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広場の中央には八組の男女が村長の前に並び、誓いのキスをして、村中に祝福の拍手が響く。
その後はキャンプファイヤーの周りを新婚夫婦だけではなく、おじさんからおばさんまで手を取り合ってクルクル回っている。いやー、いい光景だね。
「アルデン君、少しいいかな」
「村長、相手もいなくて見てるだけでしたから、大丈夫ですよ」
村長に連れられて、村長宅へと招待をされた。
入ったことがない部屋に入ると、師匠とベットの上であんこを撫でながら外を眺める、見慣れない老婆がいた。距離があるので、ぽつんとした光になっているが、キャンプファイヤーを眺めていたのだろう。
「母なんだ」
村長のお母さんが紹介されると、こちらにニッコリと微笑んでくれる。
優しそうな人だ。
「それじゃあ、私達は席を外すよ」
「ありがとう。リュー」
師匠を愛称で呼ぶくらい仲がいいのか。
村長もいなくなって、村長のお母さんと二人だけにされてしまった。
「初めましてですね、アルデン君。私はサンドラです」
「サンドラさん、よろしくお願いします」
よろしくと言っても俺は明日にこの村を出ていくことになるんだけど。
「こんなタイミングでの挨拶になってしまってごめんなさいね。明日、旅に出るそうね」
「はい」
あんこを俺に返してくれると、ベットの上に置いてあった金属製の小さい板を渡してくれる。首から下げれるようになっていてるがこれは何だ?
「貴方の身分証のような物です。街に入るときに貴方の経歴であったり移動した町などがわかるようになっています。この大陸で魔法を復旧させてた方が作った戸籍を管理するための魔道具です」
もの凄いシステムを構築する人がいたもんだ。伝説上の人物ってやつか。
「それを作ったのは私も剣を習い、リューの師匠でもある方です」
「えっと、結構最近のことなんですか?」
「長く生きている方ですから、この大陸に来たのは数百年前とも言われています。もしかしたらアルデン君も会う機会があるかもしれないですね」
まだ生きてるのかよ。めちゃくちゃ会ってみたい。
「探しても見つかる方ではないですから、運が良ければと思っていた方がいいですよ。あと、貴方の経歴ですが私の独断で異世界から来た者ということは伏せています」
違和感は感じていた。話が通っているとはいえ、村長が普通に対応してくれたけど、戸籍を作る時に報告をしていれば、異世界人なんて問題にならないはずがない。
師匠の力なのか、村長のおかげなのかと思っていたけど、この人のおかげだったのか。
「リューが珍しく相談してくれてね。貴方が異世界人と知っているのは、息子や嫁、リュー、マーロとごく一部です。表向きは私しか知らないことになっていますがね。嘘の申告をしたことで罪を被るのは私だけです」
「なんでそこまでしていただけたんですか?」
「リューには命を、村人達を助けてもらいました。その恩を返しただけですよ。この村が出来てやっと軌道に乗り始めた時に流行病が蔓延し、死にかけた私達を助けてくれたのがリューでした。聞いてみれば師匠の差金もあったようですけど、リューが来なければ多くの人間が亡くなっていました」
そんなことがあったのか。師匠は自分のことをそこまで話す人ではないし、特に自分の美談なんて尚更話したりなんてしないだろう。
「貴方も知っているでしょう? あのリューが私に助けを求めてきたのです」
「あの師匠がですか」
「ふふふ、そうなの。貴方のことも優秀だと褒めていたわ。リューは気難しい子だから心配していたけど、貴方がきてくれて変わったと思う。良い方向にね」
「助けてもらったのは俺の方です。でもそう言っていただけるのであれば嬉しいです」
「アルデン君が来て、リューも変わった。そしてそのおかげこの村もその恩恵を受けれたわ。リューが来て寿命以外の死者は極端に減ったし、貴方が来てから身売りをしなければいけない村人も出ず、結婚式まで盛大に上げることができた。感謝しています」
こう感謝ばかりされるとこそがゆい。
サンドラさんが俺に何か手渡してくれる。手紙? かな。
「それはブレイズ辺境伯への手紙です。リューの手紙と合わせれば必ず力になってくれるはずです」
「ありがとうございます」
「貴方の身分証には上級貴族でしか見れないような、文字の刻印もされてます。貴方が嘘を報告していない身の潔白を示す内容です。万が一、異世界人であることで問題が起きたらそれを見せなさい。全て私の責任になります」
「……はい」
できれば使いたくないな。
「死人に口なしというのでしたかね? 私は老い先短いでしょうから、有効に使ってください」
なんでことわざを知っているのだろうか。その師匠が日本人の転生者とかだったのかな。
サンドラさんが枕元にあった鈴を軽く鳴らすと、村長が入ってきた。
「私からの話は以上です。アルデン君、もう会うことはないでしょうが、貴方の幸運を願っています」
そういうお年寄りジョークは反応しづらいのでやめてほしい。
寿命を延ばせる薬でも作れればいいんだけど。
師匠とそのまま、村長宅から広場に移動して、宴会を楽しみ、行きとは違いエレナとルーカスを連れて家路につく。
「兄弟子、明日出て行ってしまうんですよね? 今日は飲み明かしましょう!」
「新婚初夜なのにいいのか?」
「問題ないです!」
ルーカスが残念そうな顔してるけど大丈夫? まぁエレナには逆らえないよね、ルーカス、今後の健闘を祈るよ。
家についてから、師匠が上物の酒を出してくれて、直ぐに新婚二人はノックダウンされてしまった。
酒、そんなに強くないもんな。
「サンドラはね、格も五に達ていて、この国で最強と言われた騎士だったんだよ。剣術だけなら師匠も自分に引けを取らないと言っていたっけね」
突然どうしたんですかとは聞かない。黙って師匠の話を聞く。
「騎士団長を務めた後には今の当主であるセリアの教育係もしてたんだよ」
それで紹介状を書いてくれたのか。でも話を聞けば聞くほど凄い人だと思うんだけど、なんでこんな辺境の村の村長なんてしてるんだろうか?
「華やかな経歴だろ? でもちょっと馬鹿でね。花屋をやっていた男と熱愛の末、結婚してね。将来安泰の職を捨てて、開拓村の村長になったのさ。馬鹿な女だろ?」
「熱愛だなんて、師匠が羨ましいだけなんじゃないですか?」
「馬鹿言ってるんじゃないよ」
外が薄らと明るくなってくる。
誰かが走ってくる音が聞こえる、たぶんマーロさんだ。今まで見たことがないような焦った顔をしている、俺の見送りって感じではない。
「薬師殿、サンドラ様が!」
「亡くなったのかい?」
あのマーロさんが涙を流している。マーロさんはやたら強いし、サンドラさんの部下の人とかだったのかもしれない。
「そうかい」
「師匠、葬式とかがあるなら、もう少し伸ばしましょうか?」
「気にすることはないよ。わかっていたことさね、マーロ、直ぐに私も行く。先に行っててくれるかい」
「わかった」
師匠が奥に下がると、背負子に木箱がついた物と熊達の母親の外套、手袋や各種旅の道具一式をテーブルに出してくれる。
「あんたも準備していただろうけど、持っていけるのもは持って行きな」
師匠が用意してくれた物は残らず持って行かせてもらうことにして、自分の荷物を整理する。
「それと、これも持って行きな」
「この籠手は?」
「私とあんたの妹弟子との合作だよ。普段使いには向かないけどね、旅となれば危険も多い。こっちの方が役に立つだろうさ」
「ありがとうございます」
手袋から籠手に付け替えてみる。思ったよりも軽い、そしてスムーズに動く。
「手入れの仕方はわかってるだろ?」
「はい」
新婚二人は寝たままか。起こして泣かれてもアレだ。このまま出ていくか。
「師匠、お世話になりました。一つだけ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「なんで犯罪者だった俺を助けてくれたんですか?」
「ふん。私も似たようにアルデンと同じ正直に生きていれば報われるなんて考えてる馬鹿だったよもん。でも実際は馬鹿正直に生きてたって損をすることがほとんだよ。でもね、正直者が損をしないことがあってもいいと思わないかい?」
クククと悪戯が成功したような笑う。
「そうですね。俺もそう思います、そういうハッピーエンドで終われるように、頑張ってみます!」
師匠に一礼して、前に進む。あんこが遊びに行くのか? と横について来てくれる。また二人でのスタートだね。
「アルデン」
呼ばれたので振り向くと、飛んできた何かを受け止める。キセルだ。
「選別だよ」
もう一度、大きく手を振って前に進む。
俺の異世界での二度目のスタートだ。
その後はキャンプファイヤーの周りを新婚夫婦だけではなく、おじさんからおばさんまで手を取り合ってクルクル回っている。いやー、いい光景だね。
「アルデン君、少しいいかな」
「村長、相手もいなくて見てるだけでしたから、大丈夫ですよ」
村長に連れられて、村長宅へと招待をされた。
入ったことがない部屋に入ると、師匠とベットの上であんこを撫でながら外を眺める、見慣れない老婆がいた。距離があるので、ぽつんとした光になっているが、キャンプファイヤーを眺めていたのだろう。
「母なんだ」
村長のお母さんが紹介されると、こちらにニッコリと微笑んでくれる。
優しそうな人だ。
「それじゃあ、私達は席を外すよ」
「ありがとう。リュー」
師匠を愛称で呼ぶくらい仲がいいのか。
村長もいなくなって、村長のお母さんと二人だけにされてしまった。
「初めましてですね、アルデン君。私はサンドラです」
「サンドラさん、よろしくお願いします」
よろしくと言っても俺は明日にこの村を出ていくことになるんだけど。
「こんなタイミングでの挨拶になってしまってごめんなさいね。明日、旅に出るそうね」
「はい」
あんこを俺に返してくれると、ベットの上に置いてあった金属製の小さい板を渡してくれる。首から下げれるようになっていてるがこれは何だ?
「貴方の身分証のような物です。街に入るときに貴方の経歴であったり移動した町などがわかるようになっています。この大陸で魔法を復旧させてた方が作った戸籍を管理するための魔道具です」
もの凄いシステムを構築する人がいたもんだ。伝説上の人物ってやつか。
「それを作ったのは私も剣を習い、リューの師匠でもある方です」
「えっと、結構最近のことなんですか?」
「長く生きている方ですから、この大陸に来たのは数百年前とも言われています。もしかしたらアルデン君も会う機会があるかもしれないですね」
まだ生きてるのかよ。めちゃくちゃ会ってみたい。
「探しても見つかる方ではないですから、運が良ければと思っていた方がいいですよ。あと、貴方の経歴ですが私の独断で異世界から来た者ということは伏せています」
違和感は感じていた。話が通っているとはいえ、村長が普通に対応してくれたけど、戸籍を作る時に報告をしていれば、異世界人なんて問題にならないはずがない。
師匠の力なのか、村長のおかげなのかと思っていたけど、この人のおかげだったのか。
「リューが珍しく相談してくれてね。貴方が異世界人と知っているのは、息子や嫁、リュー、マーロとごく一部です。表向きは私しか知らないことになっていますがね。嘘の申告をしたことで罪を被るのは私だけです」
「なんでそこまでしていただけたんですか?」
「リューには命を、村人達を助けてもらいました。その恩を返しただけですよ。この村が出来てやっと軌道に乗り始めた時に流行病が蔓延し、死にかけた私達を助けてくれたのがリューでした。聞いてみれば師匠の差金もあったようですけど、リューが来なければ多くの人間が亡くなっていました」
そんなことがあったのか。師匠は自分のことをそこまで話す人ではないし、特に自分の美談なんて尚更話したりなんてしないだろう。
「貴方も知っているでしょう? あのリューが私に助けを求めてきたのです」
「あの師匠がですか」
「ふふふ、そうなの。貴方のことも優秀だと褒めていたわ。リューは気難しい子だから心配していたけど、貴方がきてくれて変わったと思う。良い方向にね」
「助けてもらったのは俺の方です。でもそう言っていただけるのであれば嬉しいです」
「アルデン君が来て、リューも変わった。そしてそのおかげこの村もその恩恵を受けれたわ。リューが来て寿命以外の死者は極端に減ったし、貴方が来てから身売りをしなければいけない村人も出ず、結婚式まで盛大に上げることができた。感謝しています」
こう感謝ばかりされるとこそがゆい。
サンドラさんが俺に何か手渡してくれる。手紙? かな。
「それはブレイズ辺境伯への手紙です。リューの手紙と合わせれば必ず力になってくれるはずです」
「ありがとうございます」
「貴方の身分証には上級貴族でしか見れないような、文字の刻印もされてます。貴方が嘘を報告していない身の潔白を示す内容です。万が一、異世界人であることで問題が起きたらそれを見せなさい。全て私の責任になります」
「……はい」
できれば使いたくないな。
「死人に口なしというのでしたかね? 私は老い先短いでしょうから、有効に使ってください」
なんでことわざを知っているのだろうか。その師匠が日本人の転生者とかだったのかな。
サンドラさんが枕元にあった鈴を軽く鳴らすと、村長が入ってきた。
「私からの話は以上です。アルデン君、もう会うことはないでしょうが、貴方の幸運を願っています」
そういうお年寄りジョークは反応しづらいのでやめてほしい。
寿命を延ばせる薬でも作れればいいんだけど。
師匠とそのまま、村長宅から広場に移動して、宴会を楽しみ、行きとは違いエレナとルーカスを連れて家路につく。
「兄弟子、明日出て行ってしまうんですよね? 今日は飲み明かしましょう!」
「新婚初夜なのにいいのか?」
「問題ないです!」
ルーカスが残念そうな顔してるけど大丈夫? まぁエレナには逆らえないよね、ルーカス、今後の健闘を祈るよ。
家についてから、師匠が上物の酒を出してくれて、直ぐに新婚二人はノックダウンされてしまった。
酒、そんなに強くないもんな。
「サンドラはね、格も五に達ていて、この国で最強と言われた騎士だったんだよ。剣術だけなら師匠も自分に引けを取らないと言っていたっけね」
突然どうしたんですかとは聞かない。黙って師匠の話を聞く。
「騎士団長を務めた後には今の当主であるセリアの教育係もしてたんだよ」
それで紹介状を書いてくれたのか。でも話を聞けば聞くほど凄い人だと思うんだけど、なんでこんな辺境の村の村長なんてしてるんだろうか?
「華やかな経歴だろ? でもちょっと馬鹿でね。花屋をやっていた男と熱愛の末、結婚してね。将来安泰の職を捨てて、開拓村の村長になったのさ。馬鹿な女だろ?」
「熱愛だなんて、師匠が羨ましいだけなんじゃないですか?」
「馬鹿言ってるんじゃないよ」
外が薄らと明るくなってくる。
誰かが走ってくる音が聞こえる、たぶんマーロさんだ。今まで見たことがないような焦った顔をしている、俺の見送りって感じではない。
「薬師殿、サンドラ様が!」
「亡くなったのかい?」
あのマーロさんが涙を流している。マーロさんはやたら強いし、サンドラさんの部下の人とかだったのかもしれない。
「そうかい」
「師匠、葬式とかがあるなら、もう少し伸ばしましょうか?」
「気にすることはないよ。わかっていたことさね、マーロ、直ぐに私も行く。先に行っててくれるかい」
「わかった」
師匠が奥に下がると、背負子に木箱がついた物と熊達の母親の外套、手袋や各種旅の道具一式をテーブルに出してくれる。
「あんたも準備していただろうけど、持っていけるのもは持って行きな」
師匠が用意してくれた物は残らず持って行かせてもらうことにして、自分の荷物を整理する。
「それと、これも持って行きな」
「この籠手は?」
「私とあんたの妹弟子との合作だよ。普段使いには向かないけどね、旅となれば危険も多い。こっちの方が役に立つだろうさ」
「ありがとうございます」
手袋から籠手に付け替えてみる。思ったよりも軽い、そしてスムーズに動く。
「手入れの仕方はわかってるだろ?」
「はい」
新婚二人は寝たままか。起こして泣かれてもアレだ。このまま出ていくか。
「師匠、お世話になりました。一つだけ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「なんで犯罪者だった俺を助けてくれたんですか?」
「ふん。私も似たようにアルデンと同じ正直に生きていれば報われるなんて考えてる馬鹿だったよもん。でも実際は馬鹿正直に生きてたって損をすることがほとんだよ。でもね、正直者が損をしないことがあってもいいと思わないかい?」
クククと悪戯が成功したような笑う。
「そうですね。俺もそう思います、そういうハッピーエンドで終われるように、頑張ってみます!」
師匠に一礼して、前に進む。あんこが遊びに行くのか? と横について来てくれる。また二人でのスタートだね。
「アルデン」
呼ばれたので振り向くと、飛んできた何かを受け止める。キセルだ。
「選別だよ」
もう一度、大きく手を振って前に進む。
俺の異世界での二度目のスタートだ。
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