前世で病弱だった僕は自作漫画のモブキャラに転生しました

をがたつき

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第4話

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更衣室で体操服に着替える。

更衣室へ入ると、聡介はすぐに仲のいい男子生徒達に囲まれて、僕とは少し離れた所で着替えていた。

聡介が、ワイシャツのボタンを外す。
その仕草すら美しく思える。

自分で描いたメインキャラだから、かなり自分好みになっていると思う。
自分がこうなりたい、と思う男。

薄く焦げた肌。筋肉のあるしっかりとした体つき。何よりその健康な身体は、僕がどんなに願っても手に入れられなかったもの。

聡介は僕の理想だった。
こうなりたい、こうあれたら。

シャツが肩からはらりと落ちて、その時にたまたま視線が合う。

心臓が変にドキッとする。
すごいな、メインキャラの破壊力。動いてると尚迫力が増す。

目が合ったのはたぶん数秒だけ。

僕もすぐに体操着に着替えた。


******


体育の授業は、バスケットボールだ。
先に僕はベンチで見学をする。

キャーと女子たちの浮き足立った声がして、それが向けられている方向を見る。

聡介だ。

ジャンプして、ボールをゴールに投げる。

綺麗なフォーム。

ふわりと風で浮いた体操着のシャツから、チラリと綺麗に割れた腹筋が見えた。

ゴールへと吸い込まれるようにボールが入る。

その度に、女子たちが悲鳴のような歓声をあげた。

わかる。すごく綺麗だろう、僕の描いた聡介は。

ピーっと笛がなって何人かが交代する。

「柊、お前も交代だ」

先生に言われてコートにはいる。バスケなんて中学までは授業でやったりしなかったし、初めてだ。

なによりこの体では無いものの、僕は1年近くベッドの上で運動することなんて出来なかった。

階段を使うことすらドクターストップで許されていなくて、転げないように移動の時はいつも車椅子を押されていた。

こんな僕が、上手く動けるはずがない。

でも。

聡介はまだコートに残っている。目が合って手を振られる。それに答えるように軽く頷いた。

周りのみんなは聡介が俺なんかのモブに手を振った事を不思議そうに首を傾げたりしている。

それもそうだな。

そうだ。僕はいまただのモブ。

走ったっていい。転けたって大丈夫。

だから。

ピーッと笛がなって試合が始まる。

おぼつかない動きだけど走り出す。
僕、今走ってるんだ。

風が頬や髪を撫ぜる感覚が気持ちいい。

パスが回ってきて、なんとかドリブルしながら聡介を見つけて、思いっきり投げる。

聡介はしっかりとボールを受け取ってくれて、ゴール目掛けてシュートを打つ。

縁をコロコロと転がって、ゴールに入った。

ワッと歓声が上がる。

額を伝う汗が、こんなに心地のいいものだと思ったのはすごく久しぶりだった。

またパスが回って来た時、反応が遅れてしまって思いっきり顔にぶつかる。

目の奥が、ジンジンする。

「柊っ、大丈夫か?!」

駆け寄ってくる聡介。
僕、今すごく幸せかも知れない。

耐える事が出来なくて、涙がポロポロと溢れて流れていく。

「ひっ、く、うう、だい、じょぶ」

「え!ごめん柊!ボールそんな痛かった?」

パスを回してくれた男子生徒も心配そうに駆け寄ってくる。

ふるふると頭を降って、メガネを取って涙を拭う。

「嬉しくて。僕、初めてなんだ。バスケするの。だから、皆とこうしてバスケできて、ほんとに、幸せだ」

肩にぽん、と暖かい手が置かれる。

「そうか。俺も柊とバスケ出来て嬉しいよ」

見上げると聡介が、ふ、と笑った。
あ、と思った。

桜の花が咲くような、繊細でいて優しい綺麗な笑顔。

「うん、ありがとう」

吊られて僕も笑う。
すると、聡介は一瞬驚いたような顔をする。

「俺も俺も!柊とバスケ出来てちょー楽しいよ!」

他の生徒たちも寄ってきて次々とそんな事を言ってくれる。

「ふふ、ありがとう、みんな」

「あれ?柊ってメガネ外すと結構かわい、ぶっ」

聡介が何か言いかけた生徒の口を塞ぐ。

「柊、もう涙止まったな。良かった」

そういった聡介にメガネを取られて、耳に掛けられる。

外野にいた女子生徒たちが「楠木くん優しいー!」と叫んでいた。
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