「Ｒ-18」異世界で花の乙女になった少女 ～侯爵夫人への階段を昇る～

キャスル侯爵領

瞳を閉じて1

　キャスル侯爵領の城塞都市を、上空から見詰める。

ウリエルと私は同調している。

黄土色の煉瓦がはるか高くに都市を囲み、三重の防壁が回らされている。

それぞれの防壁は、商業区、住居区の間の区別にも使われている。

三重の防壁は過去の戦争で、二つ目まで突破された事が有ると教わった。

都市の道なりが、くねくねと曲がっているのは侵入した敵が最後の要である城にたどり着く時間を稼ぐ為なのかもしれない。


　この地で、キャスル侯爵家の祖先達は血を流し戦ったのだ。


　少し視線を変える為に、高度を少し上げて、街道をみてみようと思う。

街道に沿って移動するように、お願いする。

午後の明るい時間は、移動する人々が結構いる。


　あれは・・豪華な馬車がキャスル領に向かって走っている。

もう少し近付いて貰おう。


もしかして、サイラスなのかな！

うわっ！視界がぶれた。

何だか、目が合った気がしたよ。


気付いていないよね。


『ウリエルそれ以上、近づかないようにね』
なんか、鋭い視線に捕らわれたように感じる。

サイラスが、領地に帰って来るのは知らされていたんだよ。

ウリエルに、帰って来るように念じる。

あっ！ウリエル何処に行くの？

ウリエルが勝手に何処かに向かって飛んでいく。


勝手知ったるように、林の中を抜けてたどり着いた先には小さく可愛らしい館だった。

？？？

ウリエルは、当たり前のように台所の窓をコンコンと嘴でたたく。

えっ！何しているの？

「あらっ！ウリエルじゃない」

「おまえ、又、来たのか」

勝手口から出てきた男女は、私のよく知る人達だ。
又来たのかって言われている。

初めてでは無いみたいだね。

レイチェルさんからクッキーを貰っている。

マーロン先生は、呆れた目で見ている。

知らなかったよ！ウリエルがこんな事をしているなんて。

私が動揺している間に、ウリエルが台所に入り込んで行く。

ウリエルの視線の先には、美味しそうな瓜のスープが火に掛かっている。

うっ！美味しそうではないか。レイチェルさんの手作りだね。

『ウリエル！戻ってきなさい』

同調しているウリエルに強く念じる。




　一転、視界が上空に変わる。同調している私からの強い念と、実際はほぼマーロン先生から外に放り投げられたことでウリエルは諦めたらしく帰路に着いたのだ。

私・・何だか心配だよ。

そんな事を考えていると、ウリエルの視界に城が見えてくる。

城塞都市の中央に有る城は、堅牢で風雅な佇まいだ。

ウリエルは、城の上空を旋回すると侯爵家の居住区に向かって降りてくる。

城の居住区の庭で座っている私が視界に映る。


　「リリィ、どうしたの」ルーチェの声が聞こえる。

《クルックルッル》

ウリエルは、私の腕の中に収まっている。

「あのね、ちょっとボーットしちゃったみたい。ルーチェはいつ来たの？」

「今来たの」

私は、中庭に置いてある椅子から立ち上がり、少女と少年に振り返る。

「サイラス様から、到着の先触れ合ったよ」
アーサーがリリィに知らせる。

「なら、もう行かなくてはね」
アーサーも、いたんだね。

出迎えに向かいながら、リリィはルーチェに話し掛ける。

「ねぇ、瓜のスープ好き？」

「まあ好きだよ。リリィいきなりどうしたの」

「ううん、別に。ルーチェ良かったね」
リリィは、ルーチェに反応を楽しみながらエントランスに向かい走りだす。



　「サイラス様、お帰りなさい！」リリィは、馬車から降りたサイラスに走りながら抱きつく。



　あぁ、私は彼等から離れるなんてできない。
私は知ってしまったから。

抱きしめられた時の温もりを。

知ってしまう。

それは、とても残酷なんです。