「Ｒ-18」異世界で花の乙女になった少女 ～侯爵夫人への階段を昇る～

キャスル侯爵領

瞳を閉じて2

　サイラスが帰ってきた日の夕食は、いつもよりも賑やかな夕食になりました。

お義父様、お義父様の弟のおじ様、お義母様と、フリーゲル。

そして、サイラスと私です。

夕食の会話は談笑を交えながらも、政治、経済などが中心になりますので、わたしが口をはさめる余地は有りません。

ですが、久し振りにサイラスと会えた事で心は充たされているのです。

サイラスは、先頃まで戦争をしていたペルリン王国に用があるらしく、侯爵家の領地に滞在するのは３日程しかないらしいのです。

がっかりする心を認識する。




　食事を終えた私は、メイド達に連れら一足先に食堂を退出します。

今日の食事は、いつもよりもお酒がメインになっているのです。

ここからは、大人の時間になるのでしょうね。





　「お休みなさいませ」入浴など、寝支度を手伝ってくれたメイド達が退出します。


　自室に１人になった私は、お酒を飲みながら微笑んでいたお義母様の仕草を真似しています。

何処かのマダムになった気分です。

豪華な椅子に優雅に座って、グラスを傾けます。

ちょっぴり微笑みながら、お酒を飲んでいますよ。

扇子を仰ぎながら、コロコロと笑います。

少し違うかもなんて、思ってません。

実際は子供用のソファーと、水の入ったコップですが気にしません。




　妄想が加速する私は、グラスをテーブルに置き立ち上がる。

部屋の空きスペースでカーテシーをして、ダンスのポージィングをします。

そして、想像するのです。練習用のダンスの曲が頭の中で流れてくる。




　そう、此処は王城で開催されている舞踏会のホール。

私のファーストダンスのパートナーは、クリフォード。

彼のステップは、とても模範的で生真面目だと想像します。

一見、完璧に見えるけど、本当は不器用な人。

だからこそ、私は安心して踊れるのです。


　あぁ、彼に会いたい。遠く離れた王都にいる、彼は今、何をしているのだろう。

王都にいる彼を想像しながら、私はクルクルと回ります。




　次のパートナーはサイラス。彼は軍人特有の鍛えた身体と、日に焼けた肌の持ち主だ。

髪は濃い焦げ茶色で、銀色の瞳は肉食動物のように鋭い。

彼の軍服での正装姿を想像しながら、ステップを踏む。

舞踏会のホールの中央で、大胆にして華麗に踊っている男女を想像する。

私は、部屋の中をところ狭しとクルクルとステップを踏む。

もうダンスでは無いけど、彼なら片手でリフトしてくれそうだ。
そんな想像の中で、ジャンプをしてみる。

ジャンプ♪ジャンプ♪

更にジャンプ・・・・？

私の身体は重力から解放される？



「クックッ・・・クックッ」
あれ、笑い声がきこえる！

えっ！えっ！

「奥様、私も同席してよろしいでしょうか」
もしかして、見られていたのか！

「ダメ！ダメだから。お願い、１人にして」
私の、ごっこ遊びを何処から見ていたの？

サイラスにお子様抱っこされている私は羞恥の為、彼の肩に額をこする。

「何処から見ていたの？」

「１人で寂しく酒を飲んでる場面からかな」
なんと！最初からではないか。恥ずかしくて死んでしまう。


　サイラスは、リリィを抱き上げたままダンスのステップを踏む。

「ジャンプした方が良いのか」
「やっ、止めて」




　それは楽しい時間を、サイラスとリリィは過ごす事になる。




　ベッドの上で、サイラスはリリィを膝の上に乗せて抱きしめる。

「夜の勉強をしたんだろう」

リリィは、サイラスに口付ける。

「駄目だ、足らねえよ」

サイラスは、リリィの唇を貪る。

「ごめんなさい、私、早く大人になるから」
こんな子供の身体で、本当にごめんね。

「ゆっくりで良いんだ。その代わり、成人したら決して離さない」
サイラスは、リリィの涙を舐めとる。

「誤解するな。俺は、まだ幼いリリィも愛している」

「ありがとう。あのね、ずっと会えなくて寂しかった」
リリィは、小さな舌でサイラスの唇を舐めとる。

「私、多分、恋しているんだと思う」
リリィは、サイラスを見詰める。


　この世界は決して美しく無い。剣と魔法で人々は戦う。

戦争に敗戦した者は、愛しい者を奪われてしまうのだ。

だから、声に出して伝えなくてはならない。

後悔しないように、愛しい気持ちを語らなくては。

生と死は背中合わせだから。

「皆に会えて良かった。召喚されて良かったよ。私を受け入れてくれてありがとう」
リリィは、サイラスの胸に顔をうずめる。

サイラスの、心臓の音が聞こえる。






　《クルクル・・クルクル》

少女が、ほんの少し大人の階段を昇る頃。

夜の森の上空を、白銀の魔梟が羽ばたく。

魔梟は幼い主の望みを叶える為に、夜の闇に消えていった。



　王都で、白銀の魔豚の目撃事件があったのは、ちょっとした笑い話。