ダブルソード 第二章 ~アドラ編~

磊蔵(らいぞう)

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第31話 子猫探します

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ひと悶着もんちゃくはあったものの、無事に依頼の手続きを終えた和哉とギルランスは、早速依頼主の元へと向かうことにした。

――*――*――*――*――*――*――
【子猫捜索依頼】
【依頼主】『ココットペットショップ』(店長)トーマス
【住所】アドラ北区ミューク通り125番
【報酬】銀貨5枚
【期限】至急
【依頼内容】突然店のケージごと商品の子猫が居なくなりました。探して欲しいです!
【備考】商品であるため名前は付けていません。白毛にオッドアイズ(希少種)の子猫です。どうかよろしくお願いします――。
――*――*――*――*――*――*――

依頼書を手に辺りを見回しながら歩く和哉は、ギルランスへ声をかけた。

「ギル、ペットショップってほんとにこの辺であってる?」

「ん~、ここに書いてある住所からして間違いねぇと思うんだけどな」

ギルランスは和哉が手にしている依頼書にチラリと視線を落とし、考える素振りを見せながらも足を止めることなく歩き続ける。

二人は目的のペットショップの住所を確認しつつ街はずれの通りを歩いているのだが……この辺りは街の中心部の賑わいとは対照的に、人通りもまばらでさびれた雰囲気が漂っていた。
通りに面した商店らしき建物も半分以上が閉まっており、空き地や廃屋も目立つ。

「…こんなところにペットショップなんてあるのかな?なんか寂しい雰囲気なんだけど…」

ブツブツと呟きながらも足を進めていた和哉だったが、「お、あれじゃね?」というギルランスの声に顔を上げると、寂れた通りの一角にひっそりと佇む小さな店舗が目に入った。
外観は他の商店と同じように古い木造建築で、入口付近に設置された木の看板には【ココットペットショップ】と書かれており、ここが依頼主の店であることが窺える。

「ほらみろ、あるじゃねぇか」

なぜか得意気に言いながら店の扉を開けるギルランスに苦笑いしながら和哉もそれに続いた。

店内に入ると、そこはシンプルな内装ながらも手入れが行き届いた清潔感のある空間で、並べられた展示用ケージの中の動物たちも元気に動き回っていた。
子犬や子猫、といった馴染みのある動物たちに交じって、中には和哉の見た事も無いような種類の生き物たちまでいて、和哉のテンションは一気に上がってしまう。

「うわぁ!可愛いなぁ……あ、ほらギル見て!あっちの子も、こっちの子も!うはぁぁ~カワイイな~!」

ギルランスの服の裾を引きながら興奮気味に目を輝かせる和哉とは対照的に、ギルランスはやれやれといった表情で「へいへい」と適当に相槌を打ちつつ店の奥へと進んで行く。
すると――。

「いらっしゃいませ」

奥のカウンターから声をかけてきたのは、つるりと禿げ上がった頭に反して豊かな白い髭を生やした温和そうな初老の男性だった。

「あー……ギルドで依頼を受けて来た者だが……」

「ああっ!ありがとうございます!来てくれたんですね!」

ギルランスが声をかけると、男性は驚いたように目を見開き立ち上がった。
そして嬉しそうに顔を綻ばせると「どうぞ、こちらへ」と言いながら、事務所らしき部屋へと二人を招き入れた。

「いやぁ、本来なら衛兵に頼むような案件なんですがね、どうやら祭りの期間は忙しいようで……こんな事を冒険者ギルドに依頼するのはちょっと気が引けたんですが……」

男は禿げ上がった頭を掻きながら申し訳なさそうに言うと、和哉とギルランスのテーブルを挟んだ向かいの席へ腰を下ろした。

「ダメ元で依頼してみて良かった……お引き受けいただき、ありがとうございます」

そう言って頭を下げる頭を下げる男性を見て、和哉はこの依頼を選んで良かったと感じていた。
正直、A級ランクのギルランスには申し訳ない案件だと感じていたが、素人に毛の生えたような自分でも、こうして誰かの助けになる事が出来るかもしれないと思うと心が温かくなる。

(ギルには悪いけど……僕に出来る事なら少しでも何か人の役に立ちたいしね……)

そんな想いを胸に男性を見つめる和哉の前で、彼は「ええと、では改めて――」と前置きして自己紹介を始めた。

「申し遅れました。私はこの『ココットペットショップ』の店長を務めているトーマスと申します。よろしくお願いしますね」

「あ、はい。僕はアドラギルドの和哉といいます」

「同じく依頼を受けてきたギルランスだ」

トーマスの挨拶を受け、ギルランスと和哉も冒険者証を呈示しながらそれぞれ名乗ると、早速本題へと入った。

「それで、店で管理していた子猫が居なくなったという件だが……」

「はい……」

ギルランスの言葉にトーマスは難しい表情を浮かべながら小さく頷くと、詳細を語り始めた。

彼の話によると、一昨日の朝、開店準備をしているときに子猫が入っていたケージが消えていたのに気付いたらしい。
その前日までは確かにあったはずなのに朝起きたら忽然こつぜんと姿を消していたのだと言う。
それから必死になって探したが未だ見つかっていないとの事だった。

「その子猫の特徴を教えてもらえますか?」

和哉が聞くとトーマスは一枚の絵を差し出した。
そこには白い毛並みにグリーンとブルーのオッドアイズの可愛らしい子猫の絵が描かれていた。

「この子です……大変希少な品種の猫でして、滅多に手に入らないんですよ……おそらく盗まれて闇オークションにでも出回っているのではないかと……」

トーマスは心配そうに顔を曇らせながら「それに――」と続ける。

「商品として飼育していたこの子ですが、最近では妙に愛着も湧いてきてしまって……いっそ、自分で飼おうか、と思っていた矢先の事だったんですよ……」

消沈した様子で語るトーマスの様子に和哉もなんとか助けになりたいと考える。
ギルランスは表情を崩す事無く無言で話を聞いているが……和哉にはなんとなく彼もまたトーマスに同情しているように感じられた。

「そうですか……ではさっそく捜索を始めたいと思います。よろしいでしょうか?」

「ええ!もちろんです!よろしくお願いします……!」

和哉の問いかけにトーマスは顔をパッと明るくして即答すると深々と頭を下げた。

****
****

店を出た和哉とギルランスは、まずは情報収集をするため聞き込みを開始することにする。
二人で手分けをして聞き込みをしていくものの、全くといっていいほど有力な手掛かりは得られずにいた。
しかし、そうこうしているうちに、慣れない土地のせいか和哉はいつの間にかギルランスとはぐれてしまい、道に迷ってしまった。

(ヤバい……完全に迷子になっちゃったよ……どうしよう……)

気付けば辺りの風景も様変わりしており、和哉は自分が今どこにいるのかも分からない状況に陥っていた。
どうやらこの辺りは倉庫街らしく大小様々な倉庫が立ち並んでいる。
困った和哉がとりあえず来た道を戻ろうと踵を返したその時だった――どこからともなく「ミャー」という鳴き声が聞こえた。

(ん?猫の鳴き声が?……)

足を止めキョロキョロと辺りを見回す和哉の目に、一棟の倉庫が映る。
どうやら鳴き声はその倉庫の中から聞こえてくるようだった。
和哉は倉庫に近付くと、そっと扉に手をかけた。

――キィ……。

軋むような音と共にゆっくりと開かれた扉の隙間から頭を覗かせた和哉は、中を窺おうと目をらした。
倉庫内は薄暗く、外からの日差しだけが頼りだったが、それでもどうにか目が慣れてくると、棚に積み上げられた木箱や樽などが目に入った。
そしてその荷物たちの中に混ざって動物用のケージが一つ置かれているのが見え、倉庫内には「ミャ~」という鳴き声と共にカリカリと爪を立てて床をひっ掻くような音が響いているのが耳に届いた。

(猫の鳴き声……もしかして?)

和哉は改めて倉庫内をキョロキョロと見回し、人の気配が無いことを確認すると静かに中へ足を踏み入れ、慎重に奥へと進んで行った。
そっとケージに近付き、中を覗き込むと……真っ白な毛並みにエメラルドグリーンとブルーの瞳の子猫が怯えたような表情で和哉を見上げていた。

(ビンゴ!間違いない!この子がペットショップから盗まれた子猫だ!!)

偶然とはいえ、見つけられたことに内心興奮しながらも和哉は子猫に手を伸ばす。

「大丈夫だったかい?今助けてあげるからね……」

怯える子猫に優しく声を掛けながらケージの扉に手を掛けようとしたその時だった――和哉の背後でガチャリと倉庫の扉が音を立てて開いた。

(――!?)

ギクリと身体を強張らせた和哉が振り返ると、そこには数人の男たちが立っていた。

「おい!そこで何してる!!」

男たちは侵入者である和哉を警戒してか、皆一様に険しい顔つきで手にはそれぞれ剣や斧などの武器を手にしていた。
和哉の全身に一気に緊張が走る。

(やばい……!囲まれたか!?)

和哉は咄嗟に背中の弓を掴み、矢をつがえるが……そんな和哉をなめているのか、リーダー格とおぼしき大男が余裕の表情で一歩前に出ると、ニヤリと笑いながら口を開いた。

「おやおや、こんなところに可愛い子ちゃんがいるじゃないか……もしかして俺らに会いに来たのか?」

大男は下品な笑みを浮かべながら倉庫内にいる仲間に目配せすると、全員がそれぞれ武器を手にしてジリジリと和哉との距離を詰め始める。

「ついでだから、この猫と一緒にオークションに出してやるよ。高く売れるだろうなぁ……」

「その前にちょっとばかり可愛がってやろうか?」

ニヤニヤと笑いながら言う男たちの言葉で、和哉は彼らが子猫を盗んだ盗賊団だと確信した。

「……お前たちがこの子をさらったんだな!」

弓を構えながら問いかける和哉に、男たちはゲラゲラと笑い出す。

「ああ、そうだよ!まさかこんなに早く見つかっちまうとは思わなかったがな」

「でもまぁ、そのおかげでこんな上玉が釣れるなんてな!逆にツイてるってもんだぜ!」

「さぁ、大人しくこっちに来るんだ!」

そう言いながらじりじりと近づいて来る男達に対し、和哉も間合いを取りつつ後退していく。
敵は全部で五人だ。
実は和哉はこの時躊躇していた――躊躇しながらも頭はフル回転で思考を巡らせていた。

一つは、この狭い空間で弓矢を武器にした戦いは分が悪いという事。
そしてもう一つ、相手が生身の人間であるという事だった。
もし攻撃した場合、最悪殺してしまうかもしれないのだ。
今までの敵は皆、怪物や魔獣といった類のものだったので遠慮なく倒すことが出来たのだが、今回は勝手が違う。
いくら悪人とはいえ殺すことはしたくない――いや、正確には””のだ。
だが、だからといってここで黙って捕まってしまう訳にもいかないし、せっかく見つけた子猫を見捨てて逃げる訳にもいかなかった。

(くそっ!どうすればいいんだよ!!)

そんな和哉の葛藤を見透かしたかのようにリーダーの大男は口の端を上げて笑みを深めた。

「お前、冒険者のくせに人を殺した事がないんだろ?そんな甘っちょろい考えじゃこの世界で生き残れないぜ!?」

「――くっ」

確かにこの男の言う通りだった。
図星を突かれて反論も出来ず、ただ唇を噛み締めたまま男たちを睨み続けている和哉に業を煮やしたのか、突然一人の男が「面倒くせぇ、殺っちまおうぜ!」と叫んだかと思うと、いきなり剣を振り上げて襲い掛かって来た。

(――ッ!!)

もう考えてもいられなかった。
和哉は咄嗟に弓の構えを解き矢を手放すと、弓を両手で持ち替えて剣道の面のようにその男の脳天に振り下ろし叩きつけた。

「がっ!」

ゴツッという音と共に男は呻き声を上げて倒れ込んだ。
まずは一人目だ。
思わぬ和哉の反撃に一瞬驚いたように目をむいていた男たちだったが……。

「――なっ!?こいつっ!やりやがったな!」

今度は仲間がやられた事に激昂した二人が襲いかかって来た。

「――くっ!」

振り下ろされた剣を躱した和哉は、そのまま身体を回転させながら腕を横に一閃させると、弓は剣を振り上げている男の脇に入り、あばら骨の砕ける音がした。
そして、間髪入れずにもう一人の男が横なぎにはらって来たやいばを体を沈めて躱し、そのまま男の顎を弓の先端で突き上げる――。

「グハッ!!」

短い悲鳴と共に白目を剥いて男はその場に崩れ落ちた。
これで三人目――残るはリーダー含めてあと二人だ。

(よし!これならイケるかも!)

そう思った和哉だったが、甘かった。
騒ぎを聞きつけたのか、盗賊団の仲間たちが次々と倉庫へと集まってきたのだ。
いつの間にか和哉は先程の倍以上の人数の男たちに囲まれてしまっていた。

「な、なんだ!?どうした!?」

「お頭ぁ!こいつぁ何なんっすか!?」

騒ぎ立てる手下たちを「まぁ、待て」と相変わらず余裕の表情のまま制したリーダーは、先にいた残りの一人にクイと顎で指図をする。
その男はリーダーの指示に従い、一歩前に出るとケージの中の子猫に剣の切っ先を向けながら和哉へ声を掛けた。

「おい、動くな。それ以上抵抗するならコイツを殺す」

そう言いながらチラリとリーダーに視線を送ると、リーダーはニヤリと笑みを浮かべて頷く。

(――なっ!卑怯な真似をしやがって!!)

子猫を人質に取られた和哉は弓を構えることも出来ず、悔しさに歯噛みしながら盗賊たちを睨み付けるしかなかった。
そんな和哉の様子にリーダーは満足げに笑うとゆっくりと足を踏み出す。

「よくもやってくれたな?……まぁ、俺は優しいからな、大人しくしてりゃお前も猫も殺しゃしねぇよ――さあ、武器を地面に置いて跪け」

そう言いながら一歩づつゆっくりと迫ってくるリーダーの言葉に和哉は心の中で舌打ちする。
確かにこの状況では逆らう方が不利なのは明らかだった。

(くそっ!!)

和哉は内心で悪態を吐きながらも、言われた通りに弓を置いて跪き両手を上げた。
そんな和哉の前に立ったリーダーは、満足そうに頷きながら和哉の顎に手をかけ強引に上を向かせると、品定めをするかのようにジロジロと顔を見つめる。
せめてもの抵抗でギッと睨み返す和哉にリーダーは下卑げひた笑みを深くして舌なめずりをする。

「ほぉ……近くで見ると益々良い面構えしてるじゃねぇか……それに器量も良い、こりゃあ高値で売れそうだな」

そう言いながら間近まで顔を近づけるリーダーに和哉は全身に鳥肌が立つのを感じた。
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