ようこそ幼い嫁候補たち ②

アリス IN 異世界地球

「今夜帰るねぇ…」

【沖田道場】
「帰るって…なんでだよっ！？」

アリスの帰郷の決意を聞かされて騒然とする一同。特にアリスと付き合っていた形の佐々木は、半分取り乱していた

「落ち着け佐々木！とりあえず考えを聞かせて貰おうじゃないか。アリスちゃん…恐らく一条さんのお父様も、キミの事は家族の様に大切に接してくれたハズだ。無論、私もだが…何か気に入らない事があったか？」

師範代の問いに考え込み、沈黙してしまうアリス
昨今の地球…日本での会話を考えると、今から発言する内容を聞かせる相手のことを考え、どんな返事が来るか？予想して前準備してから話をする物だろうが…
純粋無垢なアリスは、そこまで先読みや前準備などはせず、昨夜ひとりで一生懸命に考えて辿り着いた結論を、そのままに話していた


「やっぱり昨日、お巡りさんに【化け物】って言われたのが原因なの？」

話が進まなくなったので、優香なりにフォローとして意見をしてみた

「うん…でもね！傷ついた！寂しい！帰りたい！…ってそこまで簡単に考えてる訳じゃなくて…その…家が恋しくなっちゃったの…だから…」
 

「アリスちゃん。そんなに焦らなくて良いんじゃない。ゆっくり考えて、ゆっくり話そうよ」

元々、深い思考の末に文章をまとめ上げて話をする事が出来る器用さの無いアリスは、スグに言葉に詰まって無言になり、焦っている様子が周りに伝わる。そんなアリスを宗一郎なりにフォローした様だ

(宗一郎ってば、こんな風に相手を察してフォローしたり出来るんだ！……もしかしたら、私も気が付かなかっただけで、宗一郎には何度もフォローされてたのかな？)

優しい笑顔の宗一郎に「ドキッ」とする優香

「あのさ、アリスちゃんって説明下手じゃない？だからさ、比較してみるのはどう？」

「なるほどな。どちらの世界が彼女にとって、より大きな存在なのか？そうすれば分かり易いな」

などと言ってはいるが…師範代はアリスがドチラを選んでも尊重する気ではある！
ただ、帰ると決めたアリスにとって、どれだけ向こうの家族が大きいのか？を説明した方が佐々木も納得出来るだろうと考え、付き合ってくれているのだ

………………………………………………(１時間に及ぶ質問 AND 回答)

「そうか…そりゃ、一緒に居た時間も違うし家庭環境は向こうの方がアリスにとって大事だよな、うん…けどさ！彼氏としてはどうなんだ？
その、ヒイロという兄さんと俺と。ソコだけで比較したらどうなんだ？」

やっぱり佐々木は諦めたくない最後の砦として、彼氏彼女の話を持ってきた

(さぁアリスちゃん、大詰めよ)
(しっかり佐々木を諦めさせてやってくれ)

初めから、アリスの気持ちを尊重する気だった優香も師範代も、心の中でアリスを応援していた

①優しさ
これに関してはアリスの口からは、優劣の付けられるモノではなく、ほぼ互角だと聞かされた

②強さ
獣人族とは言え、アリスはまだ１４歳の女の子だ。自分を守ってくれる男に惹かれるのは当たり前のこと
佐々木は、この沖田道場の筆頭門下生！……ではあるが…アリスから見てヒイロの強さは師範代と同じくらいだ。緋の眼のチカラが発動すれば更に強くなる！佐々木では足元にも及ばない

③経済力
佐々木は大学２年生だが…就職に強い大学なので、不景気な日本であってもかなり優位と言える。のだが…
１０歳から【ヘパイトス工房】で修行し、１５歳で義父と共に工房を持ち、街の冒険者の依頼で日々を忙しく働いているヒイロは…日本で換算しても年収で億に届きそうな勢いである


「チーン！佐々木さん、そのヒイロさんと言う人には到底勝てそうに無いですね」

「そうよね」
「せやなぁ」
「ちっくしょう！」

最後の賭けとして、自分とヒイロの男の価値で勝負した佐々木だったが…宗一郎が聞いても、優香が比べても、師範代の総評からしても…佐々木の負けは確定だったw
何よりも佐々木本人が(負けたっ！)と感じたのだから、どうしようもない

(だけどアタシ悪い子だ。肝心な事を…言えない。佐々木お兄ちゃんはアタシだけを見てくれてる…ハズ。岸田って人が気になるけど…)
 

本当は全てを話した方が良いのかも知れない。だが、全てを話せば何処かに自分(ささき)の喰い込めそうな場所から、変に期待させてしまうかもしれなかった。ソレを思うと全てを話せないアリス。それに…

(それよりも…ヒイロお兄ちゃんはアタシを本命には選ばないだろうなぁ…カルーアと上手く行ってるみたいだったしぃ…でも、あの輪の中に帰りたいよぉ)

「もう良いだろう？人生の分岐点の選択は本当に難しいもんだ。どちらが正解だったのかも、何年も過ぎ去ってから振り返ってみて初めて分かるものだからな。大事なのは後から後悔しない本人の気持ちなんだよ」

師範代に言われると…人生の経験の深みなのか？全員スムーズに納得出来た

「それじゃぁ…今夜、帰るねぇ」

「帰るにしても、もう少しゆっくりしても良いんじゃないか？」

納得はしたが、気持ちの整理がつかない佐々木は最後の足掻きをしたが…

「今夜、泊まらせてもらったら気持ちが揺らいでぇ…また流されちゃいそうだからぁ(笑)あはは」

「じゃあ今夜、前に帰還を試した港で送ろう。急な話だが、徳川さん達も最後に話したい事もあるだろうしな」

「うん！ちゃんと挨拶するねぇ」

そうして思い思いの時間を過ごし、約束の夜を迎えるのだが…

エリスアの王都クラウンでは、武闘会の準決勝が始まろうとしていた。互いの星で起きている騒動の決着は、どの様な形で収まるのか？



続く