令嬢の願い~少女は牢獄で祈る~

Mona

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少女は再び目覚める

7エラside

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 キャラバン公爵家の長女、ディスティニー付きのエラは主の乗った馬車を見送り肩をおとす。

『エラも疲れているでしょ。今日は先生と行くからゆっくりしていてね』

主である、少女はそんな事を行って出掛けてしまったのだ。

しかも、詐欺師のようなあの男と。


「お嬢様。大丈夫かしら」

「エラさん、寂しそうですね。さあ、中に入りましょう」

勤め出して間もないメイド達が、エラに喋り掛ける。


エラは、彼女達を見ながら思う。
なんだか最近、変わった事が多いわ。

そんな風に思う中には、彼女達の存在もある。

ディスティニーへの公爵家での扱いは、腫れ物に触るようなものだ。

粗略な扱いは、決してされてはいない。

だが、違うのだ。

使用人達は、ディスティニーの後ろに先代の公爵を見ている。

先代公爵が壮健のうちは、良いのだ。

もし、先代公爵の身に何かしらあった時、ディスティニーを守護する者はいなくなる。

ディスティニー自身を知り、それでも側にいて支えてくれる人物が現れる事を望んでしまう。





 エラは地方の地主の娘で、難しい政治の事は解らない事が多く不安に思う事は多い。

だが、彼女の小さな主が難しい立場ぐらいは察する事ができる。




「エラさん、今日は、お嬢様のクローゼットの整理をしましょう」

「今日の、お嬢様も可愛らしかったわね」

「最新のドレスの発注をかけないと」


メイド達の声が、嬉々としてエラに聞こえる。
ディスティニーの周囲には、皆無であった華やぎだ。

 


 エラは、昨日のディスティニーの様子を思い出す。

目覚めたてのディスティニーの表情が、いつもと違うように思えた。

以前は、幼いながらに達観した面差しだった筈だった表情の主だった。

しかし、その日の主の表情は何かを振り切り、選択をしたように思えた。

それは、開戦を決意した、高貴な統治者に思えたのだ。

そして、主が望んだのが、春色のドレスだった。

自分の立場を、察していた少女は美しい白金の髪を、三つ編みにし、落ち着いた色のドレスを望み、息を殺すように生きていた。

ディスティニーが何かを決意したのが、解った。

きつく編み込んだ、三つ編みをほどく決心をしたのだろう。

水色のドレスを着、髪型を変えたディスティニーは、鏡に映る自分を見て恥ずかしそうにしている姿を見て、エラの中にある何かが暖かくなった。


若いメイド達の声が、春の風に乗って聞こえる。

出掛けて行った、ディスティニーの姿を浮かべる。

白いワンピースに紺色のリボンが配置された、清楚な装い。


 寒さに耐えていた硬い蕾が、ほんのりと色付いたような少女の姿に、明るい予感をエラは感じていた。


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