ようこそ幼い嫁候補たち④

龍之介21時

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夢忘れ編

責任を負う者

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【アレクス城 来賓室】
オボロ姫が中立の町で殺された2時間ほど前

「メイビー様。有栖 徳川 ただいま戻りました」

ブルージュ村に向かい、元魔王ザッドに体質改善を施して治療を終えた有栖が、飛行魔法をかっ飛ばしてアレクス城に帰って来た

「おお!戻ったか有栖よ、貴様が留守にしている間に大変な事があったのだぞ」

「そうなのですか?そんな時に不在にしてしまい申し訳ありませんでした」

どうやら有栖が留守中に何やら起きたようだ

「実はさ、地下世界から魔獣族のヤツらが300ほどで襲ってきてさ…俺もミクイも、生命を投げ出して闘う覚悟をしたんだけどさ…」

「まさか?…私やフュールが居なくなったのを見計らって攻めて来たの?…にしては2人ともほとんど怪我してないわね」

地下世界は太陽光が届かない過酷な大地なので、ソコに住む者たちは基本的に地上で暮らしている者よりも強いことは、かつて世界中から認識されなかった時期に「地下世界のヤツらなら対象外のハズだから、腕試しも兼ねて偵察してこようかしら?」という軽い気持ちで出かけた時に、彼女自身が実感している

「おほん…」
「んふふふふ♪」

その時、部屋の隅で佇んでいたフォレスティア領から来ているフォレスティア・デメテールとモルガーナ・サハリンが得意げな顔をして有栖の方をチラ見した

「その2人の活躍が凄かったのだ!特にデメテールは単身で敵のど真ん中に突っ込んで行って、雑魚の大群を軽くあしらうように倒しまくっていたのだぞ!」

メイビー様は、よほど凄いデメテールの活躍を見たのだろう。まるで大好きなアニメを見て興奮している子供が、その内容をウキウキ気分で話しているかのようだった



「たしか…デメテールは肉体強化系の魔法しか使えないんだけど、多少の距離が離れていても他の者からの魔力供給を受けられて、凄いパワーアップして闘える能力(スキル)を持ってたわよね?」

「そうなの。ミクイとユウキで、デメテール様に魔力供給をしているモルガーナ様が狙われないように護衛したわ。2人が撃ち漏らした敵を城に近付けないように、アレクス様が部下を率いて撃退してたの」

優輝の横に立っているアサシンのミクイも、有栖が理解しやすいように補足説明してくれた

「そうなのだ!食糧供給国の2人と聞いてたからな。どれだけ闘えるのか?少し不安ではあったがな…トンデモナイ強さだったのだ!」

……………………………………………

「さっきまでの威勢は何処に行ったの?私1人相手にビビってるんじゃないわよ♪」

総魔力量だけなら、魔族最強の魔女と言われ恐れられている徳川 有栖をも上回るモルガーナの魔力を供給され続けたデメテールは、獅子奮迅の活躍を魅せ地下世界から攻め込んで来た魔獣族の大群を、フォレスティア領の2人だけでその大半を撃退したようだ

「デメテールは本当に凄かったのだ!明日のワラワの誕生祭が終わった後にでも、キッチリ褒美をくれてやるからな♪」

「メイビー様からのお褒めの言葉、身に余る光栄です。有難うございます!」

まだ生まれて2年しか経っていない10歳児とは言え、時期魔王筆頭候補であるメイビーから手厚く褒められたデメテールとモルガーナは上機嫌だった

「有栖よ、食事を済ませたら汗を流し就寝するが良い…そうだな、3人用の特等室を貸し与えるぞ!」

「有難うございますメイビー様!」

戦闘時間は1時間にも満たなかったので、戦闘に参加した者たちは既に、食事やシャワーなどを済ませていた



【来賓室】
食事とシャワーを済ませた有栖は、優輝とミクイの3人で来賓室に入った。2人は食堂で有栖の質問に答えながら、彼女の食事に付き合ってくれたのだ

「ミクイは…アサシンマスターのクセに、あれだけの大群の接近に気付くのが遅過ぎた。誰にも責められなかったけど、ミクイのプライドが許さないの…今夜は朝まで城の周囲を警戒してるから2人はその…気兼ねなく楽しんでると良いよ…じゃね」

そう言うとミクイはそそくさと1人で部屋を出て行った。つまり彼女は「有栖と優輝の2人で朝まで楽しんでね」と言ったのだ


「ん…あ、はぁぁ❤︎今夜の優輝のキカン棒ったらガチガチじゃない。はぁはぁ、そんなに戦闘で興奮しちゃったの?」

「うん。まだ殺し合いの戦場に立つと、気が高ぶるのが抑えられないんだ…んぅ!?そう言う有栖こそ今夜は一段と激しいんじゃないか?…ブルージュで何かあったのか?」

「あの方の奥様が亡くなられたわ…立派な最期だった。あの方も強く振る舞われていたわ」

ブルージュ村で妻の死を受け入れた元魔王は、初めて人前で涙を流していた。その光景が脳に焼き付いている有栖

「だからね、私は生きている内に精一杯頑張って、精一杯楽しむことに決めたのよ」

「そ、そうなんだ。で、でも…ちょっと腰使い激し過ぎないか?このままじゃ俺、そろそろ…」

魔族最強の魔女である有栖と言えど、その旦那である優輝と年がら年中一緒に居られる訳はない。ある日イキナリ、彼との別れが来るかも分からない。だから、彼との夜も全力で楽しんでいる有栖だったが…


「こっらー!!こんな非常時にナニを楽しんでるのよ~!!」

「うひゃおぅ!?」

突然、有栖の脳裏に長距離通信が接続された途端に、フュールの大きな声が響き渡った!

「あっ!?もう、無理っ!」

「あ!?優輝……」


「楽しんでる最中にお邪魔して悪かったわ。でも、今マナティートはトンデモナイ事になってんのよ?」

「イキナリ何よ?…これ、ミアナの長距離通信でしょ?彼女はどうしてるの?長距離通信を使う際は、相手からの返事があるまで小さな声で話し掛けるように言ってたんだけど?」

「彼女は今、牢屋にぶち込んでいるわ。トンデモナイ失態をしてくれたからね!」

「どういう事よ?貴女たちは明日、マナティートを勝利に導く為に先陣を切って闘うんじゃなかったの?」

ミアナの長距離通信を使って話してくるフュールは非常に興奮しているのが、滅多に大声をあげない彼女の声から理解した有栖は、彼女を落ち着かせてじっくり話を聞くことにした

……………………………………………

「なるほどね…ミアナは貴女から護衛を命じられていたにも関わらず、その飲み屋に居る時にオボロ姫から離れてしまったのね」

「そうよ!貴女の唯一の弟子だから安心して姫さまの護衛を任せたのによ!?その後、オボロ姫は人間の手に掛かって生命を落とされたわ」

フュールはマナティートで起きた事件と、ミアナや自分がどのような行動をしていたのか?有栖に丁寧に説明したのだが…


「…で?なんでミアナは牢屋に入れられているのかしら?」

「…はあ!?ちょっと有栖、この子がオボロ姫から離れていたと説明したでしょ?」

だからミアナに、オボロ姫が殺害された件で大きな責任が有ると伝えたつもりだったのだが、有栖は自分の弟子ミアナに「なんの落ち度が有るって言うのよ?」と言うような返事をしてきたことに驚くフュール

「あのねぇフュール落ち着きなさいよ」

「コレが落ち着いていられる訳ないでしょ!!」

「やれやれ…先に言っておくけどね、決して身内贔屓(ミウチビイキ)する訳じゃないのよ。ミアナはオボロ姫の命令で、その異空間に赴いて誰も脅威を認知していなかった魔装機兵の少女に心臓を貫かれて死にそうになった。そして、私が教えた自動蘇生魔法で復活してスグに任務に戻ろうとした…何処に職務怠慢した箇所があると言うのよ?」

「私が言いたいのはそういう事じゃなくて、今すぐにでも魔女を襲名出来るほどの実力を持つこの子が、オボロ姫様を死なせてしまった事実が…」

冷静に受け答えしている有栖に対し、「有栖は何を言ってんのよ!」と言わんばかりのフュール

「良い?ミアナは呑み食い屋の異空間で自動蘇生していた。その後、宿屋に向かった護衛の2人を連れたオボロ姫が人間に殺された…だったらミアナに責任は無いでしょうよ?」

「確かに、オボロ姫の昔からの護衛の2人が付いていながら殺された訳だけど、その2人よりもこのミアナは圧倒的なチカラを持っているのよ?だからね…」

「あのね…マナティートで今最強の魔法使いは貴女なのよフュール。それに、援軍に向かった3人の中で1番の責任者は、メイビー様から勅命を受けた貴女でしょ?」

「ん!ぐあっ…そ、その通りだ…2人の護衛に加えてミアナを付ければ、オボロ姫は無事に帰ってこられると判断したのは私だ…」

有栖に責任の所在が自分自身にある事を突き付けられ、ようやく立場を理解したフュールは一瞬で顔色を悪くし、返す言葉が重くなった


「少し前に、かなり疲れたメイビー様はローナと一緒に戻り就寝されているわ。この件は明日の朝に報告するけど、明日の決戦で活躍して、汚名返上の報告が出来るように頑張んなさいよ?」

「わ、分かった…私の早とちりで旦那との大切な時間を邪魔して悪かったな。明日は本気で人族のヤツらに、私のチカラを思い知らせてやるわね。それじゃね…」

ようやく冷静さを取り戻したフュールは、手短に別れの言葉をつげようとした

「うん。焦って生命を落としたりしないでよね?ミアナは唯一無二の弟子だけど、アンタは唯一無二の親友なんだからね」

「ありがとう…ん?そうだ有栖」

「ん?他に何かあるの?」

「有栖に教えてもらった超極大呪文【七精守護霊(ハーロウィーン)】だが、アレを使えるのは私と有栖以外に居るのか?」

「あの魔法?…そう言えばフュールは知らなかったっけ?ヘルメスの街に住んでいる進化型超人類のカルーアって言う、ハイエルフの子が使えるわよ。元々あの魔法は、彼女らに伝わる秘伝の魔法なの。言っちゃえば私が、その極秘魔法をコッソリ解読して会得したのよ…何で今それを?」

「偵察に出ていた時に撃たれたのよ、その魔法を。人族側の切り札みたいな聖剣使いの獣人族と闘っていたから、紙一重で何とか回避できたんだけどね…」

フュールの口から「カルーアが戦争中のマナティートに居る」という事実を知らされた有栖は表情が険しくなった

(前に彼らの住処(スミカ)を訪ねた時に、ヨシュア君も居たわよね。そして、その場にエリスア様も居た。その事からも彼女らが自分から戦争に加担するとは思えないんだけど、彼女は何故マナティートに居るの?)

ヨシュアからも三姉妹たちが、自ら戦争に首を突っ込む事なく平和に暮らしたいと願っていると聞かされていた有栖は、今回のマナティートの件には何か大きな因果があるのではないかと考えていた

「…す。有栖!ちょっと聞いているの?」

「え!?あぁ、ごめんね。ちょっと考え事してたわ」

「明日は確実に魔族側に勝利をもたらす為にも、蘇生したばかりのミアナのチカラもアテにさせてもらうわよ。いいわね?」

「ミアナなら自分の為せる事をやってくれるハズよ。まぁ、少し不幸体質なところがあるけどね」

「お師匠様の名前を汚さないように頑張ります」

それまで黙って長距離通信魔法を維持させていたミアナだったが、最後に自分の話題が再び出たので今の気持ちを有栖に伝えて通信を切った


「有栖、浮かない顔してるね。そんなにマナティートの魔族は劣勢なのか?」

「…大丈夫よ優輝。フュールとディー・アモンに加えてミアナが増援に行ってるのよ?あの3人が揃っているんだから、どんな不利な状況でも軽くひっくり返して勝利してくれるハズよ」

有栖がかなり真剣に考えている事を察知した優輝が、やんわり彼女に問い掛けた

彼女の言うように、人族VS魔族の戦争は魔族の勝利に終わると考えて間違いないだろう

しかし、マナティートの結末は全ての者の予想外に向かって進みつつあった



続く
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