ようこそ幼い嫁候補たち④

龍之介21時

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夢忘れ編

永久(とこしえ)の別れ

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【ヒルドゥルブ砦 会議室】
「まさか、敵味方ともに20年近くマトモな増援が来なかったと言うのに…よりにもよって【渇望の魔女】が現れましたか…」

会議室内はどよめいていた

「クリス。その魔女は、そんなにも強いのですか?」

地球から魂だけで転移してきたロミーは、隔離されているこの大陸にさえ知れ渡っている程の魔女を知らない


「魔王専属であるフュールは、火炎と浮遊に関して世界中でもトップクラスの魔女なのです。かつての前魔王討伐戦争でも、その魔女の活躍で人族側に多大な被害が出ていますから」

「しっかし、アレが渇望の魔女でしたか。トンデモナイ強さでしたね~…ブリちゃんが全力で攻撃したのですが、かすり傷を数回当てただけでした。1対1なら負けてましたね…」

地球で生きていたロミーが知らないのは仕方のないことだが、初めて彼女と対峙したブリニァンの感想は、会議室内に居る全員を黙らせてしまった

「……………………………………………」

全員が静まり返ったのも当然で、マナティート人族側の最高の頭脳がホルン。最強の戦士がブリニァンだからだ…つまり彼女が勝てないと言ってしまうと、人族側にはその魔女に勝てる人材が居ないことを意味しているからだ


「バチンッ!ふん、ツイとらんのぉ。エリスア様からエネルギーを頂き調子バリバリ絶好調じゃというのに、またしても奴と対峙すること叶わなんだとはな…」

魔族側の上位職である魔女の中でも1番偉くて強い魔女の突然の登場に、お通夜モードで静まっていた空気の中、アテナが彼女と戦えなかったことを悔しがり手を叩いた

「そうですよ~。いかに渇望の魔女といえど、剣王ブリニァンさんと武闘女神アテナ様で挟み撃ちしたら、勝てるんじゃないですかね~?」

「そうか!そうだよな」
「今、アテナ様が居られるのだ」
「諦めるのは早いぞ。みんな!」

ホロミナティの頭脳を自称するコヨリィが重くなった空気を変えようと、むしろ現状はコチラ側が有利なのでは?と提案すると、それを理解した兵達に笑顔が戻った


「問題は…何故、彼女が急にこのマナティートに現れたか。じゃないかな?相手側の狙いが分かっていれば、戦うのも楽になるよね?」

それまで沈黙していたカルーアが話に入ってきた

「そう言えば、カルーア様は渇望の魔女に会ったことがあるんですよね?」

「そうだね。マルバァス討伐戦に、わたしは臥龍族の補佐として参加したんだけど…わたし達ではマルバァスに及ばずに全滅しかけていた時に、彼女は消去の魔女と共に現れて、たった2人で圧勝してしまったんだ…」

カルーアは、マルバァスと戦った時のことを思い出していた。古代13獣神と言われる奴の強さに感じた恐怖と、魔女2人の圧倒的な魔法力に驚きと憧れの感情を抱いたことを…



【ブルージュ村】
「ヒュー…ストン。モニカ、キウ様に何かあったのよね?」

徳川 有栖は一応【認識阻害(ハードゥーン)】を掛けて飛行して、ブルージュ村にやって来た

「お久しぶりです有栖様。キウ様は、今朝の食事中に突然倒れられました。ミアナさんが慌てて蘇生室に運んでくれたのですが、数時間が経過してもキウ様は良くならなかったので、慌てて有栖様を呼びに向かわれたんです」

村の外れに、キウの為の生命維持装置が設置されている建物がある。その入り口に、キウの館に姉妹で働いている姉の方のモニカが有栖を待っていた


キウ・ケディータは、前魔王ザッド・クルスの奥さんである。しかし、脳死してしまった身体は、ザッドの命令を受けたロキシードの魔法により凍結保存されていた

数年後、人族側の最重要拠点であるクラウン城の前国王を含む主力隊と、自爆することで引き分けたザッドの魂を入れて蘇生された

脳死し冷凍保存されていた身体に、その旦那の魂を入れて生きているという不安定さを繋ぎ止めるという、有栖が自作した生命維持装置だったのだが…

「そうだったのね。任せて、私が責任をもってキウ様を…っ!?そんな、これは…」

地球でいうところの、大きな蔵の中に設置された生命維持装置の中に居るキウ・ケディータの姿を見た有栖は驚きの声を上げた

「どうかされたのですか有栖様?いつもの様に助けてあげてください。キウ様の苦しむ姿を見ているのは…」

モニカは有栖の登場に安堵していた。どんな怪我や病気であっても、これまで彼女の手に掛かって、治してもらえなかった者は存在しなかったからだ。1つの肉体に2つの精神が共存できる魔法も彼女オリジナルのものである。つまりは、有栖が現れて救われない生命は無いと思っているのだ

……………………………………………

「……ん?…ここは?…有栖か?…すまんな、また手を焼かせたようだ。キウの精神は今どうしている?」

有栖の手によって、生命維持装置の液体の中に浸かっていたキウの身体は外に運び出された。もちろん、違う精神が1つの身体に入っていることで現れてしまう、拒絶反応などを抑える魔法を掛けていたと思われる

「ザッド様。キウ様はもう…」

「まさか貴様…キウの精神を抹消したのではあるまいなぁ!?」

「グゥ!?ザッド様…」

奥さんのキウの安否を質問した途端、目線を外した有栖の態度に妻であるキウを消されたのではないか?と予感したザッドは、有栖の上着の胸元辺りを掴み彼女を持ち上げた

「お、おやめ下さい!有栖様はキウ様の為に来てくださり、回復魔法を掛けてくださったのです!」

有栖の必死の処置を見ていたモニカは、ザッドに片手で釣り上げられている彼女を助けようと、必死にキウを止めようとする

「す、すまない有栖…悪い癖だ。またカッとなってしまったようだ…妻のキウは、どうなっているのだ?」

「……………………………それは………」

キウの手から解放された有栖だが、依然として彼女の顔は暗くザッドと目を合わせられずにいた

「…キウを殺したのか?」

「………………はい。」

「ガクッ」

有栖の驚くほど静かで肯定的な返事にチカラが抜けてしまったザッドは、その場に膝をついた


「お前が以前に言っていた、強過ぎる俺の精神がいつかキウの重荷になるかも知れない。と言っていた話か?」

「はい。かろうじて残存していたキウ様の精神でしたが、その身体に馴染んで強さを増していくザッド様の魂の強さに負けてしまい、キウ様は自我が保てなくなってしまっていました」

「この俺こそが、キウを殺してしまったと言うのか…」

有栖の言葉に愕然としたザッド。最愛の奥さんを死に追いやったのは、他の誰でもなく自分自身だったのだ


「このまま身体の主である自分(キウ)が死亡すれば、身体に仮住みしているザッド様も巻き込んでしまう可能性が高いと伝えるとキウ様は、その身体をザッド様に譲渡し自分の存在を消して欲しいと懇願されました…」

「…だから…だからキウを殺したと言うのか?貴様ーっ!!!!!」

ザッドは人族側に恐怖の象徴として知られている恐ろしいまでの魔王の威圧の眼で、徳川 有栖を睨みつけて咆哮した!

「私も…優輝を旦那として迎え入れた女です。キウ様の想いの強さは、私の心の中に強く響きました。自分は生命尽きても愛する男を助けたい。その願いを断る選択肢は私には有りませんでした」

有栖は、キウと同じく最愛の男を得た身。その相手の為なら生命をも差し出すと。その本気の頼みを断れなかったのだ


「すまぬ…本当にすまなかった。俺はアイツにも、そしてお前にもツライ思いをさせてしまった」

地球から強制召喚され、その才能と知識をフル活用し「最強の魔女」と呼ばれるまでになった有栖の能力(チカラ)をもってしても、奥さんであるキウを助けるのは不可能だったことを理解したザッドは、涙を流しながら彼女に謝罪した

「いえ。その気持ちはよく分かりますから…」

「これが最初で最後だ。このザッド、人前で涙し謝罪をするなど金輪際、2度としない強さを身に付けると約束しよう」

ザッドは、魔王である自分の強さこそがキウを殺してしまったと理解した。いや、薄々以前からこうなるのではないか?と予想はしていたのだ

にも関わらず、イザその時が目の前に来てしまうとキウとの永久の別れのツラさを、有栖に当たらずにはいられなかったザッド。そんな自分の弱さを必ず克服する!という宣言だったようだ


「キウ様の願い通り、ザッド様こそがその身体の宿主として安定するように処置しておきました。今後、今まで以上に身体付きも思考パターンもザッド様らしさが現れると思います」

「そうか…みなには迷惑を掛けてしまったな」

「そうでした!明日の午後にはメイビー様の生誕祭が始まってしまいます。慌ただしくて申し訳ありませんが、私はこれで失礼致します」

有栖は涙を拭うとザッドに深々と頭を下げ、アレクス城目掛けて飛び立った

魔法と化学を融合させることに、この世界で初めて成功した有栖でさえも、1つの身体に2つの魂を永く共存させることは出来なかった

ザッドは最愛の妻だったキウへの愛を深く胸に刻み込んだ。一方の有栖は、こんな自分を愛してくれる優輝へ精一杯尽くそうと深く想ったのだった



続く
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