ようこそ幼い嫁候補たち④

龍之介21時

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夢忘れ編

異次元世界 ユグドラシル

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【呑み喰い屋 ユグドラシル】
「貴様っ!私をバカにするのも程々にしておけよ。最強と名高い消去の魔女が唯一育てた魔法使いが大した理由も無く、20年以上も戦争が絶えないこのマナティートに観光しに来た。とでも言うつもりかっ!?」

「え~ですから~、どんな場所なのかな?と興味本位でタマタマ散歩に来ただけなんでよ~」

数年振りに訪れた中立の町で、結婚相手にするつもりで連れてきたヒイロと訳アリ的な雰囲気を醸し出すレキシントンに、腹を立て気分を害していたホルンの目の前に、消去の魔女の弟子が「タマタマ散歩に来ただけ」だと怪しい言い訳をするのだから、人族側の軍師をしているホルンが強く警戒するのは当然と言えた

「やっぱり、お兄ちゃんは見知らぬ土地でもモテモテだねぇ♪」

「何っ!?やはり、この男は地元のヘルメスでもモテモテなのかっ!?」

もう15歳にもなっていると言うのに…獣人族だからなのか?自分の好きな異性が、目の前で2人の女性と良い感じになっていても険悪な感じにならず、むしろ誇らしいと言わんばかりに笑顔を魅せているアリスだが…

「頼むアリス。話がややこしくなるから、取り敢えず俺の話はしないでくれ!」

ヒイロからすれば、最近ヘルメスの街から出て見知らぬ土地に出向くと…必ず出くわしている地下の住人【魔獣族】のレキシントンとランドルフ

更に今回は、惑星神エリスア様から直々のクエストを受けて来た。という特殊な状況に加えて、偶然の事故からカルーアの叔母のホルンから求婚されている状態なのだ

そんな状況で女2人の中心になっているのだから「モテモテで気分が良い!」とか言ってられる場合じゃない


ホルン、ヒイロ、レキシントン、ミアナが四すくみになって事態の収拾はどうなるのか?と思われていた時だった…

「レキシントン、レキシントンは居るか?」

「オーナー」

「どうかしたの?」

店の奥にある、ひときわ頑丈そうな扉がけたたましく開け放たれると…中から虎の獣人族の初老の(50前後っぽい)男が、レキシントンを探して出て来た


「悪いがスグに来てくれ!娘が急に具合が悪くなってしまった。また魔力を注いでやってくれねぇか?」

鍛え抜かれたゴツイ肉体に、何度か戦地を駆け抜けてきた傷痕が刻まれているその身体からは想像しにくいのだが…娘を心配する父親のような表情を浮かべている

「えぇ~またなの?今朝も注いであげたばかりよ?…最近スパンが短くなり過ぎて、私の魔力が枯渇しそうなんだけど?」

「悪いとは思ってる。しかし、このままじゃ娘が…」

どうやら話を聞いた感じ、この呑み喰い屋で虎の獣人族のオーナーの娘さんの容態が悪くなり、助けるのに魔力供給が急いで必要な感じだ


「久しいな店長(オーナー)。貴様に娘が居るとは知らなかったぞ?」

「…その声はホルンさんじゃねーか。調度良い、娘を助けてくれねーか?どうしても魔力が必要なんだ!」

どうやらホルンと店長は顔見知りのようだが、彼女は店長の娘の存在は知らない様子だ

「ねぇホルン様。その女の子、助けてあげてくれないかなぁ?」

ホルンに店長の娘を助けてあげて欲しいと願い出たのは…どんな相手なのか?全く知らないアリスだった


「おいおい…目の前にはあの消去の魔女の弟子が居るのだぞ?しかもだ、私は店長と顔見知りだが、娘が居たなんて初耳なんだぞ。会ったことも無い女の子を、この状況で私に救いに行けと言うのか!?」

ホルンは、その類まれなる頭脳でマナティートの人族側を、支援しなくてはならない責任重大な立場のエルフである。本来なら、戦争も未終結なこの時に呑み屋に行く事さえNGなのだ。ましてや、敵側の最強の魔女の弟子が目の前に居る状況で、個人的な人助けをするなど到底有り得ない話なのだが…

「すみませんホルンさん。アリスは凄く優しい子なんです。せめて、様子だけでも見に行ってやってくれませんか?」

「くっ!?貴様に言われては、行かん訳にはイカンだろうが…おっと!ダジャレを言った訳ではないからな…」

結婚相手候補のヒイロから直接頼まれてしまっては、無下には断れない立場のホルンは困りながら了承した


「ホルンさん。魔女の弟子が気になるのでしたら…彼女も連れて行くのはどうですか?モチロン、貴女にナニかあってはマズイでしょうから私が護衛として付き添いますが?」

「本当か?…ふむぅ、魔力が必要だと言う話ならば…悔しいが私よりも、この魔女の弟子の方が優秀だろうな…」

本来エルフは魔法に長けた種族である。その里の中でもホルンは、かなり優秀な魔法使いでもあった。しかし、そんな彼女の魔法をも軽くぶっちぎっているであろうミアナを連れて行けば、心配事は無くなるだろうと考えたエリエス

「エリエスちゃんが一緒に行ってくれたらぁ、何があっても大丈夫だよねぇ♪なんだったらアタシも一緒に行こうかぁ?」

「すまないが、なんと言えば良いのか?…一度に中に入るのは4人でも限界なんだ。気持ちは嬉しいんだがな…」

店長が言うには、中に入れる人数は限られていて…店長とホルン、ミアナとエリエスで限界っぽいらしい


「あ、あの…」

またしても自分の意志とは無関係に、展開に流されそうになっているミアナは、4人用テーブルに残している3人の方を見た

「我々は、ゆっくり呑み喰いしながら待っていますので行ってきてください」

「……………………………………………」

「ミアナさんが帰られるまでは私が2人の面倒をシッカリ見て今シュシュから…コホン!見ていますから、安心してください!」

自分の存在を知られる訳にはイカないお忍びで来ているオボロは、フードを深く被り無言でミアナに「心配は要りません」と目配せをした

彼女の護衛兵士長であるモメントも、愛用のソードを利き手の方に置いて臨戦態勢を取っている

オボロの幼なじみの魔法使いツバキは、相変わらず30文字くらいで噛んでいたが「少しの時間くらい大丈夫です!」と目で語っていた

「悪いな。お嬢さんたちを借りていくぜ」

店長(オーナー)も、自分の頼みが周りに迷惑を掛けていることを何となく察し、ひと言断りを入れてから4人で出てきた扉の中へと戻って行った



【次元の狭間ユグドラシル】
「何だ此処は?呑み喰い屋の中ではなかったのか?」

店長の後をついていき、扉の中に入ったホルンとエリエスは目の前の光景に驚愕した

「そんなに広そうな部屋が有るようには見えませんでしたが、コレは一体!?」

呑み喰い屋は割と大きな店舗ではあったが…まさか店の奥の扉の中の部屋に、見渡す限りの草原地帯が拡がっているとは夢にも思わなかったホルンとエリエスは、驚きの表情を浮かべていた


「部屋の中ではなくて…扉をくぐった時ですか?強制転移の魔法が発動していましたね。店長(オーナー)さん。私も暇をしているわけではありませんので、何か企んでいるようでしたら覚悟してもらう事になりますよ?」

「ふん。とぼけた女だと思っていたが…やはり貴様は、最強と言われる魔女の弟子だな。その非情になれる目付き、私の部下にも見習わせたいモノだな…」

ミアナは天才的な魔法使いの素質を持っているのを徳川 有栖に見い出された女だ。単に魔法を強化されただけでなく、精神的にも今スグにでも魔女に配属しても恥ずかしくない様に育てられている

中立の町の店長(オーナー)からの頼みごと程度にしては、有り得るハズもない強制転移を喰らわされたので、ミアナは戦場を掛ける猛者の目付きになっていた

「ミアナさんでしたか?貴女の強さは武闘大会で認知しています。あの時は満足に戦えませんでしたが、貴女が望むのであれば私も遠慮しませんが?」

そんな凄みを魅せたミアナに、1戦士として彼女との戦闘に興味を覚えたエリエスも嬉しそうな笑みを浮かべた

「す、すまん。俺の娘は特殊な病気に掛かっていてな…いや、口下手な俺が説明するよりも娘を見てもらうのが早いだろう。スグそこだ、ついてきてくれ」

2人の様子を見た店長(オーナー)は、自分が敵対している人族と、魔族の猛者を連れてきてしまった事をようやく認識したようだ

「なんという魔力だ。私1人で対峙したら、獣神に踏み潰される一般人の結末が訪れそうだな…」

先程までオドオドしていたミアナからは感じられなかった【最強の魔女の唯一の弟子】という凄みを肌で感じ取ったホルンは、エリエスが居なかったら自分など、彼女の前では一般人のように蹴散らされるのがオチだと瞬時に理解していた

連れてきた彼女たちが険悪な雰囲気になってしまったのを理解した店長(オーナー)は、慌てて彼女たちをある場所へと連れて行った


「あ、パパ♪それと…お客さんかな?」

数分歩くと…辺りは綺麗で広大な草原地帯へと変わっていき、その中央には穏やかな表情を浮かべて店長(オーナー)を迎えた少女が、直接地面に座っているのだが…

「魔装機兵なのですか?」

少女の身体は、約3分の1ほどが機械と化していた。マリニウムや古代遺跡で人型兵器と何度か戦ったエリエスは、愛剣であるエクスカリバーを握り締めた

「お城の前で暴れていたアレですか?」

エリエスの言葉に、過去の精算をするべくエーデを連れてマリニウムを訪れた時に、城の前で大暴れしていた機械兵器を思い出したミアナも、瞬時に魔法力を高め始めていた


異次元空間ユグドラシルに迷い込んだホルンとエリエス、ミアナの3人。店長(オーナー)の目的は?機械の身体を持つ少女の正体は?

更に彼女らの帰りを、同じ呑み喰い屋の中で待つヒイロとアリスは、まさか人族と敵対している魔族側の姫がスグそこに座っているとは知る由もない。そこへ…


「ここか?美味い飯が食える店ってのは?」

「お師匠様が何度か利用している。と言っていたからな、間違いはないだろう。たぶんな…」

「俺は…飯はどうでも良いんだ」

少年が2人の女性を連れて、今まさにこの店の中に入ろうとしている。まさか、店内にアリスが居るなど夢にも思っていないのだが…




続く
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