ける。
「もしかしてデートにクーポン持ってくるなんてケチ臭いとか貧乏臭いとか思うタイプだった?」
「いや、別に……そんな。ただ、和輝さんもクーポンなんて使うんだって意外な気がして」
「使うよ~。だってお得でしょ?」
お茶目に笑った和輝の好感度が上がる。
鞄や時計など値の張るブランド品を身につけていたから勝手にこんな人だろうと想像して警戒していたけど、案外庶民派なんだと感じる
和輝は僕のことをいろいろ聞きたがったけど、それは上手くはぐらかし、毒にも薬にもならない世間話で場を繋いで、料理が届いたら話題は食べ物の話にする。
この店は初めて来たけど、定番メニューの和牛ハンバーグは肉汁が溢れ出るほどジューシーで肉々しくて店オリジナルのソースがたっぷりかかった代物で、更にクーポンでデザート付きのセットを付けても安く済んだからお店選びには満足だった。
会話より食べることを優先して頬張っていると、和輝が目を細めて見ていた。
食後の飲み物が届いた頃、僕は尋ねてみた。
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