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 祭りと結婚式の当日、準備があるからとルーカスとエレナの新婚は早めに家を出た。楽しそうで何よりだよ。今夜は新婚初夜となるのだろうけど、騒音など心配する必要がないのは俺の心の安念が保たれる。家が別に完成しててよかった。

「アルデン、話がある」
「なんでしょうか、師匠」
「あんた、明日には出ていきな」

 遂にボケたかババアとは思わない。ババアもタイミングを見計らってくれたいたんだと思う。
 ルーカスも成人して、エレナも一端の魔法使いと言える程度の実力がついてきた。結婚という節目と俺の技術の頭打ち具合を見ての絶妙なタイミングなんだろう。

「わかりました。師匠、これまで本当にお世話になりました」
「ふん、いつものようにババアと悪態でもついたらどうだい?」
「いつもだなんて、俺が尊敬する師匠のことをババアだなんて呼ぶわけがないじゃないか」
「お前の日記、中々に興味深かったよ」

 ババアが片手に持つメガネを放り投げてくる。

「それは私の師匠が作成した伝説級の代物だけどね。世界には似たような物もある警戒することだね」

 メガネに薄い紋様が刻印されている。ババアの師匠は本当に化け物だと再認識される品だ。
 これがあれば魔道具で記載した文字なども勘破できるっていう品物らしい。

「あはは、お茶目なジョークですよ」
「そういうことにしておくよ。もうあんたに教えられることはないどころか、魔法以外はお前の方が上と言ってもいいよ」

 魔法が使える師匠と俺のとでは制作スピードに大きな開きもある。だからこそ俺は創意工夫をしてきたが、その技術が誉められたことは素直に嬉しい。
 薬学を魔法使い抜きで作れるようにできるような、作成工程の構築。魔道具で言えばこれまで点に集中的に魔術式を入れていたが、点を増やして線で繋ぐ、回路みたいなものを開発に成功した。
 発想自体は俺の物ではあったけど、師匠やエレナの協力もあってある程度、実用が叶う範囲内まで開発が進んだ。

「お前の開発はここに留めていい物ではない。世界を回ってさらに良いもの開発できるようになりな」
「精進します」
「それと、クラスメイトだったかね? 探しに行くつもりなんだろ」
「はい。結衣が今の帝国での暮らしに満足していたらそれでいいんですが、もし辛い目にあっているなら助けてやりたい」

 今は数年経過して、結衣への想いが恋心とかなんてわからない。
 それでも片親だった俺は結衣の家族には小さい時に世話になったし、恩返しとか色々な理由はある。
 ただ心配であるし、できることならもう一度会って、再会を喜ぶなり、それぞれの道を進むにしてもちゃんとさよならを言いたい。そうだな、結衣とちゃんと向き合わないと俺はきっと先に進めない。

「会うって言ってもどうするんだい? 犯罪者のお前じゃ、帝国内には絶対に入れないよ。考えはあるのかい?」
「まずは最後に情報としてあった、北のヴァル王国にいるっていう、亡命したクラスメイトに会ってみようと思います。もしかしたら抜け道があるのかも」
「そもそも、その亡命者にだって簡単に会えるのかい?」

 ぐぬぬ、行き当たりばったりではやっぱり難しいのだろうか。

「考えが甘いんだよ。まずはこの国での地盤を固めな。薬師としてでもいい、魔道具技師としてでもいいけどね。それなりの地位を得られれば他の国に行っても無下にされることはないだろうさ」
「偉くなるってことですか。そっちはそっちで難しそうですね」
「今から弱音を吐いてどうするんだい。少なくとも私が認めたんだからね、それなりの腕はあるんだ。自信を持ちな。ブレイズ辺境伯領が治める街に行って地盤を固めな、紹介状くらいは書いてやるよ」

 師匠のことだ、俺が出ていくことを考えて、先のことまで更に考えていてくれたんだろう。
 数年考えた末に出ていくとは自分の中でも確定していたが、計画性がなさすぎて情けなくなってくる。研究ばかりでなく生活のことももっと考えておくんだった。

「何から何までありがとうございます」
「師匠として最低限はね。話はここまでだよ。村に行くかい」
「はい」

 師匠と外に出ると、あんこと熊が二頭駆け寄ってくる。
 名前はフリッフとノーノ、すっかり大きくなったが、拾われた時からあんこが母親代わりになって育てたので、小型犬の後ろをデカい熊が追いかけてくる構図は何回見ても違和感がある。

 師匠があんこを抱き上げると、ノーノの背に腰掛けて、馬がわりに村まで運んでもらう。
 俺もフリッフに乗せてもらい、楽をする。一人であれば自分で走った方が早いのだが、今日は師匠もいるのでまったりと村に向かう。

 何度か通った道ではあるが、ここも暫く来ることがなくなると考えれば少し寂しくもなってくる。
 村に到着すると、入り口の衛兵さんに止められることはなく、顔ぱすで門を潜って広場へと直行する。
 広場は既にお祭り会場に変わっており、多くの村人が飲みはじめていた。

「私は村長の家に行くから、あんたは先に飲んでてもいいよ」
「わかりました」

 ナチュラルにあんこは連れて行かれてしまった。俺の召喚獣兼愛犬なのに。

「おお、アルデン殿! どうぞどうぞ!」
「アルデン殿! こっちで飲もう!」

 俺も村に馴染んだものだ。顔見知りのおっさん達に囲まれて出された酒を煽る。それにしてももう少しくらい女っけがあってもいいと思うんだけど。
 中には今日娘さんが結婚する親父さんもいて、思い出話に花が咲いていた。

「娘が好きな相手と無事に結婚できたのも、アルデン殿のおかげだ」
「いえいえ」

 ここ数年で薬草の栽培と薬品の作成、種に美容品が多いのだが、この村の名産になりつつあるようで、これまでは女性も畑仕事を頑張るか、内職の服作りや小物作りで生計を立てていたが、仕事の幅が増えて安定的な収入を得ることができるようになってきている。また男衆も畑仕事のない冬などには薬品の容器作りなど、仕事の幅が増えた。
 これもあれも、魔法使いでなくても地道にやれば薬草を作れるという、流れを開発したおかげ。みたいな流れになっているが、俺が見つけたのは小さな発見に過ぎず。師匠やエレナ、村長を含めて村の人達の協力がなければ成功に繋がらなかったことだ。

 奥の方で歓声が上がった。花嫁と花婿の入場が始まったようだ。
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