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第32話 故殺
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(うげ!?気持ち悪っ!!)
思わず吐き気を催しながらリーダーの臭い息から和哉が顔を背けようとした時だった。
凄まじい殺気と共にゴウッと旋風が走り、目の前の男が消えたかと思った次の瞬間、和哉は自分の後ろから聞こえる男の絶叫に驚き振り返る。
そこに立っていたのは血塗れの剣を持ったギルランスの姿だった。
片手でリーダーの頭を鷲掴みにしているギルランスの足元には、首の無い胴体が転がっていた。
(ギ、ギル……!)
その光景を見た瞬間、和哉は目の前の現実にゾクリと背筋を震わせた。
周囲の窃盗団の男たちは、突然の出来事に一瞬呆気にとられていた様子だったが、リーダーの頭部が無造作に捨てられたのを皮切りにパニック状態となった。
「なっ、なんだてめぇは!?」
「お頭がやられたぞ!?」
「くそっ!相手は一人だ!やっちまえ!!」
男たちは口々に叫びながらギルランスを取り囲むと、一斉に襲い掛かった。
その様子を無言のまま見つめていたギルランスの目が鋭く光る――カッと目を見開き口角を上げ不敵に笑ったかと思うと、次の瞬間、彼の姿はかき消え……残像すら残らない速度で男たちの間を駆け抜けた。
「ぎゃあ!」
「ぐぇっ!」
「がぁっ!」
断末魔のような叫び声と共に血飛沫が舞い、和哉の目に映ったのは倒れ伏す男たちの姿と、悪鬼のような形相で剣を振り下ろすギルランスの姿だった。
(あの時と同じだ……!)
和哉はそのギルランスの姿を見た途端、あのガラク村での彼の姿を思い出していた。
それは、とても美しく恐ろしく、それでいてどこか哀愁を感じさせるような光景であった……。
あっと言う間の殲滅劇に、最後の一人となった窃盗団の男が恐怖に顔を引きつらせながら「ひいっ!」と叫び声を上げる。
そして一目散に倉庫から逃げ出そうとするが、男の前には音も無く表れたギルランスが立ちふさがっていた。
「――おい、どこへ行くつもりだ?」
凶悪な笑みを浮かべたギルランスは男の行く手を阻むと、その肩にポンッと手を置いた。
「ひっ!?ひぃぃ~~!!」
逃げ出そうとした男は腰が抜けてしまったようで、その場にへたり込んでしまった。
ギルランスは完全に戦意を喪失している男の首筋に剣を突き付けて冷酷な眼差しを向ける。
「つまんねぇ奴らだな……」
独り言のようにボソリと呟くと、そのまま容赦なく男の首を刎ねた。
飛び散る鮮血を浴びながらも表情一つ変えず佇む姿はまさに悪魔の化身そのものであった――。
その光景に和哉は思わず目を背けた。
ドサリ、という音を最後に、倉庫の中は一瞬にして静まり返った。
ソロリと目を開けた和哉が辺りを見回せば、先ほどまで騒がしかった盗賊団たちは全員血の海の中に倒れ伏している。
死屍累々といった様相の中、一人佇むのはもちろんギルランスだった。
「ギ、ギル……?」
震える声で呼びかける和哉に、ギルランスは血濡れた顔で琥珀の瞳だけをギロリと動かして視線を寄越す。
(……ああ、この目だ……!)
和哉の背筋にゾクゾクするような感覚が襲う――。
それが恐怖なのかはたまた別の感情なのかは自分でも分からなかったが……和哉はなぜかその琥珀に釘付けになったまま動けなくなっていた。
だが、それも束の間――そんな和哉の様子にギルランスは一瞬だけ眉を顰めると、すぐにいつもの顔に戻って和哉の元に歩み寄る。
「カズヤ、大丈夫か?」
先程の恐ろしい姿が嘘のように優し気な声色に和哉は安堵し、ほっと息を吐きながら頷いた。
「う、うん、ありが――!?」
立ち上がり礼を言おうとした和哉だったが、ギルランスはそれを遮るように腕を掴んだかと思うと、そのまま引き寄せ和哉を抱きしめた。
突然の出来事に和哉は目を白黒させる。
(うわ!?ギ、ギル??)
抱きしめられた腕の力は強く、和哉は抵抗することもできず身動きが取れなかった。
目を見開いたままギルランスの胸元に顔を埋めるような格好で固まっている和哉の耳元で「はあ~」と安堵の溜め息が漏れた。
そしてギルランスは絞り出すような声で言葉を続ける。
「……無事で、よかった」
その一言に込められた感情に和哉は胸がキュッとなるのを感じた。
(ギル……こんなにも心配してくれてたんだ……)
和哉はギルランスの背に腕を回すと、彼の胸に顔を押し付けるようにしながら囁いた。
「うん……助けてくれてありがとう……」
その言葉にギルランスからの返事はなかったが、かわりに少しだけ抱き締める腕に力が込められたような気がした。
そんなギルランスの優しさに和哉は頬を緩めながらも、頭の片隅では彼の持つ二面性について考えていた。
(この、ギルの不安定な感じはいったい……?でも……)
和哉はギルランスが時々見せる狂気的な一面に戸惑いつつも、それも含めて彼の全てを受け入れ、信頼し尊敬していた。
それが、推しキャラに対する単なる”憧れ”からくる感情なのか……まだ和哉自身にも分かっていなかった。
ただひとつだけ確かなのは、ギルランスの傍で彼を支えていける存在でありたいと心から思っていることだけだった。
(ギルがどんな人間だって構わない……僕はこの人を支えていけるように強くならないとな)
そんな決意を胸に、和哉がギルランスの背中に回した腕に力を込めると、それに気付いて我にかえったのか、ギルランスは「――あ、わりぃ!」と言いながら慌てて腕を解いた。
「す、すまん、お前まで血で汚れちまったな……」
バリバリと頭を掻きながら気まずそうな顔を向けるギルランスに、和哉はフフッと笑いを漏らしながら首を振る。
「気にしないでよ、それより子猫見つけたよ!」
そう言いながら和哉はケージの側に歩み寄ると、扉を開けて中から子猫を抱き上げた。
「この子だよね?」
白い毛並みにオッドアイズの子猫は、和哉の腕の中で安心したように目を細めている。
ギルランスは和哉が抱き上げた子猫の顔を覗き込みながら確認すると、短く「ああ」と頷いた。
和哉はホッと息を吐くと、フワフワと柔らかな子猫に頬を摺り寄せる。
「よかった~、もう大丈夫だからな~」
安心させるように優しく声をかける和哉に返事をするように、子猫はゴロゴロと喉を鳴らしながらペロペロと頬を舐める。
「フフ……くすぐったいって」
笑いながら子猫とじゃれ合う和哉の様子に、ギルランスも僅かに口元を綻ばせていた。
****
****
その後、ペットショップへ子猫を届ける為に歩いていたのだが、和哉は腕の中の子猫がしきりと「ミャーミャー」と鳴いているのに気付く。
不思議に思って子猫の顔を覗くと何かを必死に訴えているように見えた。
試しに耳を近づけてみると小さな声で『お腹空いた』と言っているような気がする。
(お腹が空いてるのか……でもこんな所で何をあげればいいんだろう?)
そう思いながら周りを見回すと、一軒の雑貨店が和哉の目に入った。
「ギル!この子をお願い!」
和哉から唐突に鼻先に子猫を押しつけられたギルランスはギョッとながらも反射的に子猫を受け取る。
「お、おい!?」
戸惑うギルランスに構わず、和哉は「ちょっと待ってて」と、そのまま雑貨店へと駆け出していった。
急いで店内に入り何かないかと探すと、ちょうど『猫用ミルク』と書かれた瓶を見つけたのでそれと器になりそうな皿を手に取り会計を済ませる。
店を出て早足で戻った和哉は、子猫を抱え複雑な顔をしたまま立っているギルランスに声を掛けた。
「お待たせ!急にごめん」
「いや……別に構わねぇけど……」
怪訝そうな顔のギルランスから子猫を受け取った和哉は、近くのベンチに腰を掛けると先程買ったミルクを器に入れて子猫に与えた。
「お腹空いてるんだよね、さあ、どうぞ!」
するとよっぽどお腹が空いていたのだろう、子猫はすぐに勢いよく飲み始めた。
その様子を見ていたギルランスは和哉の横に座ると、不思議そうに首を傾げて和哉に尋ねた。
「お前、なんで分かったんだ?」
その質問の意味が分からなかった和哉はキョトンとした表情で聞き返す。
「え?何が?」
「いや、コイツが腹が減ってるって……」
「う~ん、なんか、そう言って鳴いているように感じたんだよね」
和哉の言葉にギルランスは一瞬目を開いた後、しばらく考え込む様子を見せたが、やがて何か思い至ったのかニッと笑みを浮かべる。
「……たぶんそれ、お前のスキルの一つだろな」
「えっ!?僕のスキルって……まだ何も覚えて無いんじゃ……?」
「ああ、だから多分だ。お前の持つ能力の中に【言語理解】とか言うやつがあるだろ?そいつの効果じゃねえか?」
そう言われればそんな能力が書かれていた事を思い出す。
和哉自身、自分では全く実感はないのだが、それでも少しづつ成長出来ているのだとしたら嬉しくなる。
(そっか~、なんか嬉しいな~)
和哉は嬉しさに顔を緩ませながら、子猫に目を向けた。
ミルクを飲み終え子猫はすっかり満足したようで、前足を使って一生懸命顔を洗っている。
その愛らしい姿に思わず頬を緩める。
和哉が子猫の頭を優しく撫でると、子猫は気持ち良さそうに喉をゴロゴロと鳴らした。
(カワイイなぁ……ヤバい、離れがたくなりそ……)
そんな和哉の心境を察知したのか、ギルランスは「おい、そろそろ行くぞ」と声を掛けると立ち上がった。
「早いとこ、依頼主に返さねぇとな」
そう言われ、和哉としては名残惜しい気持ちはあったが、このギルランスの言葉の裏に潜む意図にも気づいていた。
依頼主への気持ちもあるが、もう一つ、”冒険者”という職業柄、ペットを飼う事は難しいという現実があるのだ。
おそらくギルランスはもうこれ以上和哉がこの子猫に愛着を持ってしまわないように、敢えて早く返却しようと提案しているのだろう。
「そうだね……早く返してあげよう」
少し寂しい気持ちを抑えつつ、和哉はギルランスの気遣いに感謝しながら微笑み頷くと、再び子猫を腕に抱いて立ち上がった。
――ココットペットショップ
「おお!この子です!間違いありません!!」
子猫を受け取ったトーマスは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ありがとうございます!本当にありがとうございました!」
何度も頭を下げて礼を言いながら子猫を抱きしめるトーマスに、和哉は照れ臭そうに笑うと隣に立つギルランスを見上げる。
その視線に気付いたギルランスも小さく微笑んだ。
「良かったですね、子猫も無事で」
和哉の言葉にトーマスは子猫を抱き上げながら「ええ、本当に……」と感慨深げに呟くと、改めて「この子はもう売りに出さず、大切に育てることにします」と微笑みながら言った。
その言葉を聞き、和哉はホッと胸を撫で下ろした。
(きっとこのお店の看板猫として幸せになれるだろうな……)
和哉は最後にもう一度子猫の頭を撫でると、ギルランスと共に店を後にした。
思わず吐き気を催しながらリーダーの臭い息から和哉が顔を背けようとした時だった。
凄まじい殺気と共にゴウッと旋風が走り、目の前の男が消えたかと思った次の瞬間、和哉は自分の後ろから聞こえる男の絶叫に驚き振り返る。
そこに立っていたのは血塗れの剣を持ったギルランスの姿だった。
片手でリーダーの頭を鷲掴みにしているギルランスの足元には、首の無い胴体が転がっていた。
(ギ、ギル……!)
その光景を見た瞬間、和哉は目の前の現実にゾクリと背筋を震わせた。
周囲の窃盗団の男たちは、突然の出来事に一瞬呆気にとられていた様子だったが、リーダーの頭部が無造作に捨てられたのを皮切りにパニック状態となった。
「なっ、なんだてめぇは!?」
「お頭がやられたぞ!?」
「くそっ!相手は一人だ!やっちまえ!!」
男たちは口々に叫びながらギルランスを取り囲むと、一斉に襲い掛かった。
その様子を無言のまま見つめていたギルランスの目が鋭く光る――カッと目を見開き口角を上げ不敵に笑ったかと思うと、次の瞬間、彼の姿はかき消え……残像すら残らない速度で男たちの間を駆け抜けた。
「ぎゃあ!」
「ぐぇっ!」
「がぁっ!」
断末魔のような叫び声と共に血飛沫が舞い、和哉の目に映ったのは倒れ伏す男たちの姿と、悪鬼のような形相で剣を振り下ろすギルランスの姿だった。
(あの時と同じだ……!)
和哉はそのギルランスの姿を見た途端、あのガラク村での彼の姿を思い出していた。
それは、とても美しく恐ろしく、それでいてどこか哀愁を感じさせるような光景であった……。
あっと言う間の殲滅劇に、最後の一人となった窃盗団の男が恐怖に顔を引きつらせながら「ひいっ!」と叫び声を上げる。
そして一目散に倉庫から逃げ出そうとするが、男の前には音も無く表れたギルランスが立ちふさがっていた。
「――おい、どこへ行くつもりだ?」
凶悪な笑みを浮かべたギルランスは男の行く手を阻むと、その肩にポンッと手を置いた。
「ひっ!?ひぃぃ~~!!」
逃げ出そうとした男は腰が抜けてしまったようで、その場にへたり込んでしまった。
ギルランスは完全に戦意を喪失している男の首筋に剣を突き付けて冷酷な眼差しを向ける。
「つまんねぇ奴らだな……」
独り言のようにボソリと呟くと、そのまま容赦なく男の首を刎ねた。
飛び散る鮮血を浴びながらも表情一つ変えず佇む姿はまさに悪魔の化身そのものであった――。
その光景に和哉は思わず目を背けた。
ドサリ、という音を最後に、倉庫の中は一瞬にして静まり返った。
ソロリと目を開けた和哉が辺りを見回せば、先ほどまで騒がしかった盗賊団たちは全員血の海の中に倒れ伏している。
死屍累々といった様相の中、一人佇むのはもちろんギルランスだった。
「ギ、ギル……?」
震える声で呼びかける和哉に、ギルランスは血濡れた顔で琥珀の瞳だけをギロリと動かして視線を寄越す。
(……ああ、この目だ……!)
和哉の背筋にゾクゾクするような感覚が襲う――。
それが恐怖なのかはたまた別の感情なのかは自分でも分からなかったが……和哉はなぜかその琥珀に釘付けになったまま動けなくなっていた。
だが、それも束の間――そんな和哉の様子にギルランスは一瞬だけ眉を顰めると、すぐにいつもの顔に戻って和哉の元に歩み寄る。
「カズヤ、大丈夫か?」
先程の恐ろしい姿が嘘のように優し気な声色に和哉は安堵し、ほっと息を吐きながら頷いた。
「う、うん、ありが――!?」
立ち上がり礼を言おうとした和哉だったが、ギルランスはそれを遮るように腕を掴んだかと思うと、そのまま引き寄せ和哉を抱きしめた。
突然の出来事に和哉は目を白黒させる。
(うわ!?ギ、ギル??)
抱きしめられた腕の力は強く、和哉は抵抗することもできず身動きが取れなかった。
目を見開いたままギルランスの胸元に顔を埋めるような格好で固まっている和哉の耳元で「はあ~」と安堵の溜め息が漏れた。
そしてギルランスは絞り出すような声で言葉を続ける。
「……無事で、よかった」
その一言に込められた感情に和哉は胸がキュッとなるのを感じた。
(ギル……こんなにも心配してくれてたんだ……)
和哉はギルランスの背に腕を回すと、彼の胸に顔を押し付けるようにしながら囁いた。
「うん……助けてくれてありがとう……」
その言葉にギルランスからの返事はなかったが、かわりに少しだけ抱き締める腕に力が込められたような気がした。
そんなギルランスの優しさに和哉は頬を緩めながらも、頭の片隅では彼の持つ二面性について考えていた。
(この、ギルの不安定な感じはいったい……?でも……)
和哉はギルランスが時々見せる狂気的な一面に戸惑いつつも、それも含めて彼の全てを受け入れ、信頼し尊敬していた。
それが、推しキャラに対する単なる”憧れ”からくる感情なのか……まだ和哉自身にも分かっていなかった。
ただひとつだけ確かなのは、ギルランスの傍で彼を支えていける存在でありたいと心から思っていることだけだった。
(ギルがどんな人間だって構わない……僕はこの人を支えていけるように強くならないとな)
そんな決意を胸に、和哉がギルランスの背中に回した腕に力を込めると、それに気付いて我にかえったのか、ギルランスは「――あ、わりぃ!」と言いながら慌てて腕を解いた。
「す、すまん、お前まで血で汚れちまったな……」
バリバリと頭を掻きながら気まずそうな顔を向けるギルランスに、和哉はフフッと笑いを漏らしながら首を振る。
「気にしないでよ、それより子猫見つけたよ!」
そう言いながら和哉はケージの側に歩み寄ると、扉を開けて中から子猫を抱き上げた。
「この子だよね?」
白い毛並みにオッドアイズの子猫は、和哉の腕の中で安心したように目を細めている。
ギルランスは和哉が抱き上げた子猫の顔を覗き込みながら確認すると、短く「ああ」と頷いた。
和哉はホッと息を吐くと、フワフワと柔らかな子猫に頬を摺り寄せる。
「よかった~、もう大丈夫だからな~」
安心させるように優しく声をかける和哉に返事をするように、子猫はゴロゴロと喉を鳴らしながらペロペロと頬を舐める。
「フフ……くすぐったいって」
笑いながら子猫とじゃれ合う和哉の様子に、ギルランスも僅かに口元を綻ばせていた。
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その後、ペットショップへ子猫を届ける為に歩いていたのだが、和哉は腕の中の子猫がしきりと「ミャーミャー」と鳴いているのに気付く。
不思議に思って子猫の顔を覗くと何かを必死に訴えているように見えた。
試しに耳を近づけてみると小さな声で『お腹空いた』と言っているような気がする。
(お腹が空いてるのか……でもこんな所で何をあげればいいんだろう?)
そう思いながら周りを見回すと、一軒の雑貨店が和哉の目に入った。
「ギル!この子をお願い!」
和哉から唐突に鼻先に子猫を押しつけられたギルランスはギョッとながらも反射的に子猫を受け取る。
「お、おい!?」
戸惑うギルランスに構わず、和哉は「ちょっと待ってて」と、そのまま雑貨店へと駆け出していった。
急いで店内に入り何かないかと探すと、ちょうど『猫用ミルク』と書かれた瓶を見つけたのでそれと器になりそうな皿を手に取り会計を済ませる。
店を出て早足で戻った和哉は、子猫を抱え複雑な顔をしたまま立っているギルランスに声を掛けた。
「お待たせ!急にごめん」
「いや……別に構わねぇけど……」
怪訝そうな顔のギルランスから子猫を受け取った和哉は、近くのベンチに腰を掛けると先程買ったミルクを器に入れて子猫に与えた。
「お腹空いてるんだよね、さあ、どうぞ!」
するとよっぽどお腹が空いていたのだろう、子猫はすぐに勢いよく飲み始めた。
その様子を見ていたギルランスは和哉の横に座ると、不思議そうに首を傾げて和哉に尋ねた。
「お前、なんで分かったんだ?」
その質問の意味が分からなかった和哉はキョトンとした表情で聞き返す。
「え?何が?」
「いや、コイツが腹が減ってるって……」
「う~ん、なんか、そう言って鳴いているように感じたんだよね」
和哉の言葉にギルランスは一瞬目を開いた後、しばらく考え込む様子を見せたが、やがて何か思い至ったのかニッと笑みを浮かべる。
「……たぶんそれ、お前のスキルの一つだろな」
「えっ!?僕のスキルって……まだ何も覚えて無いんじゃ……?」
「ああ、だから多分だ。お前の持つ能力の中に【言語理解】とか言うやつがあるだろ?そいつの効果じゃねえか?」
そう言われればそんな能力が書かれていた事を思い出す。
和哉自身、自分では全く実感はないのだが、それでも少しづつ成長出来ているのだとしたら嬉しくなる。
(そっか~、なんか嬉しいな~)
和哉は嬉しさに顔を緩ませながら、子猫に目を向けた。
ミルクを飲み終え子猫はすっかり満足したようで、前足を使って一生懸命顔を洗っている。
その愛らしい姿に思わず頬を緩める。
和哉が子猫の頭を優しく撫でると、子猫は気持ち良さそうに喉をゴロゴロと鳴らした。
(カワイイなぁ……ヤバい、離れがたくなりそ……)
そんな和哉の心境を察知したのか、ギルランスは「おい、そろそろ行くぞ」と声を掛けると立ち上がった。
「早いとこ、依頼主に返さねぇとな」
そう言われ、和哉としては名残惜しい気持ちはあったが、このギルランスの言葉の裏に潜む意図にも気づいていた。
依頼主への気持ちもあるが、もう一つ、”冒険者”という職業柄、ペットを飼う事は難しいという現実があるのだ。
おそらくギルランスはもうこれ以上和哉がこの子猫に愛着を持ってしまわないように、敢えて早く返却しようと提案しているのだろう。
「そうだね……早く返してあげよう」
少し寂しい気持ちを抑えつつ、和哉はギルランスの気遣いに感謝しながら微笑み頷くと、再び子猫を腕に抱いて立ち上がった。
――ココットペットショップ
「おお!この子です!間違いありません!!」
子猫を受け取ったトーマスは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ありがとうございます!本当にありがとうございました!」
何度も頭を下げて礼を言いながら子猫を抱きしめるトーマスに、和哉は照れ臭そうに笑うと隣に立つギルランスを見上げる。
その視線に気付いたギルランスも小さく微笑んだ。
「良かったですね、子猫も無事で」
和哉の言葉にトーマスは子猫を抱き上げながら「ええ、本当に……」と感慨深げに呟くと、改めて「この子はもう売りに出さず、大切に育てることにします」と微笑みながら言った。
その言葉を聞き、和哉はホッと胸を撫で下ろした。
(きっとこのお店の看板猫として幸せになれるだろうな……)
和哉は最後にもう一度子猫の頭を撫でると、ギルランスと共に店を後にした。
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